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9.異世界見学

 あれから1週間ほど魔術と剣術の練習をして、変な(くせ)や無駄な動きを直していった。


「さて、魔術も剣術も大分(だいぶ)手慣れた感じになってきたし、明日は街に行ってみようと思うんだがどうだ?」

「えっ、街?」


 そういえばこの世界に来てからまだ森から出たことなかったなぁ。街ってどんな感じなんだろう? ゲームに出てくるようなヨーロッパ風の石造りの建物とかレンガ造りの建物とかかなぁ? あ~楽しみ♪


「行くところはリクディアという王都の次に大きい街で、商業が盛んなところだ。格好だが素の勇者の姿だと目立ってしまうから、幻術で姿を変えて兄妹という設定で行くから」

「えっ、つまり長時間魔術を使うってことだよね? 大丈夫かなぁ……」


 いつ魔力切れをして幻術が解けてしまうかビクビクしながら歩くなんて怖いよ……。


「大丈夫、勇者よりも魔力量が少ない俺ですら1日中幻術を使っても大丈夫だから、ルミリアなら余裕だって。俺も一緒に幻術を使いながら歩くから先にダメになるとしたら俺の方だし」

「そ、そうなんだね。わかった」


 よかったぁ。やっぱり勇者って魔力量がスゴいんだ! それなら安心して歩き回れるね。はぁ~、明日が楽しみだなぁ♪




 翌日、ウィニット君の力でリクディアの近くの森まで転移し、そこから歩いてリクディアへ入った。

 リクディアは石畳の道に石造りの建物やレンガ造りの建物、部分的に木材を使用した建物があり、建物には格子窓やアーチ型の窓、アンティーク調の外灯などがある。テレビで見たヨーロッパのどこかの国――フランス辺りかな? そんな感じの街並みだった。

 でも街の中を歩いている人々は中世ヨーロッパ風のファンタジーな服装をしている。――なんだかどこかのテーマパークに来たみたい!

 ワクワクしてきた私は終始周りを見回した。


「お嬢ちゃん、リクディアに来たのは初めてかい?」

「えっ?」


 突然、親しみやすそうな顔のおじさんが話しかけてきた。


「そうなんです、妹は今までティダ村で過ごしていたからこういう都会は初めてでして。だから僕が案内しているところなんです」


 はっ! そうだ、この街には幻術で姿を変えて兄妹として来ているんだった。


「へぇー、よくあんな遠いとこからきたもんだ。そりゃあ、いろんなものに目がいっちまうわなぁ。

 しっかり手を繋いで目を離さないようにしておけよ、兄ちゃん。迷子なんかになったら捜すのが大変だからなぁ」

「そうですね、気を付けます。それじゃ、今度はあっちへ行こうか」


 そう言ってクロルは私の手を引き歩きだした。

 ひゃっ! お、男の人と手を繋いじゃってるよ、私……! あわわわっ、こんな状況なんて初めてだから緊張して顔が熱くなってきた!

 おおお、落ち着け私! クロルはただおじさんに言われた通りに手を繋いだだけで特別な意味を持って手を繋いだ訳じゃないんだから!

 そう思うように意識するけど、異性と手を繋ぐことに慣れてない私は全然落ち着けない。街の様子を見る余裕が無くなった私はただ、クロルに引かれるがまま歩いていった。




「おーい、大丈夫か?」

「……へ?」


 気が付けば、私達は人気(ひとけ)の無い通りにいた。


「初めて長時間幻術を使ったから気分が悪くなってしまったか?」

「えっ、そ、そんなことないよ」

「ならよかった。おじさんと別れた後ぐらいから話しかけても反応が無いし、顔が少し赤くなってたからさ、どうしたんだろうと思って」


 クロルは安心した様子で微笑んだ。あぁ、クロルが私なんかのことを心配してくれてたなんて……って冷静になれ、私。クロルはただ私の異変が気になっただけで、他意がある訳じゃないんだから。

