第27話「お別れの始まり」
いよいよこの小説も完結に向けてラストスパートをかけています。最期の最後までお付き合いお願い致します。
≪・・・・こころ・・・こころ≫
「・・・誰?私を呼ぶのは?」
≪・・・帰ってきて!こころ!≫
「え?帰るって・・・どこに?」
≪こころ!・・・お願い!起きてちょうだい!こころ!≫
真っ暗な、夢の中で、私は懐かしい声を聞いた。
そして、気付いたのだった。
「・・・・お母さん?」
目が覚めると、私は無性に不安な気持ちになった。
横では麗治さんがまだ寝ている。
「・・・なんだったんだろ・・・今の夢・・・」
私は心の中にある嫌な思いを吹っ切るように、もう一度寝る事にした。
「・・・なんだか・・・嫌な予感だする・・・」
こころはそのまま寝てしまった。
だが、まさかその予感が当たるとは・・・思ってもいなかった。
学校の屋上
いつものように集まっているメンバー、そしてまた、茜が持ってくる依頼をこなすいつもの日常、こころにとっては幸せなこの日常が、とうとう、崩れる時が来た。
「あぁ〜、今日も依頼を片付けたし、お金もたまってきたわね〜」
茜は預金通帳を見ながら笑顔で帰り道を歩いていた。
「さ〜て、明日は誰が依頼に来るのかしら?」
そんな事を言いながら歩いていると、前方に別の高校生男子が、茜に近づいてきた。
服装が他校の制服だったため、かろうじて高校生と認識できたが、正直とても幼い感じのある男子だ。かわいいと表現するのがちょうどいい容姿の男子は、緊張した面持ちで茜の前に立った。
「・・・・何か?」
「あ、あの・・・キューピットクラブ・・・の、茜さんですよね?」
「えぇ、そうだけど?」
「じ、実は、依頼があるんです」
「へぇ〜、進学校の川貴高校でも有名になっちゃったのかな私達?」
「はい、かなり有名ですよ・・・天才の沖田さんとか・・・情報屋の白羽さんとか、陰陽師の飛咲さんとかがいるから・・・あの、それで、頼みごとがあるんです」
「うんうん、君も恋に迷った子羊なわけだね、ほら、この情報屋の茜ちゃんに言ってごらんなさい」
「・・・・じつは、この子なんですけど」
そう言って写真を取り出した男子学生。
「どれどれ?」
それを見た茜は、一瞬止まった。
「・・・・え?」
写真に写っている被写体、それは、間違いなく、
こころだった。
「あ、あれ?・・・もしかしてこころちゃんを知っているんですか?」
「・・・・ううん・・・いや、な、何でもないわよ」
そう言う茜だったが、正直気が動転しそうで慌てていた。
だが、そんな事を気にせず、その男子学生は話をする。
「僕の名前は石岬琥太楼って言います。そして、この写真の子は加藤こころっていう子で、同じ中学校の同級生でした、そして、僕はその子が好きなんですけど・・・実は、こころちゃんは今・・・病院で今だ昏睡状態なんです」
「・・・・事故にでも、遭ったの?」
「はい、覚えていますか?一年ほど前にあった巨大追突事故を?」
≪知っているわよ・・・だって、麗治とこころちゃんから・・・聞いたんだもん≫
「彼女はバスに乗車していたんです、その時お父さんとお母さんも一緒でした、でも、事故が起きました、でも、こころちゃん達は重体ではありましたが、奇跡的にも生きてはいました、その後、両親は既に意識を戻したんですけど・・・こころちゃんだけが、今だ、意識を戻さないんです」
「・・・そ、そうなんだ・・・・」
「医者は、こころちゃんの意識を戻す方法は、待つしかないって言うんですけど・・・いつまで経っても、こころちゃんは目が覚めないんです。むちゃくちゃなんですけど、でも!あなた方なら・・・どうにかなるんじゃないかって思って・・・」
茜は顔をうつむける、だが、どうすればいいのか、どうした方がいいのか、それは既にわかっていた。ただ、お別れが悲しくなるだけなのだった。
「・・・いいわよ、受けてあげる、その依頼」
茜は、笑顔でそれを言った。
≪・・・こころちゃん・・・・≫
茜は、こころとの思い出を、振り返っていた。
そして、こころのお陰で、麗治に更に近づけたことを、改めて実感していた。
≪・・・でも、これでよかったんだよね・・・だって、幽霊なんかより、生きている方が・・・絶対にいいもんね≫
そう思っている茜、だが・・・・。
≪・・・・なんで、涙なんか出てくるのよ・・・≫
あふれ出てくるその寂しい雫は、ぬぐっても、止まらなかった。
翌日、屋上では、こころと麗治だけを除き、全員が揃っていた。
「・・・こころ、ちゃんが?」
悠里が、茜の話を聞いたあと、驚愕のあまり、立ち尽くしていた。
他のみんなもそうだった。
誰もが、顔をゆがめていた。
「・・・仕方ないであろう、そんな寂しい顔をするな」
そう言ったのは、はじめだった。
「・・・むしろ、喜ぶべき事ではないか、こころが、いうなれば生き返るのであるぞ?今度会うときは、幽霊ではなく人間なのだ」
「そ、そうですよ!生きているって事は、素晴らしい事なんですよ・・・死んでいく時は、みんな泣いちゃうし、寂しい顔もするけど、生き返るのなら!・・・笑顔になりましょうよ!」
麗佳が元気付けるように言う、それが効果を出したのか、みんなの顔が明るくなった。
「そ、そうですよね!・・・お別れなんかじゃない、こころちゃんが喜ぶ事なんだ・・・笑顔で送ってあげないとだめですね!」
悠里がやっと笑う。
「わ、私、やりたい事がありますわ、こころちゃんを喜ばせる事・・・悠里、ちょっと手伝ってね」
「はい、姉さん」
花鈴も涙を拭いて、力強くそう言った。
「麗佳、こころちゃんの魂を肉体に戻す方法は僕が知っている、でも用意が必要だからね、僕らはそれをしようか」
「うん!」
陽介も、いつもの緩んだ表情でそう言った。
「さて・・・我は、麗治にその事実でも告げてやるとするかな」
はじめはそう言うと、屋上を出ようとした。
「ま、待ってよ、私が麗治に伝えるわよ」
「・・・察してくれ、男同士でしか、話せない事もある」
はじめが、寂しい表情でそう言った。
「・・・すまんな、茜、できれば・・・こころを見ていてほしいのだが?」
「・・・わかったわよ」
茜は、それしか言えなかった。
はじめは笑顔になって、屋上を出た。
「麗治・・・ちょっといいか?」
「なんだよ?」
廊下を歩いていた麗治を呼び止めるはじめ、そして、体育館裏に来るように言った。
体育館裏
「こころはどうした?」
「ん?茜と一緒にどっか行ったよ」
「・・・・そうか」
「なんだ?お前らしくないな・・・どうしたんだよはじめ?」
「・・・喜ばしいニュースがあるのだよ」
「はぁ?なんだよそれ?」
苦笑いの麗治に、はじめはあっさりと言った。
「・・・こころは、生きている」
はじめのその単刀直入な言葉に、麗治は、理解する事ができなかった。
それでも、はじめは、ゆっくりと真実を語り始めた。
「・・・昏睡状態・・・こころが?」
「あぁ・・・つまり、こころは生きているのだよ」
そこで、麗治は、やっと理解した。そして、唖然とした。
登場人物の最後の言葉
茜「今までありがとうございました!またお会いできる日を楽しみにしています!」
はじめ「今日まで苦労をかけたな、そなた達との出会い、我は忘れないぞ」