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わたし、小さな騎士に守られました。

「有り金全部置いていけ」


こういうときこそ修羅場とは用意されているものだ。

いかにもといった湿っぽい路地の隙間から四名ほど、埃臭い男たちが現れた。その手には錆びだらけのたまたまそこらで拾ったような鉄パイプやら、恐ろしく切れ味が悪そうで逆に一息で殺してくれと懇願しかねないナイフやらと、物騒なものをちらつかせている。

うまくできているなぁとミレイユはびっくりした。騎士(仮)を仲間に入れたタイミングで敵とエンカウントするなんてこれはなんの試練だろう。



「お前気づいてなかっただろうけど」

「え?」



ミレイユの表情を見た少年が、敵を睨んでけん制しつつ彼女を背にした。



「お前、この路地に入った時からマークされてたぞ。」

「まあ、そうだったのですか」



ただ単純に驚いたミレイユだが、ふと気付く。路地に入った時から?

この子、自分が路地裏に足を踏み入れた時から見ていたのだろうか。

浮浪者が自分を狙っているのを見て、だから声をかけてくれた?



「クク、チビすけ。なんかの冗談か」



浮浪者のひとりが面白いものを見たようにケラケラ笑い出した。ミレイユを背中に隠して、明らかに守るつもりでいる少年の姿が可笑しかったらしい。

嘲笑う男に、少年は黙ったまま何も言わない。余裕めいた微笑を返すだけだ。能天気とよく言われるミレイユだが、さすがに心細い不安を覚えた。



「ねぇ…この人たちの言う通りにしましょう? お金で命が買えるなら高くはありません」

「そうそう話の分かるお穣さんだ」



ミレイユの言葉に、汚らしい薄ら笑いを浮かべた男がひとり、棍棒を手にじりじりと近づいてくる。



「大人しく金を…」

「―――だからてめぇは」



男の言葉を打ち消して、少年の声が凛をまとって路地に澄み渡る。



「少しは俺を」



目にもとまらぬ、まさにそんな速さで少年はすでに抜刀して構えに入っていた。



「信じやがれ!!」



その咆哮が路地に反響する頃ミレイユの目に映ったのは、こちらに近づいていた男が地面と仲良く添い寝している姿だった。ミレイユはぎょっとして、それからは目の前の小さな背中に釘づけだった。いつ攻撃したのか、どんな技を繰り出したのか、少なくともミレイユの目には映らなかったのだ。



「あなたは…?」

「フン。身体と強さはイコールじゃねーってこと、しっかり見てな」



言い残すと、少年は左足で地を蹴って敵陣に飛び込んで行った。

相手はあと三人ほどだ。仲間があっけなく倒されたのを見た彼らは憤怒の形相で三人同時に少年へ襲いかかり、左右と前方からそれぞれ突進を仕掛けてきた。

だが少年は気おくれするどころか手にしている剣と同じギラギラと攻撃的で飢えた眼光を双眸に飼い、面白げに口角を釣り上げてみせる。



「同時に来るなら、敵の退路を完全に塞ぐのがセオリーだぜ」



そのセオリー通りにいけばここは後方に飛び退くべきだったが…常套(じょうとう)で面白くない。


少年はあえて受けて立ち、左右の男たちがそれぞれ武器を振るってくると空いている手で素早く背中の鞘を引き抜いた。


キィィンッ!


襲ってきた二つの武器を剣と鞘でそれぞれ防御すれば、ぶつかり合う甲高い金属音がゾクゾクと脊髄を這い登る久しぶりの高揚を覚えた――――――悪い癖だ。



「んのチビがぁっ!」



まったくの同時に前方から飛び込んできたナイフの男。その軌道から狙いは胴だ。いや、実際は狙いもくそもなくがむしゃらに突っ込んできただけで、ブレのありすぎる攻撃ほど読みやすいものはなかっただけのことだが、これほど親切に読めてしまえる太刀筋ほど剣士にとって不憫なものはないわけで、よくそんな素人丸出しな腕で喧嘩など売ってきたものだと不愉快にさえ思ったのでここは嫌味を込めて地味な反撃に出ることにした。

まず左右で封じていた男たちを剣と鞘でそれぞれ吹き飛ばし、そのままクルリと逆手に持ちかえた鞘で、向かってきたナイフ男の獲物を握る拳にトン、と余計な力を抜いた受け流しを当てて軌道を逸らす。あとはあちら様の御都合でこの戦いは終了だ。



「ぐわッ」



刺殺するつもりでつけた勢いのところに大きく態勢を崩されればその末路は派手な転倒で、地面に叩きつけられたダメージ比例は相当であろうに、運の悪いことに顔面からいってしまわれた。うぐう、と文字通り地を這った呻き声はこちらまで顔が痛くなったほどだ。だが激痛に悶絶しながらふらふら立ち上がろうとしたのには、てっきり気絶させたつもりでいた少年は少々慢心していた自分を胸中で密かに律しつつ、手にしていた剣の切っ先をぴたりと男の鼻先にあてがった。



「どうするおっさん? 最後までやるか?」



紅い、少年の灼熱の瞳の中から、そこに飼われた絶対零度の眼光が男をのぞき込んでいた。

それを殺気と理解する程度の生存本能は高かったようで、立ち上がりかけていた男はせめて反抗心をむき出しにしたまま、どさりと尻をついて戦意喪失を意思表示した。

向かってくる気のない相手にトドメを刺すほどには冷酷でない少年は、フンざまあみろと鼻を鳴らして剣を鞘に収め元通り背中に背負って、研ぎ澄ませていた神経とそこに繋いだ肉体の緊張を解き戦闘モードを解除した。



「おい、行っていいそうだぜ」



それが自分にかけられた声だと気付くのに時間がかかって、しばしの無反応を経たミレイユはハッと我にかえる。



「えっと、あの、なんでしたっけ?」

「行先はこの先なんだろ? 長居する用がないなら、こんな物騒なところさっさと行くぜ」

「あ、は、はい、そうでした」



夢から醒めたようなぼうっとした思考のまま、ミレイユは少年に手を引かれて背丈分腰を折れながら路地を歩き出す。

その場を去る間際、ミレイユは背中にぼそりと唸るような声を浴びた。



「…どうせ金持ちの気まぐれだろ」

「!」




その声に背後を振り向いて見ると、恨みがましい、ねとりと纏わりつくような男の視線が、最後までミレイユから離されなかった。








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