 ごほん、とりあえず適当なことを言って誤魔化しておかなきゃ。


「ちょっと街並みが元の世界にある街並みと似てたからどこにあったっけなぁ~、なんて考えてたんだよねー」

「へぇ~、そうなのか。街に入ってからずっとキョロキョロしてたから全然違うのかと思ったよ」

「まぁ、私の住んでたところじゃほとんど見かけないから珍しくて色々と見ちゃったんだー」

「そうなのか。王都もこんな感じだから今のうちに見慣れておいた方がいいよ」

「はーい。ところで、この街には何しに来たの?」


 リクディアに来てからずっと何を買うでもなく歩いてばかりだったから気になったんだよね。


「んー、まぁ、散歩?」

「はい?」

「あ、もし何か欲しいものがあったら遠慮無く言ってくれて構わないから」

「あ、ありがとう……」


 なんだ、特に用があった訳じゃないのね。まぁ、この世界の街を見れたからいっかぁ。

 ……って、あ。もしかして“異世界”から来た私が、王都に行った時にキョロキョロしちゃうのを緩和する為に連れてきてくれたのかな? だって知らないおじさんに指摘されるほどキョロキョロしちゃってたんだよね、私。気を付けないと。

 私はお(のぼ)りさんな頭を切り替えて、この世界の光景をしっかりと目に焼き付けるよう心がけた。





  ×××××





 それから1週間、リクディア以外の街や村にも行ったりして買い物や食事をしながらこの世界を見て回った。村に行った時は乗馬の練習もしたりした。


 あと、この1週間ただ世界を見て回るだけでなく、王城にて王様に魔王打倒の顛末(てんまつ)(ウソ)を報告する練習もした。ちなみにクロルの幻術で本番さながらな状況(クロルの想像だけど)を再現してもらいながらの練習。

 でも正直、台詞が長くて長くてあがり症な私がちゃんと最後まで言えるかムチャクチャ不安なんだよね……。

 一応、頭が真っ白になった時の対策として風の繋がり(ウィンドコネクション)という対象の人物だけに話し声が聞こえるようにできる魔術でクロルがサポートしてくれることにはなってるけど……やっぱり不安だなぁ。




 そうして充実した1週間が終わり、ついに王都に行く日がやってきた。


「王都は楽しみだけど、王城での報告がなぁ……」

「大丈夫、あれだけ練習したんだ。練習通り落ち着いてやればできるさ」

「うーん……」


 確かに練習はしたけどさ、私って初心者でもできるような簡単な仕事でさえも失敗しちゃうようなケアレスミスの塊だからねぇ。不安だなぁ……。


「もしもの時はウィンドコネクションで助けるからさ、1人で背負い込まなくていいんだよ」

「う、うん」


 そうだ、いざとなったらクロルが魔術で助けてくれるんだ。いざという時の対策があることを頭では理解してたけど、クロルの口からそう聞いた今の方がスッと気持ちが楽になったか気がする。


「ありがとう、クロル。お陰で気持ちが楽になったよ」

「それはよかった。よし、さぁ王都に行こうか。ウィニット」

「は~い! それじゃあ、行っくよー!」


 私達はウィニット君の力で王都の近くの森へ転移した。

 



 王都に入り、お上りさん状態にならないように気を付けなから街の様子を見て回る。王都は以前クロルが言っていたようにリクディアと似てるけど、たまに歴史を感じさせる教会やモニュメントがあり、そこが商業中心のリクディアと違った。

 あ、ちなみに今回も目立たないようにクロルと私は兄妹設定。ウィニット君はクロルが腰に着けたポーチの中にいる。

 レリュルム族は空間を操る力を持っていることから裏の人間に狙われやすいらしい。そういう訳でウィニット君はポーチの中で隠れている。



「……ねぇねぇ、王都に来てからずっと歩いてるだけだけど、王都を見て回らずにそのまま王城に行ってもよかったんじゃない?」


 一向に王城に行く気配のないクロルに私は疑問に思い聞いてみた。だってこれじゃあ、この1週間やってきた異世界見学と同じだよ。


「んー、今回見て回ってるのはちょっと理由があって……」


 そう言うとクロルは小声で何かを呟いた。その直後、耳元に風を感じた。

 この感じは……ウィンドコネクションだ。他の人に聞かれちゃいけないことなんて一体なんだろう?

