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男だけど乙女ゲームの世界に転生した。  作者: 鴉野 兄貴
この世界はクソゲーだ

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12/15

二咲先輩と俺と水泳と

「お前にせっかく紹介してもらったのにフラれた」


 ずずーんとビキニパンツの高校生が肩を落とす。勿論二咲先輩である。

 う、うーん。中身はまったくの別人とはいえ、元彼女(?)と他人が付き合うのはたとえ先輩相手でもいい気がしなかったのは事実で勝手に解決したのは俺的に良かったと言えば良かったのだが、当事者たちからすればそうではないわけで。


「俺のナニが悪い」

「『股間でバタフライする男』ってあだ名つけられるくらいデカいっすからね」

 つけたのはモブAこと茂宮だが。


「関係ないだろ」

 ずずーんと更に沈む二咲先輩。冗談が通じない。


『実はヤリチン』


 同人界隈で言われている話は公式設定と反するらしい。

「あと、しょっちゅう裸はまずいんじゃねぇっすか。ビジュアル的に」


「すぐプールに入るし、ちゃんとトレーナー着ているのだが」


 設定上はそうであろうが、ビジュアル的に先輩の姿はビキニパンツ一丁が多いしなあ。冬でも。グラフィック担当のミスだと思うが。

 もちろん先輩は現在カッコいいセンスあふれまくる着こなしで指定の制服を着ているのだが俺にはパンツに見える。王様は裸だというが水泳の王子も裸だ。


「嫌なことは泳いで忘れましょう」

「だなぁ」


 プール裏の狭い空間でダべる俺たち。

 状況的にはタバコでも吹かしていそうだが俺たちは未成年でスポーツマンだ。

 タバコの代わりにポテチを咥え、時々スプライトを口に運ぶ。

 炭酸呑みすぎは良いのか。たまにはそういうときがある。


「あの娘はあんな感じなのか」

「五葉先輩はあんな感じです。というか二咲先輩が女の子に興味を示すなんて珍しいですよね」


 となりにいる美人コーチすらコーチと生徒以上の関係になっていないというのに。


「雑念が多い証拠なのかな。大会があるのに」

「まぁ先輩もそのマグナムをぶん回したい健全な気持ちがあると解って安心しました」


 マグナムってなんだよ。先輩が沈んで応えるので。


「ドライなのです」

「わかんねぇよ」


 俺たちは愚痴りながら空を見上げていた。


「そーいえば、お前のねーちゃんにハンカチ貸して貰ったから返しておく」

 先輩は花柄の可愛らしいハンカチを俺にすっと寄越して見せた。


 俺の瞳が喜びで見開かれるのが自分でもわかった。

「えっ?! 姉が二咲先輩に急接近ッ?!」


「どうしてそうなる」

 立ち上がって先輩の手を握り『姉を宜しくお願いします。義兄さん』と頼み込む俺に二咲先輩は大きくため息をついた。

「式の軍資金はしっかり貯めていますので高校卒業と同時に挙式できますよっ?!」


「聞けよ」


 先輩は照れていらっしゃるらしい。プールの塩素の臭いが目に染みるのか目を軽く押さえていらっしゃる。

「いやぁ。これで姉も安泰安泰」


「どこも安泰じゃない」

「というかいつの間にキメちゃったんですか。一発殴らせてください。責任取ってくださいね」


「俺は童貞だ。一発とか言うな」

「なに? 一発どころじゃないだと? アハハ。義兄さん。もうフルボッコにしますので姉を幸せにしてください。さもなくばフルボッコで大阪湾に埋めます」


「どっちにせよ殴られるのか。俺は」

 先輩はゆっくり俺の耳に指を伸ばし。

「ててっ?! 引っ張らないでください。義兄さんっ?!」


「き。け。人の話ッ?!」

 姉が先輩の目の前で転んだ際に『はい。二咲君ハンカチ』と言われたらしい。

 えっと。

「普通、転んで必要なのは……姉なのでは」

 固まる俺に戸惑った表情の先輩。


「俺もそう思った。強烈な印象だった」

 姉はやっぱり残念系である。

「あれです。プールにブチ込んで消毒すればいいんです。姉は」


「それはひどい」

