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14.類は友を呼ぶ?

 何も考えずに歩いていると、いつの間にか中庭ではないところに来てしまっていた。一体どこに来ちゃったんだろう? 

 場所を把握するためにとりあえず周りを見回す。見回していると、倉庫のような建物の前で1人悩んでる様子の衛兵がいた。私なんかに手伝えることがあるか分かんないけど、とりあえず衛兵の元へ行って話を聞いてみよう。


「どうかされたのですか? ……ぁ」


 声をかけた悩んでいる様子の衛兵は、勘違いをして問題を起こしてしまう残念な衛兵ベレンツォだった。


「これはこれは、勇者様ではありませんか。先日はとんだご無礼をしてしまい申し訳ありませんでした」


 ベレンツォは深々と頭を下げて謝ってきた。


「いえ、お気になさらず。こちらがしっかりと説明しなかったのもいけませんでしたから」

「いいえ、私が全て悪いのです。勇者様が謝られる理由はありません」


 ベレンツォはすかさず謝ってきた。う~ん、確かにベレンツォの勘違いで面倒なことになったけど、それは私が説明をはしょったせいで勘違いさせちゃった訳だから……。


「いいえ、あなたは確認を(おろそ)かにすることなくただ真面目に職務を全うしていました。それなのに私が先を急ごうとして詳しく説明をしなかったことがいけないのです」

「いいえ、勇者様は何も悪くありません。勇者様から簡潔に説明をしていただいた後、私が勝手に間違った方向へ解釈してしまったことがいけないのです」


 またしてもベレンツォはすかさず謝ってきた。う~ん、ベレンツォがすべて悪い訳じゃないという意味で言ったんだけど、ベレンツォはそれを認めてくれないなぁ。

 とりあえず、このままじゃずっと謝罪の平行線になりそうだから「あなたの謝罪の気持ちはとてもわかりました。以後、気を付けて下さいね」と言って終わらせることにした。

 するとベレンツォは突然、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き始めた。えっ !? いきなりどうしたの?


「私の愚行を軽くして下さろうとかけて下さったお言葉に、改めて勇者様の慈悲の深さを感じました。もう、感謝感激でございますぅ」


 はいはい、涙の理由はそれね。それはいいから悩んでる理由を知りたいんだけどなぁ。


「ところで、先ほど何か悩んでる様子でしたが、何か問題があったのですか?」


 ちょっと強引だけど聞いてみる。だってそうしなきゃいつまで経っても話してくれそうにないからね。


「ぐずっ、勇者様は本当にお優しい。こんな下っ端の悩みを聞いてくださるなんて。うぅ~」

「……あの、泣いていてはわかりません。それに大の男がすぐに泣いては格好悪いですよ」

「うぅ、(おっしゃ)る通りです、勇者様」


 そう言うとベレンツォはハンカチを取りだし、涙と鼻水を(ぬぐ)った。


「実は昨日、衛兵長から直々に武器等の管理の担当に任命されまして、早速確認作業をしているのですが……」


 ベレンツォはびっしりと紙いっぱいに文字が書かれている1枚の紙を見せてきた。


「この紙には各武器の総数が書かれているだけで、現在の残数をすぐに確認することができないのです。そこで、どうしたらいいのだろうと考えておりました」

「なるほど、そういうことですね」


 それじゃあ、新しく分かりやすい表を考えた方がいいね。よしっ、この問題は元の世界で表を作ったりしてた経験が活かせるぞーっ!


「こほん、それでは(わたくし)が新たに表を作成しましょう」

「そんな、これは私の仕事ですので勇者様のお手を(わずら)わせてしまうなんてとんでもありません!」

「お気になさらず。これは(わたくし)がやりたくてすることですから」

「ゆ、勇者様ぁ……!」


 ベレンツォは再び泣き始めた。


「こんなただの衛兵1人のためにお力を貸してくださるなんて私は、私は――」

「あの、紙と書くものを貸してもらえますか?」

「あ、はい、こちらをどうぞ」

「ありがとうございます」


 私は紙と書くものを受け取り、簡単に線を引く。

 まずは武器の名前と総数を写して出納欄をたくさん作って――あ、それなら使用頻度順がいいかな? ……しまった、使用頻度順なんて分かんないや。それなら武器ごとの表にしちゃおう。そしたら一覧と別に誰が何をいくつ持ち出したかを書く出納ノートも作って……。あ、紙が足りない。