 不思議に思いながら私もウィンドコネクションを発動させる。


《……聞こえるか?》

《バッチリ聞こえるよ。それで、他の人に聞かれちゃいけないような理由って?》

《それは王都で凱旋パレードを行うかもしれないからなんだ》

《凱旋パレード?》

《そう。勇者が魔王を倒したことで世界が平和になったことを祝うお祭りみたいなものさ。で、その時に王都中――といってもパレードだから大通りだけだと思うが、大まかに王都を回らなきゃならなくなると思うんだ》

《えっと、つまり今見て回っているのは凱旋パレードの為の下見ってこと?》

《そういうこと。先に王城に行ってしまうと自由に王都を見て回ることは多分できないだろうから》

《そういうことだったんだ》


 よくそこまで頭が回るね。先の事を考えれない私はただ、王城で報告が済んだら楽な生活が待っているんだとばかり甘い考えでいたよ。

 それにしても、凱旋パレードねぇ~。あ、凱旋なんだから勇者(わたし)とクロルが主役なんだよね? ってことはパレード中、メチャクチャ人の注目を浴びるってこと !? うわぁ、恥ずかしすぎる……。


《ねぇ、クロル。パレードって辞退できるよね?》

《それは無理だな。もし、パレードをやらなかったら「この国の王は勇者様を軽んじている。一体何様のつもりだ」と、国民だけでなく他国からも大バッシングされて王家存亡の危機に陥ってしまうだろう。だから例えルミリアが仮病を使ったとしても、王は日にちをずらしてなんとしてでも実行するだろう》


 そんなぁ……あぁ、憂鬱なことが1つ増えたよ。


《まぁ、パレードといっても、沿道に集まった人々に笑顔で手を振ったりするぐらいだと思うからそんなに大変な事じゃないはずだよ》

《う、うん……それぐらいなら》


 つまり笑顔を絶やさないように気をつけてさえいれば大丈夫なはずだよね? ……うぅ、頑張るしかない。


「それじゃあ、残りの行ってないところへ行こうか」

「うん」


 とりあえず今はパレードのことはおいといて、王都の地理を頭に入れよう!

 気持ちを切り替えて、私は王都の様子を記憶に焼き付けるように心掛けて見るようにした。




 太陽がだいぶ西へ傾いた頃、ようやく王都の大通りを回り終えた。しかし私の方向感覚は見事に狂ってしまった。

 だって王都広すぎるよ! たまにモニュメントや目立つ建物があったとはいえ、そこに(いた)るまでの間、似たような建物しかないから距離感が全然掴めなくなっちゃったんだもん。

 ゲームみたいにマップがあればいいんだけど、マップ無しでこんなに広いところを一回見ただけで覚えるなんてムリムリ。

 そんなことをクロルに愚痴ると「何となくでも思い出せるなら大丈夫だよ」と言ってくれた。本当になんとな~くしか思い出せないけど……クロルがそれでも良いって言ってくれたからまぁ、いっか。


 次にやることを話す為、私達は人気(ひとけ)のない裏通りへ入った。


「さてと、王都を一通り見て回れたことだし、王城へ行くとしようか」

「う、うん」


 王城……ヤバイ、緊張してきた!


「王城に入る前に元の姿に戻らないといけないが、目立つと厄介だからこれを」


 そう言ってクロルは腰に着けたポーチからローブを取り出した。


「これを頭までしっかり被っていれば勇者の姿でも目立つことはないだろう」


 そう言ってクロルは私にローブを1つ渡すと、もう1つポーチからローブを取り出し()()り始めた。フードを目深に被った姿はまさしく――不審者以外の何者でもなかった。


「あの~、このローブって被ると幻術みたいな作用があるとかじゃないの?」

「え? そんなすごい効果はないよ。これは普通のローブだよ」

「えぇっ !? ちょっと待って、頭まで被ってたらただの怪しい人にしか見えないんだけど」


 そんな格好で城門前の衛兵に会ったら絶対に王城じゃなくて牢屋に連れていかれちゃうよ。


「大丈夫、勇者(ルミリア)の顔とこれを見せれば」


 そう言うとポーチから今度は勇者の剣を取り出した。

 ちょっと待ったー! 一体そのポーチどうなってんの? 大きさからして絶対に剣を入れておくことなんてできないでしょ!

 そもそもさっきのローブですら入ってたのが不思議なくらい小さいポーチなのに。まるで某アニメのロボットが持ってるポケットみたいじゃない! しかもポーチの中にはウィニット君が……あ、ヤバイ。ウィニット君の存在を忘れてたよ。

 ウィニット君の能力があれば連携して某アニメのポケットみたいなことなんてできちゃうよね。ごめんね、ウィニット君。

 私は心の中でウィニット君に謝りつつ、クロルから剣を受け取り身に付け、ローブを羽織った。そして幻術を解除する。

 準備が整いクロルを見ると、クロルも幻術を解除したところだった。


「それじゃあ、行こうか」

「う、うん」


 私は一度深呼吸してから城門へ向かって歩きだした。

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