20.不意打ち祭り?
今まで先制攻撃なんてしてこなかったユークがまさかの先制攻撃。ギルティエゴが相手なんだから、この試合こそ慎重にいかなきゃマズイんじゃないの? ウィンドアシストが不安定になってきているんだし。
「どうやら今の自分が置かれた状況に気付いて短期戦でいこうとしているみたいだな」
心配しているとクロルがそう呟いた。
「それってつまり残りの魔力があまり無いことにユークが気付いてるってこと?」
「恐らくな」
「えっ、それじゃあなんでギルティエゴ相手に先制攻撃なんてしちゃってるの?」
残りの魔力があまり無いことに気付いてるならチャンスを待って、ここぞと言うときに使うようにした方がいいと思うんだけど。
「ギルティエゴは力があるから剣撃を受けたり回避するだけでも結構体力を使うはずだ。それをカバーするためにウィンドアシストを使って今までみたいな戦い方をしていたら、先にユークの方が力尽きてしまうよ」
「つまり先手必勝、ってことかぁ」
クロルが説明してくれたお陰でようやくユークの行動の意図が分かった。……って話してる場合じゃないよ! ユークの先制攻撃は通じたの !?
私は急いで視線をユークの方へ戻した。ユークの先制攻撃は――見事にギルティエゴの盾に受け止められていた。そんなぁ……。
「素早い攻撃で不意を突くことはできたんだがなぁ……」
え? 見事に剣撃を防がれているから不意なんて突けてないと思うんだけど。
「どういうことでしょうか? 私にはギルティエゴさんが不意を突かれたようには見えず、見事にユークさんの剣撃を受け止めているように見えるのですが……」
クロルの呟きに、シェリエルが私の思ったことを代弁してくれた。――私とクロルを交互に見ながら。ヤバい、剣術が得意な勇者が分からないなんて言ったら不自然だよね。どうしよう……。
「ギルティエゴの姿勢を見て欲しい。あの姿勢を真似してみれば分かると思うよ」
私が悩んでいると、クロルがそうシェリエルに言った。
「わかりました」
シェリエルは早速ギルティエゴの姿勢を真似してみた。私も分からないからギルティエゴの姿勢を真似してみる。
えっと、全身をしっかりとカバーするように身体の正面に盾を構えて、と。やっぱり完璧な防御だと思うけどなぁ。
「これでよろしいでしょうか?」
シェリエルはクロルにあっているか確認してもらう為に尋ねた。
「うん、そんな感じだ。さて、シェリエルなら相手の攻撃を盾で受け止めた後、次はどういう行動にでる?」
「次ですか……剣術のことはあまりよく存じておりませんので的外れなことを言ってしまうかもしれませんが、私でしたら攻勢に出ようと思います」
「なら、その姿勢から剣を振るう姿勢に移ってみてくれ」
「はい」
シェリエルは盾を構えた腕を正面から身体の横へ降ろし、剣をゆっくりと振る動きをしてみせた。
「これでよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ。さて、今の動きをしてみてすぐに攻勢に出れたと思うかい?」
「すぐにですか……そう言われると防御する為に使った盾をずらさないと攻勢に出ることが出来なかったのですぐにとは言えないですわ」
「そう、その通り。そうならない為にはどうするか……ルミリアならどうする?」
「えっ?」
ちょっと待って。私、どうすれば良いか分かってないんだけど……恐らく剣術が得意な勇者ということだから不自然さを出さない為に話を振ってくれたんだろうけどさぁ。う~ん、ゲームだったらどうしてたかなぁ。
私はゲームの記憶を掘り起こす。……ダメだ、ゲームのキャラは防御する時は完全に防御姿勢だったからギルティエゴと同じだよ。うわー、詰んだよ。
でも「わかりません」なんて言える状況じゃないし……。何とかして答えを捻り出さなきゃ。
私は目を閉じて脳内に盾を構える自分をイメージした。ギルティエゴと同じ姿勢をすると、ゲームみたいに完全に防御姿勢。でもって攻勢に出るためには防御で使った盾が邪魔してすぐに剣を振れない。
剣を振る範囲に盾が無ければいいんだけど、その為には相手がどこを狙っているのか的確に見極めて盾をそこへ構えなくてはいけないよね……あっ、もしかして!
