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かくれんぼはショッピングモールの中で 序章 みんなどこにいったんだ?

クレープ。薄い生地に生クリームやチョコクリーム、フルーツなどを乗せて巻くという簡単なスイーツだ。


「私、このスペシャルロイヤルフルーツフェスティバルがいい」


とルシアが指したのは、フルーツがなんと七種類ものった、俺でも半月に一回買うぐらいの店で一番高くて美味しい贅沢クレープだった。


「くぅ〜、これで上半期のフルフェスは無しか…」


フルフェスと言うのはスペシャルロイヤルフルーツフェスティバルを略したもので全国のクレープ愛好家達にも広まった略語だ。


「はいよ、嬢ちゃん。フルーツを落とさないように気をつけてね」


クレープ屋の店主からフルフェスを受け取ったルシアは目を輝かせながらどこから食べようかと眺めている。


かという俺も定番のチョコバナナを口に頬張る。濃厚なチョコとバナナが織り成すハーモニー。最高だった。


「はいっ……」


と言って差し出してきたのはフルフェスだった。


「ちょっとお腹いっぱいになっちゃったから一口あげる」


「そうか。お腹いっぱいか。じゃあ、貰うわ」


と言って一口食べる。うん、フルーツ七種類の味がする。美味しい。それにしても、味な真似をしやがる。


「わぁあ…。緋色食べ過ぎ〜。見てよこれ、緋色が食べたから半分になったじゃん。おぉ〜、私のクレープ…可哀想、私が美味しく食べてあげるからね…」


……。俺が美味しく食べてないみたいな言い方すんなっ。美味かったわ。まぁ、俺も少し大人げなかったな。


「仕方ねぇ。ほれ! 俺のクレープやるよ」


「わぁ、ありがとう」


クレープくれたのに、予想外の量を食べられ、しおらしくなった姿からパァっと再び元気になる。


やれやれ、面倒な奴だ。


「ねぇねぇ、次どこ行くの?」


「そうだなぁ……」


「ルシア、どっか行きたい所無いの?」


「え? 私が決めていいの? だったら水族館って所行きたい」


「水族館か…。久しぶりにいいかもな。行ってみるか」


次の目的地は水族館に決まった、のだが……。


「は? 臨時休業…」


「ついてないな。臨時休業なんてそう簡単に出会えるもんじゃないぞ。ルシア、おまえ逆に持ってるんじゃないか。ぷーくくくく、あっはっは」


「何? 臨時休業って何ですか。私に恨みでもあるんですか。てか、緋色。笑ってる場合? 水族館はどうするのっ!」


「えっ、諦めるしかないだろう。休みなんだから」


「いーやーだ。行きたいぃ。イルカとか魚とか見ーたーい」


「ほらー、行くぞー」


「いーやーだ。イルカと遊ぶのー!」


下手に乗ってりゃ、あーだこーだ駄々こねやがって。


「おい! いつまでそうやってるつもりだよ。開いてないものはダメなんだよ! おら、行くぞ」


地べたに寝そべり、駄々をこねるルシアを無理矢理引きずる感じで水族館を後にした。


さて、次はどこに行こうか。てか、ルシアと一緒にいたら体が持たんわ。


「……こうなったらショッピングモールに行きましょう」


いつの間にか立ち上がっていたルシアはいきなりそんな事を言ってのけた。


「え? まじ? 俺、カフェで休みたいんだ…けど」


ルシアの視線は俺ではなく、俺の後ろにあったショッピングモールの広告に向けられていた。


「タッチプール……。水族館がダメだった今、ルシアの中ではここが優先順位一位だろうな」


ルシアの様子をチラッと見る。……うん。これは行くことになりそうだ。


「さて、次の目的地はショッピングモールの4階、特設ステージのタッチプールよ。何とそこにはイルカもいるんですって。ワクワクしちゃうわ。こうしちゃいられない、すぐ行かなきゃ」


そう言ってルシアは鼻歌を歌いながら、一人でショッピングモールへとダッシュで向かっていく。


「お、おい! おーい、おーいルシアさーん。置いていかないでよー」


見えなくなりそうなルシアの背中を追いかけるべく、足をショッピングモールへと動かした。




ショッピングモールの中は大勢の人で溢れかえっていた。


「エスカレーターは……」


「こっちだ」


今思ったんだが、ルシアってやけに日本のことに詳しくないか。水族館やエスカレーターといい、魔界の住人がこちらの世界の事を知りすぎている。知りすぎて別に悪いわけではないが、どうやって知ったのかその過程がすごい気になる。


「緋色、こっちこっち」


「おう。今いくよ」


そんな事より、今は楽しむことに専念しよう。ようやく機嫌が直ったのだ、これ以上悪くなってたまるか。


「ちょっと、あれデートかしら」


「あの様子だと、付き合って数ヶ月ってところね。ウフフ、いいわね〜。昔を思い出しちゃうわ」


すぐ後ろから買い物途中と思われるご婦人たちの声が聞こえてきた。


絶対、俺たちのことだよな。そうか、他人から見るとデート……なんだ。


そう考えると、急にルシアを婚約者として意識してしまい直視出来なくなる。今まで何の気なしに見ていたけど、婚約したんだった。


「ちょっと何ぼおっとしてるの。気分悪い?」


そこへルシアが顔を覗かせてくる。


「うわぁ」


驚いた拍子に転んでしまう。昨日までは何ともなかったのに意識してしまったせいだと思う。


「大丈夫?」


ルシアが差し出して来た手を握って立とうとした時、


「レディースエーンドジェントルメーン、お待たせしました。壮大なるかくれんぼの始まりですっ! 深淵に染まれ 黒匣(ブラックボックス)。制限時間は三十分。それまでに見つけ出せばお二人の勝ちです。検討を祈っています」


と女の声がスピーカーから流れる。それと同時に辺りが急に闇に覆われたように真っ黒に染まっていく。


何だ!? 何が起きてる!?


状況の整理が出来ていない俺とルシアはその場に立ったまま動くことが出来なかった。


しばらくすると、真っ暗な闇が引き、元のショッピングモールの景色が目に入ってきた。しかし、そこは元いたショッピングモールではないことがすぐに判明した。


「あれだけいた、お客はどこに消えたんだ?」


そう、このショッピングモールには俺とルシアの二人しかいなかったのだ。

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