「すみません、紙はまだありますか?」

「ははっ、すぐにお持ち致しますっ!」


 ベレンツォは駆け足で紙を取りに向かった。



 数分後、ベレンツォは紙を大切に抱えながら駆け足で戻ってきた。


「お待たせ致しました! どうぞ、こちらをお使い下さい」


 ベレンツォは(うやうや)しく紙を渡してきた。あれ? 最初の紙と質感が違う気が……ま、いっか。


「ありがとうございます」

「他に何か足りないものはありますか?」

「今のところ大丈夫でしょう。もし足りなくなったら、またお願いしても良いですか?」

「お任せ下さい! このベレンツォ、勇者様のご命令とあらばなんでもお応え致します!」


 ベレンツォは目をイキイキと輝かせながら答えた。う~ん、やる気に満ちているのはいいんだけど……この感じ、なんだかイヤな予感がするなぁ。まぁ、気のせいかもしれないけど。

 私は再び作業に戻った。




「できました!」


 写し間違えや書いている途中で新たに項目を思いつき、最初から書き直したりして数回ベレンツォに紙を取りに行ってもらったりしたけど、なんとか表とノートを完成させることが出来た。

 早速ベレンツォに見せてみる。


「おぉ! とても見やすくて素晴らしいです!」


 ベレンツォは大袈裟(おおげさ)なリアクションで拍手しながらベタ褒めしてきた。


「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると作った甲斐(かい)があります」


 仕事じゃ褒められることなんて無かったから嬉しい。……けど何故だろう、心の底から喜べない自分がいる。ベレンツォのリアクションが大袈裟過ぎて逆に嘘っぽく感じちゃってるのかなぁ?


「見つけたぞ、ベレンツォ!」


 疑問に思っていると、黒に近い濃い紫色のガウンを着た人が恐い顔をしながらやって来た。

 えっと、確かこの服装の人は文官で……財政担当のオルフォンっていう人だったはず。どうやら怒ってるみたいだけど、ベレンツォが何かやらかしたのかな?

 とりあえず様子を見ることにした。


「ベレンツォ、この紙が一体どういうものなのか分かっているのか?」


 オルフォンは失敗作の表の書かれた紙を手にしながら聞く。


「もちろんですとも! この紙は、国内最高の書き心地の良さを誇るイルニス()です!」


 へぇ~、あの紙はイルニス紙っていう高級な紙だったんだー。確かに(なめ)らかな質感で書いていて引っ掛かったりすることはなかったなぁ。


「それを知っていながら貴重な紙を何十枚も無断で持ち出すとはどういうことだ! しかも使用済みの紙を見たら持ち出した枚数の半分以上を無駄にしているではないか!」


 オルフォンは失敗作の表の書かれた紙をベレンツォの顔に近づけながら怒鳴る。あ~、なんかヤバイ雰囲気になってきちゃった。


「きょ、許可ですか? 私は勇者様から『紙を持ってきて欲しい』と頼まれましたので、最高の物をお渡しせねばと思い、イルニス紙を持ち出したのですが……」


 えっ、ちょっと! このタイミングで私の名前を出すの !? 私としては試作の段階は不要になった紙の裏とかでも全然良かったんだけど。


「勇者様が? 勇者様、それは本当ですか?」

「え、えぇ。確かに頼みましたが……」

「イルニス紙をご希望でしたか?」

「いいえ、特に希望はしておりません」

「分かりました。……ベレンツォよ、またやってくれたな」


 オルフォンはベレンツォをギロリと(にら)む。


「す、すみません。私の勝手な勘違いで迷惑をかけてしまい……申し訳ありません」


 ベレンツォはオルフォンに深々と頭を下げて謝る。……なんかベレンツォを見てると仕事で失敗して上司に謝る自分と重なるなぁ。ってか今回のって私が紙の質感が最初に貰ってたのと違うことに気付いていながら、特に気にせず大量に無駄にしちゃったのもいけないよね。


