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男だけど乙女ゲームの世界に転生した。  作者: 鴉野 兄貴
この世界は乙女ゲームの世界だ
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憧れの先輩

「こ、こんにちは。『弟』さんのお姉さん!」


 ガチンコチンに緊張している四谷君。

 本編では背の高いワルっぽい年下美青年なのだが、どういうわけかまだ背が伸びていない。

「……」

 急に押し黙っていた姉の瞳がキランと光った。ついでに矯正中の歯の金具も。

 にぱぁと笑いながら四谷君に近づく。

「……かわいい」


 バタバタと抵抗する四谷君を背後から抱きしめて彼女はつぶやいた。

「コレ、貰っていい?」

 ぬいぐるみじゃない。俺と五葉先輩は同時に突っ込んだ。


「へぇ三笠先生の弟さんなんだ」

「う、うん」


 脅える四谷君に猫じゃらしをぶんぶんする姉。猫じゃない。

「ああ。残念な姉だが悪意はない」

 そう俺がつぶやくと五葉先輩がじっと俺を眺めた。なんかあったか?

「……」

 ちょ? 首絞めないでッ チョークチョーク!? 首入ってるって! それよりおっぱいおっぱい?!


「おお。そうだ。100円ショップでいいものを買ってきたのだ。五葉タン」

「ほう。聞こうではないか」


 俺たちを捕縛した二人は驚愕の代物を出してきた。



「キャー!」

「可愛いッ」


「『弟』君意外とイケメンだったのね」

「私の弟だし!」


「聞かなかったことにしておこう。私は寛大だ」

「ひどーい!?」


 きゃぁきゃぁはしゃぐ彼女らの暴走を止める者はいない。

 俺と涙目の四谷君はかつて母が使っていた埃だらけの鏡台の前に座らされ、二人の年上女の成すままに女装させられている。


 二人の言い分では。

『化粧の練習をしたい』

 というが、なぜ俺たちに施す。自分にしろ。

 みるみるうちに女の姿になっていく俺たち。四谷君は既に脅えている。

 これでも本編ではワル系キャラなのだが。どうしてこうなった。どうしてこうなった。



 今度はスカート! お母さんのスカートあるよっ?!

 はしゃぐ姉は防虫剤の匂いのする懐かしいスカートを出してきた。

 こまめに防虫や虫干ししているので保存状態はいい。


「穿くの? 俺たち」

「先輩……なんかもう色々と自信失って別の自信つきそうです」


 結局四谷君を探してやってきた三笠先生に救助されたが、フリフリのエプロンドレスを身にまとった弟の姿を見た三笠先生の表情は凍っていた。

 疲れた。寝る。しんどい。



 ちこくちこく~~~~~~!


