表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛べない魔女と、可愛くない執事くん  作者: ユユ
ふたつの魔女
23/44

22話


「刻くん、刻くん起きてっ!」


 誰かに強く肩を揺すられ、刻は目を覚ました。


「ん……」


 うずくまるような体制から顔を上げると、寝間着姿のジュリアが立っている。

 眠い目をこすって辺りを見渡し、書庫にいたのだと思い出した。

 肩と首が激しく痛む。


「……っ、あれから俺まで寝たのか。今何時だ?」


「もう朝だよ!」


「え」


 地下は相変わらず暗いので、まだ数時間しか経っていないと思っていた。だが日が昇った証拠に、黒猫姿のリンが刻の隣でまるまって眠っている。


「ねえ! それより大変なの!」


 ジュリアはいつになく落ち着きのない動作でおろおろしている。


「何だ。騒がしい」


 リンも目が覚まし、もぞもぞと起き上がりながら不機嫌な声で抗議した。


「椿ちゃんがいないの! 今、ハルがあちこち探してる」


「――!?」


 ジュリアの言葉に、寝ぼけ半分だった刻とリンは完全に覚醒した。


「馬鹿な。飲ませた薬は止血の作用だけだぞ、傷自体が治ったわけではない。起き上がるだけでも痛みに耐えられんだろうに」


たとえ何とか痛みが我慢できたとしても、まだ自由に動きまわっていい状態ではない。せっかくふさがった傷が開いたら大変なことになる。


「何考えてんだ? 椿さんは」


 寝違えて痛む首をおさえて言う刻に、リンがはっと気づいたように声を上げた。


「まさか、気が動転して逃げ出したのではないか? あのように恐ろしい目にあったのだ。この家にいるのが怖くなったのかも知れん……」


 じゅうぶんにありえる話だった。


「とりあえず、俺達も探しに行くぞ」


「うむ」


「うん!」


 刻達三人は地下室を飛び出た。




 

 ジュリアとリンに二階を任せ、刻は一階を探すことにした。


「いないな……」


 大部屋、厨房、洗面所を確認したが、椿の姿はない。こういう時、広い家というのは不便だ。


「まさか、外に出たんじゃ」


 念のため庭も見ようと玄関に向かった次の瞬間、ガタンと何かが倒れる音が聞こえた。


「……?」


 音の方を振り返る。視線の先には薬の保管庫があった。


 そんなところに椿がいるはずもないと思いつつも、刻はそちらに向かう。近くまでくると扉の向こうで人の気配を感じた。


「椿さん?」


 そっと扉を開ける。

 書庫に比べて小さめの保管庫。全体を見まわすと、探し人はすぐに見つかった。


「こんなところで何してるんですか」


 椿は薬が大量に並んだ棚を向いていたため、その背中に声をかける。


「刻さん……」


 驚いたように振り向いた彼女の表情を見て、刻は違和感を覚えた。なぜか一瞬だけ睨まれた気がしたのだ。昨日の朝、笑顔で「おはようございます」と言った時とはまとっている空気が別人のような……。


「早く部屋に戻って寝てください」


 様子が変なのは怪我のせいだろうと思い直し、きちんと休ませるべく彼女を連れて行こうと近づいて――――気がついてしまった。

 大怪我をしたはずの、まだ痛むであろう肩側の左腕に、大きくて重そうな瓶を抱えているのを。


「痛く、ないんですか。肩……。それに、こんなところで何やってたんですか?」


 刻の問いに椿は何も答えず、ふたりはしばし無言で睨みあう形になった。


「見なかったことにしてください。……そう言っても駄目ですよね」


 あきらめの色をにじませた表情でふっと笑うと、椿は刻に向かって右手を伸ばした。


「――!?」


 何が起きたのか、まったく分からなかった。

 ただ、椿が手をこちらにかざしたと思った次の瞬間には、壁に叩きつけられていたのだ。


「ケホッ」


 その場に倒れた刻は、小さく咳きこんで顔を上げる。

 悲痛な面持ちの椿と目があった。


「ごめんなさい」


 消えそうな声で謝り、彼女はもう一度手を伸ばす。


「……!」


 そして指揮者のように腕を振り上げると、その動きに合わせるように、刻の身体は意思とは関係なしに立たされた。不自然に直立したまま、今度は壁に引き寄せられるように強く押し付けられる。


「ぐ……!」


 まるで金縛りのように動けない。

 椿は右手をこちらに向けたまま、台にのせた木箱の中に薬の瓶を入れていく。



(何で椿さんが……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