「オルフォンさん、私がイルニス紙だと気付かずたくさん無駄にしてしまったのです。私にも非がありますから、どうか彼を責めないであげてください」

「えっ、ここにある使用済みのイルニス紙は全て勇者様が書かれたものですか?」

「は、はい……」


 オルフォンは一瞬、(あき)れた表情をしたけど、すぐに厳しい表情でベレンツォを見た。


「ベレンツォ、勇者様に自分の仕事を手伝わせるとはどういうことだ!」

「そ、それは……」

「オルフォンさん、(わたくし)が勝手に彼のお手伝いしたのです。彼は悪くありません」

「しかし――」

「そもそも(わたくし)が紙を頼まなければ、こんなことにはならなかったのです。すみませんでした」


 私は頭を下げて謝る。


「そんな、あ、頭を上げてください、勇者様。――分かりました、この事は私が何とかしておきます」

「本当ですかっ? ありがとうございます!」


 私はさらに頭を下げた。


「ルミリア様、オルフォン様がお困りですわ」

「えっ?」


 頭を下げていると突然、背後からシェリエルの声が聞こえてきた。いつの間に近くに来ていたのか分からないけど、とりあえず頭を上げる。するとオルフォンの困り顔がすぐに安堵の表情に変わった。ん? 私、今何か困るようなことしてたっけ?


「ルミリア様は上流貴族であるだけでなく“勇者様”でもあられるのですから、簡単に頭を下げるのは逆に相手を困らせてしまいますわ」


 シェリエルはそっと耳元で教えてくれた。確かに、目上の人に頭を下げられると逆に謝られるこっちの方が悪い気持ちになるもんね。これからは気を付けなきゃ。


「それでは私はこれで失礼します」


 オルフォンは(うやうや)しく一礼すると足早に去って行った。……気のせいか一礼した時、顔が引き攣ってるように見えたけど。


「オルフォン様、感情が隠しきれてませんでしたね」

「やっぱり……」


 そうだよね、怒ってるよね……どうしよう。


「大丈夫です、ルミリア様。まだ未熟なところがあるオルフォン殿ですが、仕事はできる男です。心配はいりませんよ」

「は、はぁ……そうですね」


 いや、そっちの心配じゃなくて……はぁ、また勘違いしてるよ。もうこれ以上、勘違いを増やす前に離れた方がいいね。あ、でもその前に――。


「ベレンツォさん、ご迷惑をかけてしまいすみませんでした」

「そんな、今回のも全て私がいけないのです。勇者様は何も悪くありません」

「いいえ、私がちゃんと伝えきれてなかったからです」

「それは違います。私が勇者様のお考えをくみ取ることが――」


 あー、また平行線だよ。もうっ!


「まずは(わたくし)の話を聞いてください!」

「は、はいぃっ!」


 平行線な状況を断ち切る為にちょっと厳しい口調で言ってみた。ベレンツォは緊張した表情でビクンッと固まる。


「今回のような勘違いは、意思の疎通がしっかり出来ず、憶測で動いてしまうことで起きてしまいます。先程、あなたは『考えをくみ取ることができなかったから』と言いましたね?」

「はい」

「相手の考えをくみ取ることは簡単ではありません。ましてや昨日、今日少し話したぐらいの相手の考えをくみ取ることなんてなおさらです。だから分からなければ恥を恐れず、相手に確認してから動くのです。もし、どうしても相手に確認出来ないのであれば誰かに相談するのです。良いですね?」

「ははっ、承知しました! 今後は勇者様のお言葉を肝に銘じて(はげ)んでまいります!」


 ベレンツォはビシッと敬礼して答えた。これでベレンツォの勘違い癖を少しでも無くすことができればいいんだけど……。私の経験からだと勘違い癖のせいで、分かってないこと自体に気付けないことがあるんだよねぇ。

 偉そうなこと言ってる私自身も出来てないから、お互い頑張っていこう! そう心の中で言いながら「頑張って下さいね」と声をかけて倉庫をあとにした。



 さてと、私はオルフォンにかけた迷惑をどう(つぐな)うか考えなきゃね。やっぱりお手伝いするのがいいかなぁ?


「ルミリア様」


 私の一歩後ろをついて歩くシェリエルが呼んできた。


「うん? どうしたの?」

「一緒にいたクロル様はどうされたのですか?」

「……あ」


 やばっ、すっかり忘れてたよ。ど、どこにいるのかな?

 私はクロルが近くにいないか周りを見回す。う~ん、クロルは……あ、いたいた!

 私はクロルを呼びに行くことにした。しかし、なぜかシェリエルに止められてしまった。えっ? 話を振っておいてどういうこと?

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