1.プロローグ
「はぁ~……」
私はゲームを片付けながら溜め息をついた。だって明日は仕事が始まる週の始めだからね。
今日一日をとりあえず“つまらせて”くれたゲームを部屋の隅へ片付け、私はベッドに潜った。
明日からまた仕事に行って帰って来るだけの伝書鳩のような日々が始まる。毎日ドジして怒られてばかりだけど、それ以外は何事もなく平穏無事に過ごせているからまぁ、いいんだけどね。
でも逆に何も無さすぎてつまらない。折角の休日も、ぼっちな私には遊びのお誘いをしてくれる人なんていないから、いつも1人でゲームをしたり、本やネット小説を読んだりして何とかその日を凌いでいるんだよね……。はぁ~、いつから私の人生はこんな寂しい人生になってしまったんだろう……。
ちょっとブルーな気分のまま、私は眠りに落ちた。
×××××
「――になりたい人~」
……えっ、誰?
突然、のんびりとした子供っぽい声が聞こえてきた。誰かが部屋に入ってきたと思い、声の主を見ようとするけど目が開かない。しかも身体も動かない! も、もしかして金縛り !? じゃあ、声の主って幽霊 !?!? ひぇ~っ、誰か助けてーっ!!!
私は心の中で叫んだ。しかし心の叫びも虚しくまた声が聞こえてきた。
「誰か~、勇者になりたい人、いませんか~?」
うん? 今、『勇者になりたい人』って言わなかった?
私は聞き逃さないように耳を澄ませた。
「最後にもう一度聞きま~す。勇者になりたい人~、いませんか~?」
……これってもしかして最近読んでる“異世界転生”や“異世界トリップ”的なヤツ !? もしそうなら私、勇者になりたいですっ!!!!
私は先程よりも大きく心の中で叫んだ。だって異世界に行けば、このつまらない日々にサヨナラできるんだもん! こんな貴重なチャンスを見逃すなんて考えられないよ! 誰だか知らないけど、勇者になりたい人はここにいますよーっ!!
私はさらにアピールした。
「おっ、勇者になりたいんだね? ……まぁ、いっかぁー、他に勇者になりたい人はいないみたいだし。それじゃあ、今から君は勇者だ。勇者よ、世界の平和を取り戻す為に行くのだー!」
任せてください、誰かさん! よっしゃーっ、これで異世界に行ける! しかも勇者になって! もう最高にいい条件だよ!
私は嬉しさのあまり、目を開けていないのにもかかわらず、視界が真っ白に埋めつくされていくことに気付かないまま意識が途切れた。