悪い予感
「すごい……!まるで風になったみたい!」
窓に目いっぱい顔を近づけて、興奮気味にリナが言う。
リナと2人で旅をすることになった俺は、とりあえずの目標、街に向かって走行中だ。
車はさっきと同様ハンヴィー。
リナが言うには森を抜けた先にある草原の真ん中に、一つ大きな都市があるらしい。
「今はこれ以上出せないけど、草原ならもっと速くできるぞ」
「これ以上速くなるの!?クルマって凄いんだね!」
今はまだ森の獣道。
最高速度は100km程度まで出せるハンヴィーだが、道が道なので、まだ40kmしか出せてない。
……早く森を抜けたいものだ。
そう思うのは何もスピードが出せないからだけじゃ無い。
先ほどから視界の端にチラチラと映る黒い影。動物のような姿をしてるし、魔物だろうか?
どうやら襲ってくるってことは無さそうだが、見える程度の近さまでは近づいている。
しかも、数が多い。
リナと会う前は影すら見えなかったのに、こうも出てこられると何か起きそうな予感がしてならない。
そして、そんな予感がした時は大抵的中してしまうものなのだ。
「これだけ速いなら街までもすぐ着いちゃうかも。ドラゴンより速いんじゃ無いかな?」
「ドラゴン?」
「うん、私も見たこと無いんだけど、翼があって、すごく凶暴で、火の玉を吐くこともできるんだって。本当に偶にしか現れないんだけど、現れた時には街が一つ滅んじゃうって伝説もあるくらい」
「そりゃ凄い。やっぱりデカイのか?」
「うん、すごくおっきいらしいよ。あ、ちょうどあそこを飛んでる魔物と同じくら……い……」
そう言ってリナの指す方。
木々の隙間から見える空に一つの黒い影。
姿はかなりの大きさで、翼をはためかせ、こちらに近づいてくる。そのシルエットはファンタジーの代名詞とも言える、ドラゴンそのものだった。
「なぁ、リナ」
「なに?トーヤさん」
「……あれってドラゴンか?」
「た、たぶん、そう」
「こっちに来てるな」
「一直線に来てるね」
「逃げなきゃヤバいよな」
「かなりヤバいと思う」
直後、轟音。
距離はまだ離れているが、ドラゴンは空気を震わせるほどの咆哮の後、こちらに突進してきた。
「あれはヤバい!絶対にヤバい!」
アクセルを踏み込む。
先ほどよりも激しい振動が車内を襲うが、そんなの気にする暇がない。
ドラゴンは思った以上に速く、バックミラーに映る影は徐々に大きくなる。
「トーヤ!ドラゴンが何か吐き出したよ!」
後ろを見てくれているリナが教えてくれる。
見なくてもわかる。ブレスが来る……!
俺はハンドルを切り、回避を試みる。
そして、爆音。
車体が傾くほどの爆風の後、着弾点を見ると……木々が跡形もなく消し飛んでいた。
……威力はんぱねぇ。
そんな小学生並みの感想を思いながら、アクセルを踏み続ける。
「また来る!」
そしてリナが叫ぶ。
それと同時に、前方に見える開けた場所。
やっと草原が見えた。
俺はアクセルを全開に踏み込み、一直線に草原へ抜けようとする。
またもや爆音。
真後ろのギリギリに着弾点したであろうブレスの爆風は、車体を押し出し、宙に舞った。
だが、森から脱出できた。
「きゃっ!」
着地の衝撃でリナがこちらに倒れてくる。
二つの柔らかな感触が腕から伝わるが、それを楽しんでいる暇もない。
俺は後ろから追いかけてくるドラゴンを見る。
アクセル全開のハンヴィーに追いついてはいるが、距離を一気に縮めることはできないようだ。
「リナ。ちょっとだけ運転代わってもらえる?ここ踏んでハンドルをまっすぐ握るだけでいいから」
「えっ?あっ、うん。わかったけど、トーヤは?」
もちろんやることは決まってる。
俺はリナと運転席を交代し、銃座に立つ。
そこにあるのはブローニングM2重機関銃。
ハンドルを引いて12.7mmの弾丸を薬室に送り出し、銃口を後ろに向けて、そのまま射撃。
ダダダダッと重く響く銃声と共に弾丸がドラゴンに着弾する。
「グオァッ!?」
結果は、有効。
弾丸は鱗を削り、ドラゴンの体からは血が流れた。
「さぁ、反撃開始だ!」
広い草原で、現代兵器によるドラゴン討伐が始まった。
リナはCです。程よい大きさが一番だと思ってます。