私はクロルを相手に見立てて正面に盾を構えるように腕を構え、盾を構えた腕から身体を45度くらいずらして半身を出し、軽く剣を構える姿勢をとった。
「こうすればすぐに反撃に出れるんじゃないかな? ただ、相手の攻撃を見極めて盾で確実に防げなければダメージを受けちゃうけど」
「なるほど、流石ルミリア様ですわ! ということはギルティエゴさんはユークさんの攻撃を見極めれず防御に徹するしかなかったということですね。クロル様が『不意を突くことはできたんだが』と仰ったのはそういうことだったのですか」
「あぁ。ただし、あの攻撃を防ぐのはギルティエゴだから出来たと思う。並の騎士では受け止めれたとしてもバランスを崩して反撃どころじゃなくなるくらいの威力があっただろうからな」
「まぁ! ユークさんもすごいですが、素で受け止めれるギルティエゴさんもすごいのですね。流石、由緒ある騎士家系の血を引くお方ですわ」
シェリエルはそう言いながら視線をユーク達に戻した。……って、しまった! また話に集中しちゃって試合の様子を見てなかったよ。
私は急いで視線を戻した。視線を戻すと、丁度ギルティエゴがユークの剣を盾で押し返したところだった。
ユークは間合いを開けて体勢を整えようとする。しかしギルティエゴはその時間を与えなかった。
ギルティエゴはユークが間合いを開けるなりすぐさま攻撃体勢に入り、連続攻撃を繰り出し始めた。む、また力押しで勝とうとしてる? 反省してないのかな?
そう思いながらユークがなんとかギルティエゴの剣撃を受け止めたり回避したりしているのを見ていると、時間が経つごとに違和感を感じ始めた。何だかギルティエゴの剣撃が徐々に速くなっている気がする。
私はギルティエゴの剣撃を注意深く観察してみた。……昨日と違ってムラがない。しかも徐々にスピードを上げて相手の限界を探りつつ、じわじわと追い詰めているみたい。
ユークもウィンドアシストを徐々に強めてギルティエゴの剣撃を受け止めたり回避している。……はっ、それってマズイじゃない! 魔力が枯渇しちゃったらギルティエゴに通用する攻撃が出来なくなっちゃうよ。どうする、ユーク!
試合を見守ることしか出来ない私は、ハラハラしながら両手を胸の前で組み、心の中で一生懸命応援するしかなかった。
数えきれないほどの剣撃を繰り出したギルティエゴは不意に大きく剣を振りかぶった。それはまるでこれからユークにとどめを刺そうとするかのように。
対するユークは足元がふらついていてもう限界の様子。あぁ、もうダメなのかなぁ……。
ユークは負けてしまうのか、と諦め始めていたその時、ユークが後退して間合いを開けたかと思ったら剣を構えて素早い動きでギルティエゴに突っ込んでいった。
「最後の賭けに出たか」
クロルはやはりといった様子の声で呟いた。ということはこの一撃が通用するかしないかで勝敗が決まるってこと?
私は見逃すまいとしっかりと目を見開いて2人の動きを見つめた。
ギルティエゴは振りかぶった剣を振り下ろす動きに入った。対するユークは突きの構えでギルティエゴめがけて突っ込んでいく。
このままいけばギルティエゴの剣がユークに当たる前に、ギルティエゴの首に剣を突きつけれそうだから判定勝ち出来るはず。やれやれ、ホッと一息つけるよ。
――と安心しかけたその時、ギルティエゴの剣の軌道が変わり始めたのが見えた。ギルティエゴの剣はわざとユークを外した軌道に変わり、盾を構えて防御姿勢に入った。
残りの全ての魔力をかけてウィンドアシストを使ったであろうユークは動きの修正をすることが出来ず、勢いがついたままギルティエゴの盾に突き当たった。
身長差があってユークの剣先が斜め上を向いているのを利用し、ギルティエゴは盾をユークの方へ押しながら上に勢いよく上げた。
その勢いでユークは尻餅をつくように地面に倒れる。ギルティエゴはユークが体勢を立て直す前にピタリと剣先をユークの首に突きつけた。
「……そ、そこまで!」
試験官はこの試合に見いっていたようで、ハッと自分の仕事を思い出した様子で試合終了の合図を言った。
ギルティエゴは剣を鞘に納めて気を付けの姿勢をした。ユークはよろりと立ち上がり剣を鞘に納めて気を付けの姿勢をした。
「この試合、勝者ギルティエゴ」
「ありがとうございました」
ギルティエゴとユークはそう言って一礼する。一礼した後、ユークは重たい足取りでギルティエゴの前から去っていった。
「ユークさん、負けてしまいましたね……」
「うん……」
「でもギルティエゴ相手にかなりの大健闘だったと思うよ。試験官も見いってしまうほどの良い試合だったしさ。今までの成績から比べればかなりの成長だし、騎士見習いに戻されることはないと思いたいな」
