とある魔王の心配事。戦争やっちゃうか。
「なぁぁんですってぇぇぇぇぇ!?」
地の果てまで届きそうな切羽詰まった甲高いが響いた。
カツカツカツ。
早足で会議室へと向かうのは魔王ルカであった。そして、乱暴にドアを開くとそこには既に数人が作業を行っていた。デスクに地図を広げ物差しなどを使っている者、パソコンのキーボードを叩いている者と様々である。
「状況は?」
ルカは高そうな皮で作られた肘掛け椅子に座ると作業を仕切っている秘書の女性に進捗状況を訪ねた。
「今現在、探しておりますが、未だ所在は分かっておりません」
女性はバインダーに止められている報告書を読みながら魔王に状況を伝えた。
「そう…」
「お気を確かに、魔王様」
落胆する魔王を女性がなだめる。
「お嬢様は私どもが必ずや見つけます。ですから、魔王様は落ち込まないでください。魔王様が落胆されますと魔界全軍の士気が落ちます」
「……そうね、……魔界に伝令を」
パソコンの前にいた男が回転椅子をクルリと回しこちらを見た。
「軍に緊急事態警報を発令! 何としてもルシアちゃんを探すのよ!」
魔王が一喝する。
「了解!」
ルカからの命令を受けた男は再びパソコンと向き合い指示を出す。
「こちら、臨時司令部。魔王軍、全軍に通達! 繰り返す、全軍に通達!」
「こちら魔王軍本部!」
「たった今魔王様より緊急事態警報が発令された。数時間前よりお嬢様の姿が見えなくなったと専属運転手アザミより連絡があった。各軍、軍隊長を筆頭にルシアお嬢様を探し出せ! 場所はお嬢様が訪れる可能性がある場所全てである」
「本部、了解! 第一部隊を主軸として各軍を展開します」
「臨時司令部、了解」
伝え終わったのか再び男はルカの方へと振り向く。
「とりあえず、全軍が捜索に向けて動き出しました。これで心配は無いかと」
「分かったわ…」
ルカは机の上に手を組み、その手に頭を預けるような感じにうつむく。まるでルシアの無事を祈るように。
しかし、その後、いくら待とうが発見の報告はない。一時間、二時間と残酷にも時は過ぎていった。
「なぜだ。なぜ見つからない。なぜ……私の事が嫌いなの?」
ルカは会議場に設置されているモニターをただ儚く見つめていた。そして、静かに立ち上がるとゆっくりとした足取りで秘書の名前を呼ぶと会議室を後にし、自室へと篭った。
「なぜ、ルシアちゃんは見つからないの。家出? それとも誘拐? ど、ど、ど、どうすればいいのよ。ナギサ~、うわぁ〜ん」
親から借りた物を無くしてしまったように泣きじゃくりながらナギサの服を掴みながら頼み込む。
「何度も言うようですが、魔王様が一番落ち着かれていないと軍の指揮がとれません。あなたは魔王なのです。魔王がしっかりしないと誰が魔界を引っ張るのですか。…それと服を引っ張らないでください。伸びるじゃないですか、全く。泣き虫バカルカはピンチが訪れるといつもこうだ」
「…うん。しっかりする」
ナギサは重たいため息一つついた。「全く魔王様はいつまで経っても子どもだな」と小声で呟いた。
「ねぇ、ナギサ。さっきさぁ、何とかバカルカって言ってなかった?」
目の周りが赤く腫れ上がった顔を覗かせる。驚いたナギサは言ってないですよと手も交えて言うが、目は泳いでいた。
「ふーん、それなら良いけど」
ナギサはまた一つため息をついた。このままでは私の方がいつ不幸になるか分からない。魔王様には頑張ってもらわないと。
「ムムム〜こうなったらもうあいつらに頼るしかないか、いや、まだ方法が…。しかし、背に腹は変えられん。ん〜だが……しょうがないか。ルシアちゃんのためだもんね」
魔王が四苦八苦して救出方法を考えている最中、ナギサは嫌な予感が頭をよぎった。
(まさか、あの連中に助けを求めるのか? あの変人連中に)
「魔王様、その提案はもしや…」
「さっすが〜、ナギサちゃん。よく分かってらっしゃる。そう、ルカの直属の部下だよ」
さっきまで赤ん坊のように泣きじゃくっていたルカの姿は無かった。反対に余裕さが見てとれた。
「あの変人達ならお嬢様を見つけられるかもしれませんが、その地域に被害が出兼ねませんよ。特にあのお方が出迎えば」
「いいよ、どこに被害が出ようがルカの知ったことじゃない。ルシアちゃんを助け出せればオールオッケーなのよ」
そう言うとルカはスキップをしながら再び会議室へと向かった。
取り残されたナギサはさらにため息をついた。しかし、これがルカが下した判断だ。魔王は絶対的存在、故に従うしかないのだ。ナギサは持っていたバインダーに変人チーム作戦開始予定と記入した。
魔王ルカ・ルキフェル。ルキフェル家、長女にしてルシアの姉である。感情の起伏が激しく、泣き虫であり、シスコンであるが、非常に妹思いの王である。また、政治関係と家族関係で口調が異なる。秘書のナギサとは幼い頃からの友人であり、部下であり相互に頼れる存在である。
「妹の為になら被害が出てもいい……か。まぁ、そこがルカちゃんっぽさなんだけどね、ふふ」
ナギサは幼き頃のユーグリットと遊んでいた事を思い出しながらルカの元へと急いだ。
「あ、でも、やっぱりあの変人チームに頼るのはどうかと思うけどなー」