暗い…でも少しだけ水が暖かいところ
久々の更新でした。
桜が舞う。
四月に桜が舞う。
細かなことは忘れてしまったのだけれど、覚えているのは彼女の言葉とさくらの花の色。
その日は学校が早く終わる日だったようで、おれはその娘と少し遠回りして帰ったんだ。
通学路から少し外れると、川が流れていて、その河原は桜並木の遊歩道になっていたんだ。
彼女が
「さくらがみたい。」と言っていたのをよく覚えている。
「桜は好き。寒い冬が終わったのを一番よく感じさせてくれるから。このピンク色が、心をとても暖かく、明るくしてくれるんだ。」 そんなことを話してた。
その娘はちょっと変わった娘で。とても、大人びていた。ここでいう『大人びていた。』 は、普通とはちょっと違って、なにか最早、世界を達観していて、悟りと言うと大袈裟だけれど、それにちかいものを『見つけてしまった』。そんな娘だったんだ。
しばらく、並木を歩いていると、彼女は突然聞いて来た。
「今、どんなこと考えてるの?」
おれは確か正直に応えた。
「…君の事。」
「…ふうん。」
彼女は恐らくこの言葉だけでおれの気持ちをある程度察していた。
「…君は男の子だからねえ。」
「…あたりまえだろ。」
「…でも、子供だからねえ。」
「…子供?それは…どういう意味で?」
「どういう意味だと思う?」
この核をつかない遠回しな会話。けれど、二人の間には何かがあって、その会話は充分に成立していたんだ。
「…君は男の子だからねえ。」
彼女はまるでおれを子供扱いだった。世界が見え過ぎているあの娘にとって、むしろおれの子供っぽさは羨しく思えたのだろうか。
…おれが早く大人になりたかったように。
おれはそんな彼女にいいだけ甘えていた。
二人は一緒にいたけれど、二人の見るもの、見たいものは違っていた。…でも、だからこそ、そこにはやらかい気持ちが芽を出していたんだよ。
自分とは違うからこそ、惹かれるものがある。自分と共通するからこそ、惹かれるものもある。
侮辱を寵愛に換え、コンプレックスすら好きになる。
それは大人びた彼女の力?子供じみたおれの力?
「先へ進むことはそんなに大事なこと?」
ある日その娘がおれに訊いて来た。
「物事が早く進むとね、結末が早くやって来る気がするの。だから…いまはまだ、ここにいたいの…。」
おれは先を急ぎ過ぎていた?
僕は先を急ぎ過ぎていた?
『僕』はなにか結果みたいなものを求めてしまっていた。
それは『結果』とは言わないことをわかっていたのに。
僕は愛に焦らされていた。
それがただそのままでそこにあるだけで満足出来ると云う歌もあったけれど。確かにそれはいつの間にか僕と誰かを包むものだけれど。
それがただ僕らを包むだけではだめだったんだよ。
「どうしてかな?」
わからない。わからない。何かの歌にでてきそうな綺麗な言い方をすれば、愛を育てたかったのだろうか…そう言うことだったのだろうか。
「そうだね、そんな言われ方もすることがあるね。」
でも、その歌を書いた人もまた、僕と同じように、結果を求めてしまっていたのだろうか。
膨らませた愛の結果を。
僕だけ?
僕だけじゃない?
「知る術はないよ。でも、別に他人と同じであること、あるいは他人と『僕』が違うことに、どれ程の意味があるんだろう?」
違い…。
愛に包まれるの違い…。
違うのかも、同じなのかも知れないそれはでも、確かに僕らや人々を包みこむらしい。
人の心の中にあるのに、人の心を包みこむらしい。
くじらは深いのに暖かい水の中に漂う。
もうあまり光は届かないけれど、そこは、(まだ?)、暖かかったんだよ。
ありがとうございました




