第20話「デート護衛前編」
桜の開花はまだだが、暖かい陽気になってきた。
そろそろ春が近づいているようだ。
屋上でのんびり空を見上げて横になっているキューピットクラブのメンバー。
「のどかですね〜」
こころがのほほんと感想を洩らす。
「いよいよ春日和というわけだな」
はじめが流れている雲を見ながら言った。
「おいおい、のんきなのはいいが明日ごろにはまた寒くなっているんだぞ」
麗治が平和ボケの二人に言う。
「そうですね、春になる前って、暖かくなったと思ったらすぐ寒くなるんですよね〜」
悠里が笑いながら言う。
「ところで、なぜ陽介君がここにいるのでしょ?」
花鈴が異質の存在、陽介を指摘する。
「いや〜、麗佳にも友達は必要だと思って」
「成仏させてやれば友達はいくらでもいる」
「おいおい〜、部長〜、冗談きついぜ〜」
「部長と呼ぶな!そもそもお前の行為は人の道を外している気がする」
「愛を貫くためなら外道と呼ばれてもかまわない」
「黙れ」
麗治がぶち切れ寸前で茜と麗佳が入ってきた。
「みんないるようね!早速依頼よ!今回はデートの護衛よ!」
「もう何でも屋みたいだな・・・」
「岡田正志サッカー部2年、山田美由サッカー部マネージャー2年、以上」
麗治が淡々と話す。
「デートの護衛?おいおい、この二人は誰かに命でも狙われているのかい?」
陽介が外人のわからないというジェスチャーをしながら笑う。
「まぁそんな感じね」
茜が黒い笑みを浮かべながら言った。
「この美由って人、サッカー部の美少女マネージャーでサッカー部員の憧れの的なの、その娘と付き合うことになった依頼人はサッカー部員からひどいいじめを受けているわ」
「腹いせにいじめるなんてひどいですね」
「ふ、野蛮な男達は未練がましいって事さ」
陽介の反応にストレスを感じ始めるメンバー。
「とにかく、明日の遊園地でのデートをどうしても成功させたいそうだ、まぁサッカー部員達を説得するのが手っ取り早いな」
麗治がそう言うと、一同はサッカー部の部室へ。
サッカー部部室。
練習も終わり、部室に全員いる様子のサッカー部。
「正志さん練習に来てないようですね」
「来たら殺されるもの」
花鈴の疑問にさらりと答える茜。
部室のドアを開けようとする麗治、すると、はじめが止めた。
「いきなり入ったとしても話を聞かない可能性がある、ここは窓から様子を見よう」
その提案に全員賛成して窓を覗き込むメンバー。
すると中ではサッカー部一同がなにやら話していた。
「正志の野郎、いよいよ明日、我らの女神、美由ちゃんとデートするそうだ」
「あの悪魔め!許せねぇ!」
「俺達の女神を奪うなど!許せるはずが無い!」
「だからこそ、明日のデートは見事にぶっ壊し、正志を血祭りに上げる」
「おぉ!そうだそうだ!」
「せ、先輩〜、明日は大事な試合のはずじゃぁ?」
「うるせぇ!試合より愛だ愛!」
「そんな〜、他人の恋路を邪魔するのは外道ですよ〜」
「愛を貫くためなら外道と呼ばれてもかまわない!」
話を聞いていたメンバー。
「最後の台詞、陽介さんが言ってたね〜」
こころがのんきに言う。
「いや、それはあいつらと陽介が同レベルだから気にしない」
「え?ちょ、ひどくない?」
「むしろあいつらをどうすれば説得できるかが問題だ」
陽介が隅でいじけていたが気にせず部室へ入っていく麗治。
扉を開けるとサッカー部員達が一斉に麗治を見た。
「悪いがサッカー部の皆さん、明日は大人しく試合に出てください」
「なに〜?貴様、さては我々の話を盗み聞きしていたな」
「そうです、というか男なら新しい恋を始めたらどうですか?」
「うるさい!お前に何がわかる!」
「そうだそうだ!」
「美由ちゃんは俺達にいつもドリンクを配ってくれていたんだ!」
「それに大会の時はいつも見に来てくれた!」
「がんばれって応援までしてくれたんだぞ!」
「それはつまり俺達に好意があるからなんだ!」
力説するサッカー部員達をみて麗治は冷静にこう言った。
「いや、マネージャーだからだろ、勘違いしすぎだ」
一瞬止まる部員たち。
後輩の一年生達は溜め息をついている。
少しすると、部長らしき人物が動き出した。
「そ、そんな、そんなわけねぇだろぉおお!!!」
[・・・・どこが?]
「お前さては正志から雇われたPCだろ!」
「PC?なんだそれ?」
「キューピットクラブだ!」
[そんな略語になるほど有名になったのか?]
「お前らのファンクラブ潰しは有名だぞ!」
[あ〜、そういえばたくさん潰したなぁ]
「みんなのアイドルを奪う外道な組織め!とうとう俺達にまで手を出すか!」
「いいだろう!明日のデート!守れるものなら守ってみやがれ!!」
「お前みたいな心が無くて頭だけいい人間に俺たちは負けねぇ!」
もう止めようが無い事を悟った麗治は部室を出た。
屋上
「ど、どうするの麗治さん?」
麗佳がなぜか空を見てボーっとしている麗治に声をかけた。
だが返事が返ってこない。
「どうしたのでしょ?」
「心が無いって言われて傷ついた?」
「あやつはそんなにもろくなかろう」
「ふ、サッカー部員達の究極の勘違いに、ここまで醜い人間は見たこと無い、と思い心に傷を負ってしまったのだろう」
「なんだかそれっぽいですね」
少しすると麗治が空を見るのを止めて茜達に振り返った。
「めんどうだが、明日デートを守るためいくしかないな」
麗治はそう言って集合時間を言って家に帰った。
沖田家
「ねぇねぇ、麗治さん」
「なんだ?」
部屋でくつろいでいると、こころが麗治に質問をした。
「空眺めている時から元気ないですけど・・・どうしたんですか?」
「・・・実はな」
「コンコン」
突如麗治の部屋の扉をノックする音がした。
「麗治〜、入るよ」
そう言って入ってきたのは麗治の姉だった。
「なに?姉さん」
「明日の私のデートの護衛についてなんだけど」
こころがその言葉を聞いて怪訝な顔をする。
「あぁ、はいはい」
「彼氏の所属しているバスケ部の全員がなんでも明日の試合放棄してでも邪魔しに来るみたいでさぁ」
[デジャヴ?]
こころが頭の中で呟く。
「わかったわかった、なんとかするよ」
「じゃ、頼んだから、やっぱ持つべきものは天才な弟よね」
笑いながら部屋を出る姉。
「・・・このことで元気が無かったんですか?」
「バスケ部にも交渉に行ったけどサッカー部と同じこと言っていた」
「お姉さんはマネージャー?」
「女子バスケ部のキャプテン」
「そうなんですか、でも明日どうするんですか?」
「どうするもなにも、やるしかないだろ」
麗治はそう言ってカーペットに布団を敷いた。
こころがベッドで寝るのでいつもそうしている。
「おやすみなさ〜い」
「あぁ」
そう言って電気を消した。