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最終話「 また、会おう 」

 麗治は一人である場所へ向かっていた。それは、こころと一緒に行動をすることに決めたあの『キツネ』のいるほこらである。


「おい!キツネ!いるんだろ!」

麗治がそう叫ぶと、キツネは煙のように出てきた。

『なんだい?ぶしつけな登場だね?』

「こころが生きているってどういうことだよ!」

『・・・おや、あの子生きてたのかい』

別段慌てる様子もなく、キツネは少し驚いた顔をしただけだった。

「お前神様なんだろ?それぐらいわかってたんじゃねぇのか?」

『神様?まぁそれに似てはいるがそこまで偉いご身分じゃないのさ、私の仕事は迷える魂の道を示す、それ以外の事といったら魂の強制浄化程度さ』

「・・・じゃあ、知らなかったのか?こころが生きていた事を」

『・・・まぁ、そういうことだね。そもそも幽体離脱をしていたとしても長い間魂が本体に戻らなかったら体は腐って使えなくなるもんなのさ、つまり死ぬのと同じ、だからこころは多く見積もっても一年以上体に戻っていない、奇跡が起きない限り体が生きている事なんてないもんさ・・・でも・・・よかったじゃないか』

キツネは、少し嬉しそうな表情をした。

「・・・なんだよ急に?」

『・・・あの子は見た目通り落ち着かない子だろう?私にとっちゃ迷える魂はみんな私の子みたいなもんさ、死後の世界でも立派にやっていけるか、はたまた地獄か、どうなるかは本人次第ではあるけど、私はその魂たちに手助けができるんだよ、そんな中で、こころほど心配した子はそういない、だから・・・あの子が幸せになれるってのがわかって・・・うれしいのさ』

暖かい目をするキツネ、麗治はそれを見て、なんだか暖かい気持ちになった。

「・・・なぁ、こころが生き返ると、オレはもうあんたと会えないのか?」

『ま、そうなるだろうね』

「・・・そうか・・・もしかすると、これが最後なのかもな」

『そうだね、あんたと会うのはこれが最後だろうね』

「・・・あんたには度々世話になったよ、初めて会った時は、あんたと出会ったのが不幸だと思っていた・・・でも、今はまんざらそうでもないよ」

『・・・そうかい』

キツネはいつぞの人型になっていた。

「・・・あんたのその姿も、今日が見納めだな」

『どうかね、あんたが冥界に行くころには、私も格上げされて天使にでもなっているんじゃないか?』

「天使か・・・あんたはどっちかと言うと、やっぱり神様の方が似合っているよ」

『ありがとよ・・・最後に、些細な忠告でもするかな』

「なんだよ?」

『・・・あんたは、こころが生き返ると、死んでいたときの記憶はどうなると思う?』

「・・・・え?」


『こころが目覚めた時・・・あの子の中にあんた達と過ごした記憶はないんだよ』


キツネは寂しそうにそう言った。



「麗治さん!どこ行ってたんですか!?楽しいところですか!?私も連れてってくださいよ!一人だけなんてずるいです!」

「うるさい!勉強してたんだよ勉強!」

麗治は平常を装って自分の部屋に戻った。

そしていつものように浮いているこころ、それが今では普通の日常だった。

「・・・なぁこころ・・・明日どっかいくか」

「え?なんか新しい依頼ですか?」

「・・・いや、オレの用事だ」

「別にいいですよ!どこ行きます!?」

「・・・・思い出めぐり・・・かな」

そう言った麗治は、一人で笑った。だが、その笑いはなんだか寂しそうだとこころは思った。


 翌日 土曜日

麗治とこころは、初めて二人が出会った公園に来ていた。

「麗治さん!ここ懐かしいですね!一年ぶりくらいですよね?」

「そうそう、あの日お前を見てオレの人生は狂いだした」

「ちょ!なんですかその言い方!ひどいですよ〜」


本当、変わったよ、お前と出会ってから・・・。


麗治は静かにそう思っていた。


元々要領のよかったオレは、人生の渡り方も上手いと思い込んでいた。

だが、高校へ上がってから、オレと周りに溝ができた。

いつの間にかできたその溝を、越えられたのは茜達ぐらいだった。

正直、その頃から人間関係など必要ないとさえ思っていた、だが、どうも虚しい気持ちが、渦を巻いて心にこびり付いていた。

 

 そんな時、お前が現れた。


 そしたらどうだ?