 姉貴が叫び、俺を叩き起す。

 化粧をしていることに気付く俺。

 なんか布団が口紅だらけになっているのだが。

 そんな惨状を顧みず姉は叫んだ。


「『弟』君。なんで起こしてくれなかったの~!? がっこーがっこー!」

「カッコウ カッコウ どうなる」


 顔色を変えて彼女は叫ぶ。

「それはなろう規約に抵触する!」


 姉よ。何度も何度も警告するが、Web小説ばかりみてないでせめて音楽ステータスくらいあげてくれ。

 俺の心の言葉を知らぬまま、埃のかかった鏡台に座って何かおっぱじめた彼女。

 山姥もかくやの酷い顔に変貌していく彼女に俺はあきれ顔。


「遅刻するっていったばかりじゃないのか」

「化粧は女の顔の一部っていうよっ?!」


 いや、その。女子高生という生き物はそんな山姥化粧をしたら生徒指導に叱られるから。


「とりあえず、もう少しナチュラルなメイクにしろ」

「もうすぐ茄子とメイク?」


 違う。


 あと、その香水はホモ用の男性化粧品だ。警告を発することができなかったのは強烈な腋臭臭に気づいてからだ。


「なにこのにおい~~~~~~~?!」

「多分ホモ用」


「オトコにモテモテって言うから?!」


 とりあえずそれを勧めた奴を連れてこい。処刑する。

 聞けばTwitter仲間らしいが、多分多大な誤解をされている。


「五葉タンごめん! 今すぐいく?!」


 携帯を取り出し、五葉先輩に電話をしているらしい姉。姉よ。姉よ。五葉先輩も迷惑だろうに。


「弟君に代われって」


 急に携帯を渡されて電話に出る俺。

 寝ぼけた先輩の声がする。


「むみゅ。私なんか約束してたっけ」


 先輩。おはようございます。


「多分、姉は今日が日曜日だと知らないのだと思いますよ」

「だと思った。寝かしておいて」


 先輩の可愛らしい寝息が聞こえだしたとき、気が付いたら姉は自転車にのって坂道を駆けて行っていた。


 姉よ。今すぐ競輪始めて家計を助けてくれ。



 日曜か。どうしようかな。

 あ。番長と遊ぶ予定だった。

 姉のことなんてほっておくか。

 こうして俺の一日が始まる。


 昼までダラダラすごし、のんびり歩いて番長の家に。

 お土産も持ったし。番長喜ぶだろ。


「番長。遊びにきたっす」

「おおッ?! 『弟』かッ 入れ入れッ!!」


 この年上の男、年下の俺も隔てず友人として扱ってくれる。見た目はアレだがいい人である。二メートル超えの大男が小さな座布団にちょこんと座って緑茶啜っているのはなんとも愛嬌と違和感があるが。


「結婚は卒業後という前回の話だが、父も母も大歓迎でな」

「はぁ。ありがとうございます」


 流石番長だ。俺の姉のことまで祝福してくれるとは。


「しかし、学生の身ではまだまだ難しい。よって、当面我が家でサポートことになった。俺も長男として兄としてマブダチとしてお前を支える所存だ」

「あざっす。番長」


 高級緑茶の香りを楽しみ、苦みと甘みの効いた茶と甘い和菓子に舌鼓。


「その桜餅は妹が作った」

「へぇ。妹さん、料理が上手なのですね」


「お前が来るのが唐突だったからな。模試で席をはずしているが」

「へぇ」


 まぁ巨神兵みたいな妹と出会っても嬉しくはない。


「今日は泊まっていくだろ?」

「いや、姉とはちゃんと仲直りしましたし」


「む。そうか。それは残念。もとい、良いことだ」


 そういえば客室に真っ赤な布団があったが、誰か来る予定だったのだろうか。


「高卒で家庭を持つのは辛いぞ。自営業なら何とかなるというが、やはり大学などで多くの経験を積んだほうがいい」

「番長は一回大学出ていますもんね。説得力あるっすね」


「まぁ就職できるかは別問題だ」

「世知辛いっすね」


「俺は大丈夫。一昨年書いた卒論の評価は今だ高い。日本国内に拘らなければ引く手あまただ」

「流石っ」


「あれなら一人くらい斡旋できなくもない。大学で六年の間今の成績を維持できるのなら特にな」


 へぇ。番長って学校内以外のコネも凄いのか。えらい人だなぁ。


「しかし妹はどうにもこうにも……まぁ人並みより上ではあるのだが」


 頭を抱える彼。


「塾では特進一歩手前でしたっけ」

「年下に勉強を教えるのは得意なのだがいかんせん自分自身のは」


 色々大変な妹さんだな。


「教師を目指しているとか仰ってましたっけ」

「うむ。あれは良い教師になると思うが」


 GAHAHAHAHA!!! と叫んで子供たちをジャイアントスイングしつつ豪快に教育する女丈夫を想像して噴く。


 しばらくしてドタバタという音と共に。


「ただいまっ! お兄ちゃんッ! 『弟』君まだいるっ?!」

「遅いッ 婚約者を待たせるなッ」


 あ、妹さん帰ってきたみたいだな。じゃ、帰ろう。


「番長、じゃ、今日は帰ります」

「い、今妹が身を清めているところなのだが」


「風呂に入っている? 曲がりなりにも年頃の娘さんに悪いので。じゃ」


 番長は何とも言えない微妙な顔をしていた。

 次の日、何故か五葉先輩は口を利いてくれなかった。



 三日後。


 『バケツクリームパフェ食いに行きませんか』と誘った先でパフェを食べながら五葉先輩はグチグチと謎の台詞を吐いていた。


「覚悟していたのに。早すぎるとは思っていたけども弟君なら仕方ないかなとか思っていたのに」


 意味が解らん……。先輩。パフェの食いすぎではないでしょうか。

「やっぱりお前とは決闘だ」

 先輩だけじゃなくて喫茶店に番長と三笠先生までいるのはなぜか。

 先ほどまで押し黙って不機嫌そうだった番長は何故かブチ切れた。

 こうして番長と俺は二度目の決闘を行うことに相成った。


「というか、二人とも停学や退学にならんのですか」

「お前らのじゃれ合いまで何故俺が関知せねばならんのだ」


 二人を同伴してきたらしい三笠先生はあっさりそう答えた。

 あの。一応生徒指導もやっていらっしゃいませんでしたっけ? こう見えても三笠先生は多忙だ。

 設定上、唯一の先生キャラなのでゲーム内のほとんどの職務を押し付けられているのだ。その行動力は超人的と言っていい。


「なに。問題になったら政治家の親父が黙らせる」

 おい?!

