記憶
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家に帰ると女は居なかった
そこにいたという形跡すら確認できない程に
女の存在はなかった
女のものは全て片づけられ
まるで一人で生活していたかのような状態であった
それは不自然さのない、自然な状態であった
一式しかない布団、一人分の溜まった洗濯、一人分の食器
そこには女の匂いすら感じられなかった
僕は部屋を間違えてしまったのだろうかと不意に思った
しかし、部屋のカギをあけて入ったはずなので間違えるはずがない
どうしたことだろうか、僕はただ眺めることしか出来なかった
女のいなくなった檻の中を
プレゼントとして買った花束が手から滑り落ちる
何があったのだろう
僕はここで女と過ごしていたはずだ
そんな当たり前のことに確信が持てなかった
本当に僕は女と過ごしていたのか
わからない
私はなにをしていたんだ
この花束は何の為に買ったのか
わからない
思い出そうと記憶を探ると消え、また思い出そうとしては消える
そうするうちに、なにを考えていたのかすら
思い出せなくなっていた
しばらく、その場で呆然としていると
後ろから声をかけられた
「洋子さん、玄関でなにをしているのですか?中に入ってご飯を作りましょう?」
完結は決めていたのですが
収まり方が決まりませんでした
文章を追加しちゃいます。