 いつの間にか溝が埋まっていた。


 冷たい印象しか持っていなかった周りの人間が、次第に親しく話しかけてきた。


 面白い部活も立ち上げる事ができ、オレの勉強だけの高校生活に、色がぬれた。


 お前のお陰で、俺は変われたんだ・・・。



麗治がボンヤリとそんな事を考えていたら、誰かが声をかけてきた。

「よう、天才の沖田」

「こんにちは、沖田さん」

「あ、羨さんに虎衛か、久しぶりだな」

あのスケバンと泣き虫少年だった。

「あんときゃ世話になったな」

「全くだ、で?あんた達今デート中か?」

「えへへー、そうなんですよ!」

「ばっ!バカ!変なこと言うな!」

羨が顔を赤くして照れている、見ていて微笑ましいものだ。

「麗治さんは一人で何をやっているんですか?」

「ん?・・・散歩だよ」

「おいおい、じいさんみたいな事するんだなお前?」

「いや・・・結構いいもんだぞ?外を出歩くってのは」

清々しい笑顔の麗治、二人はそんな麗治に何があったのかと疑問に思ったようだが、質問まではしなかった。

「じゃ、僕らデートの途中なので」

「だから!・・・ったく!」

「おう、仲良くしろよ?」

麗治がそう言って見送った。

「・・・よかった、仲良くできているみたいですね!」

こころが本当に嬉しそうな顔をして言った。


「当然だろ?・・・お前、がんばったんだから」


「・・・え?」


麗治はいきなり真剣な顔をして、こころにそう言った。

「・・・初めての依頼、お前の野球をしている先輩への説教、そのお陰で、今でもあの二人は仲良くやっているぜ?」

「・・・・・・」

「他にも、アイドルと影薄男の恋もあったよな、あの時の台詞もよかった」

「・・・・・・」

「いじめをしている女子の集団への言葉も、お前の熱意がしっかりと伝わった」

「・・・・・・」

「オレの姉貴の恋の手伝いも、してくれたよな?」

「・・・・・麗治・・・さん?」


「お前、立派なキューピットになれたじゃん」


最高の笑顔で、麗治はそう言った。

すると、こころは、さっきまで笑顔だったのに、急に暗い顔になった。


「・・・なんで、急にそんな事を言うんですか?」

「・・・・・・」

「・・・私なんて、まだまだキューピットじゃないですよ・・・」

「・・・・・・」

「だって!みんなの助けが必要だもん!茜ちゃんの情報網がないと!はじめさんの陰陽術がないと!悠里君の説得がないと!花鈴ちゃんの優しさがないと!・・・麗治さんがいないと!私何もできないよ!」