 PTA会長ともツーカーらしい。


「いじめだの体罰だののほうが深刻だろ。お前と五葉のやり取りなんて可愛いものだ」


 番長、強いんですけど。衝撃波を出したり、パンチ一発で岩を砕いたり、下駄の一撃で戦車の装甲版をへこませるんですよ?


「がんばってください。先輩」


 四谷君はキラキラした瞳で俺にタオルを渡してくれた。

 なぜ四谷君までいるんだ。


 一方、何故か番長サイドのほうには五葉先輩がいらっしゃる。何故か番長と知り合いらしく、タオルで頬を拭いている。別に汗などかいていない。


「怪我しないでね。二人とも」


 はぁ。止めてくださいよ。先輩。マジで。


「止めろと言われても」


 五葉先輩が苦笑すると四谷君がぼやく。

「番長さん、切れると一途だし」


「あいつの妹思いは病気だぞ」

「兄さんが言うと説得力がありますよね」


 一応、三笠先生と四谷君は兄弟だ。


「あ、怪我したらなおしてやるから。俺保険医兼ねているし」

 まて。三笠先生。学校として、いや一教師としてもどうなのだ。


「一応、俺も医者の資格持っているぞ。米国内限定だが」


 番長、どうりで的確に急所狙ってくるわけです。


 俺は自分の環境に嘆きながら拳を握りしめる。なんで番長キレているのよ? マジで。


「妹を振り回しておいて良く言う」

「妹さんなんて知りませんしっ?!」


「なにっ?! 自覚がないとは?! 矯正してやるっ!」


 番長の蹴りから気の弾丸が放たれ、俺が気合で吹き飛ばす。

 俺の空中蹴りが番長の帽子を吹き飛ばし、番長の空中アッパーカットが俺の脚を突き上げて空に。


 そうやって激しく戦っている間、姉はDSで五葉先輩とゲームをしていた。


 姉よ。少しは弟を心配してくれ。

 この戦いの後、五葉先輩は機嫌を直してくれ、遊びに誘ってくれた。

 よかったと思う。



「お疲れさま」


 俺は五葉先輩と久しぶりに遊びに。


「ってなぜ姉じゃなくて俺?」

「……」


 ツン。五葉先輩はすたすたと俺を置いて進む。

 背丈の割に先輩は足が長く、歩くのが早い。


「ちょ、ちょっとまって五葉先輩っ?!」


 ピタッと止まり、俺が追いつくのを待つ先輩。俺が追いつくと振り返り、華やかにほほ笑む。


「あ~あ。クリームソーダ欲しいなぁ」


 屋台のソーダに視線を向けて呟く彼女。


「太りますよ」

「むう」


 悩んでいるらしい。


「姉はクーラーが壊れて伸びていますけど」

「あの子らしい」


 というか、まだ夏じゃないのに。


「『弟よ。姉は寂しい。だが私は君を応援しているぞ。幸せにやれ』とかわけのわからないことを」

「……」


 彼女の手が俺の指先にまとわりつく。戸惑う俺を意に介さず俺を引き寄せた先輩。


「ちょ、ちょっと。恥ずかしいですよ」


 手を放してくれた。助かったと思ったが。

 腕にすんごい柔らかくていい香りのするものが。これっておっぱいですよね。

 俺の腕に頬ずりをする五葉先輩。こ、これは辛抱たまらんかも。やばい。やばい。股間がマッハでやばい。


「『弟』君って。普通の人と違うよね」

「え? ただのモブですよ? 普通です。普通すぎます」


 名前もないし。


「そうじゃなくて」


 腕を手放し、彼女は下から俺の瞳を見上げる。女性の中では背が高い五葉先輩だが流石に俺よりは低い。


「『前世の記憶』があったりする?」


 え?

「どうなの? 『弟』君」


 俺たちの脇をはしゃぐ子供たちが通り過ぎ、風船を配るゆるキャラを呆然と眺める俺。彼女の瞳が目に入っていない。


「私の目を見て話して。『弟』君」

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