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飛べない魔女と、可愛くない執事くん  作者: ユユ
ふたつの魔女
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17話

「ほら、できたぞ。さっさと食え」


 刻がテーブルに料理を並べると、サンダース姉弟は心底驚いた顔で呟いた。


「すごい。ちゃんとおいしそう」


「刻サンすごいヤ。まさか本当に作れるなんて思わなかっタ」


「どういう意味だよ。お前ら、俺が料理できるの知ってたから作れって言ったんじゃないのか?」


「違うヨー。ジュリアは小麦粉と砂糖の区別つかないし、ボクはつい何かを混入したくなっちゃうからネ。消去法ってヤツ」


 そんな消去法ならほとんどの人間が残れるに違いない。本当に困った奴らだと、刻は疲れた息を吐いた。


「まあ、ほとんど椿さんが用意してくれてたから俺が作ったのは煮魚だけだけどな」


「それでも十分だよ! ありがとね、刻くん!」


 ジュリアが明るく笑った。


「あれジュリア、自己嫌悪はもういいノ?」


 ハルがからかうように言うと、ジュリアは「うん」と頷いて刻を見て碧い目を細める。


「刻くん言ってたでしょ? あたしが元気ないと椿ちゃんが悲しむって。だからちゃんと食べて、元気出すの!」


「そうか」


 屈託のない笑みをまっすぐに向けられ、刻は無意識に口元を緩めた。

 彼女の騒がしさをうっとうしく思っていたが、無邪気すぎる性格なのだと分かると何だか可愛く見えてくる。


「あっ! 刻くん今笑った!?」


「うん笑ってタ。めちゃくちゃ分かりづらいけど笑ってたネ」


「……いいからさっさと食えよ。冷めるだろ」


 サンダース姉弟の冷やかしを軽くかわして、刻は席に着く。そこで、ひとり欠けていることに気がついた。


「リンは? お前ら呼びに行ったんだろ?」


「行ったケド、お腹空いてないって言われちゃっタ」


「そうか……」


 刻の頭の中に、敵に後悔させると言ったリンの姿がフラッシュバックする。

 今頃、自分を責めながら、敵と戦うための魔法薬を作っているのだろうか――。

 何となく胸にもやもやしたものを感じつつ、自分の夕食に手をつけようとした刻だったが、頬杖をついて握った箸で魚をつっつくハルと、豪快に食べこぼすジュリアが目に入り眉をしかめる。


「おいお前ら、もう少し行儀よく食事できねーのかよ……。肘はつくな。それに箸はこう使うんだよ。茶碗はちゃんと手に持つ」


 思うままに不満を口にすると、ハルとジュリアが同時にふきだした。


「刻くんってお母さんみたい」


「はあ? 何で俺が……。うちのジイさんの方がよっぽど口うるさいだろ」


「たしかに英次サンも厳しいケド、何も小言が多いのが母さんみたいってわけじゃないヨ。料理ができて掃除もできるし、面倒見いい感じが母親っぽいなって思っただケ」


「お前らが手間かけさせるだけだろうが」


 男が母親みたいだと言われて嬉しいはずがない。刻は味噌汁をすすりながら渋面を作った。


「まあ、勝手なイメージだけどネ。ボク達の母さんはそういう『お母さん』じゃないかラ」


 長い前髪がつかないよう耳にかけながら、魚に手をつけるハルがぽつりと言う。


「え?」


 どういう意味かと短く聞き返した刻に、ジュリアが答えた。


「あたし達のママは全然しっかりしてないんだ。かなり惚けたところがあって、面倒を見るより見られるタイプって感じなんだよね。そこが可愛くもあるんだけど……」


「彼女はジュリアの上をいくおバカなノ。だから父さんは母さんの世話するのに手いっぱいなんだヨ」


 どこか人ごとのように両親の話をするサンダース兄弟に、刻はリンの言葉を思い出す。


 両親の手がつけられなくなって預かることになった――。リンはふたりを屋敷に住まわせた経緯をそう語っていたが、どうやら問題があるのはハルやジュリアの方だけではないようだ。


「そういやお前らの母親も魔女なんだろ。リンと違って空飛んだりするのか?」


 何となく気になって尋ねた刻に、ジュリアが苦笑して答える。


「ママもリン様と同じで、地味な魔法しか使えないよ」


「地味って……お前何気にひどいな。で、どんな力使うんだ?」


「洗脳だヨ。母さんは人を好きに操れるノ」


「え」


 予想外の返答に、お椀を手に持ったまま固まる刻。


「それ、十分すごいだろ。悪魔崇拝派がまた襲ってきた時に力強い味方になるんじゃ……」


 ハルはいやいやと、手を顔の前で振って否定する。


「自分より強い魔力を持ってる相手には通用しないんだヨ。あんな光の弾をばんばん飛ばしてくるような敵じゃ洗脳のセの字も使えないネ。残念ながら実際には魔力を持たない人間くらいしか騙せない。それほど母さんの魔力は弱いんダ。――っていうか、独立派の魔女は皆、戦争で悪魔崇拝派に勝ってからずいぶんと平和ボケしてるらしいヨ」


「そうなのか」


 リンの仲間だという『独立派の魔女』に助けを求めればいいのでは? と考えた刻だったが期待外れだったようだ。


「結局、頼みの綱はリンの占いと魔法の薬だけか」


 思わずため息交じりに言うと、ハルが唇の片端をつりあげて不敵に笑った。


「まあまあ、そんなガッカリしないでヨ。戦えるのは魔女だけじゃないんだラ」


「は?」


「嫌がらせはボクの十八番だからネ。敵をぎゃふんと言わせるものを作るのは自信があるヨ」


「ぎゃふんって……イタズラとはわけが違うんだぞ」


 普通の人間にとって彼のイタズラは脅威だが、『爆発する目覚まし時計』くらいの武器では魔女に通用すると思えない。


「イタズラ前提に作る気はないからヘイキ。ボクが本気を出したら、この屋敷をまるごと吹っ飛ばすくらい造作もないネ」


「アホか! こっちまでただじゃ済まねーだろ。そんなのただの自爆だよ」


「やだナー。本気でこの家を吹っ飛ばすわけないでショ、例えだヨ。それくらいの威力がある武器を作れるってコト」


 ハルの目は恐ろしくなるほど生き生きとしている。水を得た魚とはまさにこのことだ。

 自信に満ちたハルの様子からして、本当に精度の高い武器を作れるのだろうと刻は悟った。


「さて、そうと決まったら早速作業に取りかかろうかナ」


 沈黙を賛成と受け取ったハルが立ち上がる。


「あたしは敵がこないか、自分の部屋の窓から監視しとく!」


 つられるようにして、ジュリアも箸を置いた。


「刻くんはどうする? あたしと一緒に監視する?」


「え……」


 刻がまっ先に思いついた答えは、書庫に行って情報を収集すると言うものだった。あそこには日本語で書かれた本があった。よく探せば、役に立つ本がもっと見つかるかも知れない。


 たぶん、それが一番効率的な行動なのだろうが――――。


「いや、俺はリンの様子を見てくる」


 なぜか、そう答えていた。


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