24話
「リン様……」
去って行く黒猫の後ろ姿を、椿は呆気にとられたように見守っていたのだが……。
「あっ」
急に何かを重大なことを思い出したような声を上げた。箱を台に置いて刻のもとに駆け寄ると、涙目で何度も何度も頭を下げる。
「刻さん! すみません。私バレたと思ってつい気が動転して……さっきはひどいことを」
どうやら完全に存在を忘れられていたらしい。刻が座り込んだまま呆れ顔で見上げると、椿の謝り癖は悪化した。
「すっすみません! 本当に、本当にすみません!」
「……もういいんで、ちょっと落ち着いてください」
いきなり吹き飛ばされた時はさすがに驚いたが、パニックを起こして強硬手段に出たのだとしたら彼女らしいと言えるかも知れない。妙に納得し、刻の中で椿への疑念は晴れた。
それともうひとつ、椿を見方と信じる理由があった。
「あの、ひとつ聞いていいですか」
罵声を浴びせられるとでも思ったのか、椿が首をすくめて怯えている。
「な、何でしょう」
「俺達を爆発から助けてくれたのって椿さんですよね」
椿が魔女で、しかも敵でないと分かり――あの時の謎がようやく解けたのだ。ペンダントでもリンでもないとすれば、彼女しかいない。
予想外の質問にきょとんとする椿だったが、言葉の意味が分かるとはにかむように笑った。
「ええ。防護の魔法です。敵の魔力が強すぎて通用しませんでしたが、爆発による炎は魔力を持ちませんから……防げたんです」
自虐的に言いながら、椿は刻に片手を差しのべてくる。
その手を握り返すと、彼女はやさしく引き起こしてくれた。
「おい! ふたりでいつまでも何をやっておる」
遠くからリンに呼ばれ、刻と椿は急いで保管庫を出た。
「今行く」
「すぐに参ります!」