「そうだよね」
そう話しながら私達は試験終了後の結果発表があるまで他の騎士の試合を見ることにした。
×××××
試験が終了し、騎士達が練兵場に整列した。どの騎士達も緊張と疲れの混じった表情をしている。騎士長が騎士達の前に立ち、今回の試験の総括を話し始めた。
「今回の試験は、前日の勇者様の剣術指導のお陰もあって前回よりも遥かにレベルの高いものとなった。しかも今回は丸一日、勇者様が陰ながら試験を見守って下さっていた。勇者様、どうぞこちらに来てぜひ何か一言を」
騎士長は練兵場の隅っこにいた私にいきなり話を振ってきた。騎士長、不意打ち過ぎますよ! 私はただユークの応援に来ただけだから特に話すことなんて無いんだけど。
ってそう思っている間に騎士達の視線が集まっちゃった。今さら断れる雰囲気じゃないし……うぅ、何か言わなきゃ。
私はゆっくりと歩いて時間を稼ぎながら、勇者の記憶から使えそうな台詞を探し話す内容を考える。騎士達の前に着き、私は一礼した。
「皆さん、お疲れ様でした。騎士長が仰った通り、皆さんとても良い動きをされていました。この国を守る騎士として今後も自己鍛練をしてさらに強くなって下さい。
本日は皆さんとてもお疲れだと思いますので、私からの話は以上とさせていただきます」
そう言い終え、私は再び一礼し、クロル達の元へ戻った。ふぅ~、なんとか勇者の記憶から無難な台詞を見つけれたから良かったぁ~。
一息つき、騎士長がまた話を始めたので耳を傾ける。
「それでは今回までの試験の成績を踏まえて結果を発表する。正騎士として残る者は――」
騎士達の表情がさらに緊張したものに変わる。私もユークの結果が気になり緊張してきた。胸の前で手を組みながら祈るように結果を待つ。
「ギルティエゴ・ロエ・ダフニスク――以下全員!」
騎士長がそう言うと、騎士達はキョトンとした表情で騎士長を見ていた。
「……よっしゃああああっ !!」
誰かの雄叫びをかわきりに、一拍遅れて騎士達の歓喜の雄叫びが練兵場内に響き渡った。
「やったー!」
私も嬉しくなりクロルとシェリエルにハイタッチして喜んだ。
「やりましたね、ユークさん!」
「よかった、本当によかったよ」
喜んでいると、騎士長が声を張り上げて静かにするように言った。おっといけない、人の話は最後まで聞かなきゃね。
約1分くらいして、練兵場に再び静けさが戻った。
「ごほん。今回、久しぶりに正騎士実力試験で全員が正騎士として残れたのは、やはり前日の勇者様の指導のお陰であると思う。皆、勇者様に感謝し、教えていただいたことを忘れることなくこれからも鍛練に励むように。
以上で正騎士実力試験を終了とする。各自、武具の手入れをしてしっかりと身体を休めるように。解散!」
騎士長がそう言い終えると騎士達は私に指導のお礼を言いにやって来た。
「勇者様、本当にありがとうございました!」
「勇者様の教えを忘れずしっかりと自己鍛練してまいります!」
「え、あ、はい。こ、今後も皆さん頑張って下さいね」
「はいっ! では失礼します!」
騎士達はそれぞれ宿舎や食堂へ向かって行った。ふぅ~、びっくりした。騎士達までも不意打ちで来るなんて、もう心臓に悪いよ。
一息つき、私はユークにお祝いの言葉をかけようとユークの姿を探す。
騎士達がまばらになったところでようやくユークの姿を見つけた。ユークを呼ぼうとしたらユークは駆け足で私達の元へ向かってきた。
「ユークさん、おめでとうございます!」
「ありがとうございます! 皆さんのお陰で無事、正騎士に残れました。本当にありがとうございます!」
「いえ、私達はユークさんに少しアドバイスをしただけですよ。正騎士を勝ち取ることができたのはユークさんにそれだけの実力があったからこそですから」
「俺達はただ君の長所を活かせるようにちょっとしたアドバイスをしたまでだから、もっと自分の実力を評価していいと思うよ」
「そんな、ありがとうございます」
ユークは少し照れながら嬉しそうに笑みを浮かべた。
「この調子でまずは大隊長を目指してみるのはいかがでしょうか」
シェリエルはにっこりと微笑みながらさらりとすごいことをユークに言った。ちょっと大隊長とかいきなり過ぎじゃない?
「そ、そんな、とんでもありません! まだ自分の力を安定させれない僕には程遠いお話ですよ」
「うふふ、そうでしょうか? ……あら? ルミリア様、1人、騎士の方がこちらに向かって来ているようですわ」
「え、誰だろう?」
私達はシェリエルの視線の先を追った。ん~、あれは――ギ、ギルティエゴ !?




