41話
屋敷には、まだ戦いの跡が生々しく残っている。
あれから三日、刻は学校から帰ってからの時間を、瓦礫の始末や粉塵まみれになった部屋の掃除に費やしていた。
今日の作業は、まるでちょっとした温泉施設のように広い脱衣場だ。
「おい。お前らもサボってねーで手伝えよ」
汗を拭いながら、瓦礫を積み木のようにして遊んでいるサンダース姉弟を窘める。
「ガミガミ言わないでヨ。修理業者呼べばいいのに。こんなボロボロになっちゃって、素人じゃ何十日かかるか分からないネ。いつまでも銭湯通いだヨ!」
ほとんどの原因を作ったハルが、人ごとのように怒った。
「半分以上お前のせいでこうなったんだろーが。業者に何て説明するんだよ『ダイナマイトで半壊しました』なんて言えねーだろ。呼ぶならもう少し片づけた後だ」
「でもさ! 今日英次さん帰ってくるよね。卒倒しないかな? 大丈夫かな!?」
「…………」
ジュリアに指摘され、刻はすっかり忘れていたことに気がついた。
「そうか、ジイさん今日帰ってくんのか……。面倒くせーな」
英次には何も説明をしていない。あれから一度だけ電話で話したが、『いろいろあったけど、帰ってからゆっくり話す』としか言っていなかった。旅行気分で帰ってきた祖父にとっては、これ以上ない歓迎のサプライズとなるだろう。
「皆さんお疲れ様です。お夕飯の下ごしらえ終わったので私も手伝いま…………あッ」
脱衣場の扉を開けて入ってきた椿が、長い脚で空のバケツを蹴飛ばした。宙を舞ったバケツは見ごとに刻の頭にヒットする。
「すっ、すすすすすすみません!」
「いや、大丈夫なんで。そっちの床拭いてもらえますか」
顔を真っ青にして土下座する椿に、刻は後頭部を押さえながら憮然と指示を出す。
「……はい」
元悪魔崇拝派の魔女は情けないほどしゅんとし、ぞうきん片手にとぼとぼと作業を始めた。