「・・・・そんな事ない」

「そんな事ある!まだみんなと一緒にいたい!ずっとキューピットクラブを続けていたい!・・・もっと・・・もっと・・・麗治さんのそばにいたい!」

泣き始めるこころ、麗治は、辛そうにうつむいていた。


「・・・ずっと一緒に決まってるでしょ!」


ふと、そんな声が聞こえた。


「我らの縁がここで途絶えるはずがなかろう!」


頼もしい、仲間の声がした。


「泣いちゃダメですよ!・・・こころちゃんは笑顔が一番!」


いつも協力してくれる、仲間の声が。


「ほら・・・笑ってください、こころちゃん」


共に助け合った仲間の声が。


「僕達の名前がないぞ?忘れちゃあ困るぜこころちゃん!」


共に笑いあった仲間の声が。


「こころちゃん・・・生きて!また会おうよ!」


最高の、世界に二つとない、仲間の声が。


「お前ら・・・」

公園には、茜もはじめも悠里も花鈴も陽介も麗佳も集まっていた。

「・・・みんな・・・」

「ほら、泣かないの!泣いたら・・・泣いたら・・・お別れみたいじゃない!」

既に泣いている茜が、力強くそう言った。

「こころ、お主は生きておる・・・生きておるのだから・・・生きねばならぬ」

いつもの優しい笑顔が、そこにはあった。

「こころちゃん、生きている事知ってた?」

悠里が涙を拭きながら、笑顔で聞く。

「・・・夢で、お母さんの声がした・・・その時から、生きているかもって思ってた」

「お母様が呼んでらしたの?だったら!・・・早く元気な顔を見せないと!ですね!」

花鈴が涙目で、元気を振りまきながら言った。

「僕らはいつでも待っている!・・・だから、早く生き返ってこっちに来い!」

陽介がかっこつけながらそう言った。

「生きている事が、一番の幸せだから!・・・私の分まで生きるためにも!しっかり生き返ってね!」

麗佳は優しい表情でそう言ってくれた。

「みんな・・・」

「・・・こころ」

こころが振り返る、すると、麗治が珍しく涙目だった。


「・・・生き返って、また会おうな」


「・・・記憶、無くなっちゃうのに・・・またみんなと会えるのかな?」


「バカ・・・どっからそんな話聞いたんだよ?」


「聞かなくたって・・・みんなの行動を見ればわかるよ・・・また会おうなんていっているのに・・・みんな泣いてるじゃん・・・隠すの下手だぞ?」


「・・・・別に、隠しているわけでもないし、記憶が無くなるわけがない!・・・だから!また会えるんだよ!・・・わかったか?」


「・・・わかった・・・・また会おうね・・・私!会いに行くから!!」


ゆっくりと、心の体が透け始めた。

「こころが帰ろうと思ったから・・・魂が体に帰ろうとしている」

陽介がそう言うと、こころは、笑顔になった。




   『 絶対 会いに行くから 』



こころはそれだけ言って、帰ってしまった。


「・・・あちゃ〜、これ渡しそびれちゃったよ」

悠里が涙を拭いながら色紙を取り出した。

「なんだそれ?」

「・・・依頼人達のお礼の言葉・・・・無理言って書いてもらいました」

「ほう、それは我々の宝でもあるな」

はじめが面白そうにそう言った。

「・・・当たり前よ、それに・・・こころはまた会いに来るんだから!それまで私達が預かるの!!」

茜が止まらない涙を抑えながら、そう言った。


 数時間が経ち、公園には二人だけとなった。

そう、茜と麗治の二人だ。他のみんなは、ゆっくりと帰って行った。


「・・・寒いわね、さすがに夜は冷えるわ」

「全くだ」

二人は特に何かをするわけでもなく、公園のブランコに座っていた。

「・・・こころちゃんがいなくなって寂しい?」

「・・・・まぁ、部屋は広くなるな」

「・・・ねぇ、また、こころちゃんに会えるかな?」

「・・・あいつが会いに来るって言ってんだから・・・来るだろ?」

「・・・・どれぐらいで来るかな?」

「・・・さぁな」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

二人は黙り込んだ。


「 なぁ 」 「 あのさぁ 」


二人の声が重なる。


「・・・なんだよ?先にどうぞ」

「そ、そっちこそ、お先にどーぞ!」

「・・・いいんだな?」

「・・・な、なによ、いいわよ」

真剣な顔になる麗治、茜はそれを見て赤くなる。


「・・・オレさ、こころから学んだ事が一つだけある」


「な、なによ?」


「素直さは大切だって事」


「・・・・だ、だから?」



「オレ、お前の事が好きだ」



麗治は表情を変えずに、茜を一直線に見て、そう言った。



「・・・・・わ、わわ、わわわわたしだって!麗治の事好きなんだから!!」



真っ赤になる茜、そして強烈な返事をされた麗治はニッと笑った。


「・・・さて、帰るか、送ってやるよ」

「・・・・・ぅん」

月が照らす道路を、二人は歩いて行った。





 数ヵ月後


みなさん、どうも!悠里です!

大分月日は経ち、僕らもいよいよ進級して二年生になりました!

こころちゃんがいなくなてからも、我らキューピットクラブは存続し、今でもこころちゃんの帰りを待っています!

あ〜ぁ、こころちゃん早く来ないかな〜?


「悠里よ、何を独り言をしているのだ?」

「い、いや、別に・・・・なんでもないです」

いつもの屋上に、いつものメンバー。

「全く、家業を継いだワリには毎日よく学校にこれるな?陽介先輩?」

「はっはっは、卒業したってOBになれば学生同様!僕はまだ現役さ!」

「な、何の現役なの?ようくん?」

麗佳が心配そうにそう言った。

「あら、もうすぐ依頼が来る頃ですわね」

花鈴がそう言うと、丁度よく扉が開いた。


「みんな!依頼よ!」


そんな日常が、これからも続く。



 とある日

「ったく、はじめのカラオケ好きはどうにかなんねぇのか?」

麗治が夕刻に、のんびりと帰り道を歩いていた。


「・・・・ったく、いつになったら来るんだよ?」


「誰がです?」


「んあ?・・・・幽霊なのにキューピット気取り、のあいつだよ」


麗治は後ろから投げられた質問を、振り返りながら答えた。


「・・・・おかえり」




   「 ただいま! 」




                     終わり


次回、めちゃくちゃ長いあとがきで最後なので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。


こころ「みんな!今までありがとうございました!」


麗治「ここまでのご愛読、本当にありがとうございました!」


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