21話
日本ではないどこかの国――。
とある廃墟の中、窓から差し込む月明かりに浮かび上がる、ふたつの人影。
「エ、エレナもうやめて……!」
尻もちをついて後ずさる小柄な女は、徐々に距離を詰めてくる黒コートの女に懇願した。
「そうはいかないわ、バフォメット様との約束だもの」
エレナと呼ばれた黒いコートの女は、感情の薄い声で答えながらじわじわと小柄な女を壁際に追い込んでいく。
「こんなの馬鹿げてるよ! いくらバフォメット様の指示でも、せっかく生き残った仲間同士で殺し合うなんて」
「馬鹿ですって!?」
エレナはヒステリックに怒鳴り、小柄な女のすぐ後にある壁を蹴った。
「ひっ」
めり込んだ足を壁から離すと、エレナのブーツから壁材の破片がパラパラと床に落ちる。
「あのお方を悪く言うなんて、バフォメット様のしもべ失格よ! アンタみたいなクズは楽にしなせてあげない」
震える小柄女の前にしゃがみ、ずい、と顔を近づけるエレナ。妖しげな笑みを浮かべると、腕を相手の胸元に突きだした。光を帯びた手は、小柄な女の身体の中に入っていく。
「ぎ、あゃああああああああ!」
断末魔をあげる悪魔崇拝派の仲間を、エレナはどこか恍惚とした表情で眺める。彼女が手を引きだすと、女はぐったりと動かなくなっていた。
「これで、あとひとり……あの落ちこぼれが最後ね。さっきは思わぬ邪魔が入ったけど、今度こそは死んでもらうわ――」
赤い瞳を光らせた魔女は、廃墟を出て足場の悪い道を音もなく歩きはじめる。
まるで闇に溶けていくように、彼女の姿は夜の帳に消えていった。