 クールと思われる二咲先輩だが、大笑いすることもある。

「だって、毎年ジョーズごっこでヒトを脅かすんですよ」


「なんだそれは」

「背中にひれつけて、成功したらジョーズのテーマを上機嫌で歌う女ですから」


「……ある意味可愛いかもしれんな」

 ん? カワイイ? カワイイって言いましたよね。

「ならば、今すぐ告白を」


「どうしてそうなる」


 俺たちの青春はこれからである。たぶん。



 先輩とのやり取りを終えて一年同士の会話に戻る。

 先輩はすごい勢いでプールを往復中。

 俺たちは基礎練習。一年は辛い。



「お前の姉ちゃんって最近綺麗になってね?」


 今更かよ?! 俺はモブAこと茂宮栄一にツッコミを入れたくなったが自重した。こいつヒットポイントが設定されていない。普通に死ぬ。


「ボンキュッボンになってね?」


 なって無い。エロゲじゃあるまいに。


 当たり前だが乳袋は乙女ゲームには実装されていないので露骨に胸の形がわかることはない。茂宮の妄想である。プールからグラウンドを見下ろし、二年の体育を見る俺たち。


「やっぱ五葉先輩は美人じゃのう」


 モブBこと物部武人が鼻の下を伸ばしている。お前、水着サポーターはどこにいった。物部。


 プールから見下ろすと身内から見ても確かにすらりとした体つきに綺麗な胸元から腰までのラインを見せる姉が解る。スカート風のブルマーも似合っている。


 って!? 姉貴ノーブラッ?! 見るな茂宮ッ?! 物部ッ?!


「え? お前の姉ちゃんノーブラなのか?!」


 モブどもが俺の余計な台詞に反応する。


 プールのフェンスから顔をのぞかせる俺に気づいた姉。ニコリと華やかに笑って手をふる。

 きらきらきらきら。桔梗の花が姉貴の周りを演出し、何故か姉がアップで見える。冷静に遠近法を考えたら姉貴は大巨人であるが単純にそう見えるだけだ。その証拠に元サイズ姉貴と巨大姉貴の二つが見えるし。


「おー! 眼福」

「お前の姉ちゃん結構いいなっ!」


 くすくすと口元を押さえて微笑む姉がこっちでも見えるのだが。


 うーん。うーん。姉貴の結婚資金でためたバイト代でアパート借りたい。逃げ出したい。

 結構マジで。



「というわけでお前の姉を紹介しろ」


 茂宮の顔面に思わず『五葉流五車星奥義 お気に入り外し』を発動しかけた俺。物部が止めなかったら危ないところであった。

「姉と付き合いたければ俺を倒して行けって事かッ」

 どうしてそうなる。俺は爺さん世代の青春漫画か。知らんけど。


 じりじりと焼けるプール端のタイル。バスタオルに包まって俺たちは順番を待つ。

 次々と飛び込み、ある者は華麗に泳ぎ、ある者は皆が悪態をつく速度で溺れそうになりながら25メートルを泳ぐ。


「で。姉ちゃんは何カップ?」

「大関」


「それは酒だ」

 茂宮よ。姉は酒を呑まん。未成年だぞ。俺たちは。

「Cはあるよな。確実にッ」

 そんなこと知ってどうするのだ物部。俺たちはモブだ。フラグなど立たん。

 仮に立っても……。いや。なんでもない。


「アレだな。お前の姉ちゃんって汚い歯並びで笑みがひたすらキモイ印象だったんだけどナニが起きた?」

 ヒロイン属性が発動しているだけだ。中身はいつもの姉だ。

 とはいえ、こいつらにそんな話はできんし。

 俺は水泳部でいい加減麻痺しつつある塩素への臭いに閉口しつつもプールに飛び込む。温水でよかったと思う。結構マジで。

 なんでこんな季節に水泳の授業なんだ? 今はまだ春だろうに。




「野獣死すべし」

 帰宅そうそう嫉妬と厄介ごと巻き込まれまくりの怨嗟の言葉を姉貴にぶつける俺。


「なんでよ」

 彼女は機嫌悪そうに返す。

 道を歩けばオッサンに花束を渡され、イケメンにもモブにも片っ端から絡まれ、告白される姉。

 たった一日の変化とは思えない。思いたくない。

「今日はたまたまよ」

「なに? タマタマだと」

 殴られた。さすが姉貴だ。


「みんな疲れているのよ。たぶん」

 まぁ普通に疲れる。主に俺が。

「ケイサツ通報二回。それによる事情聴取も二回。痴漢撃退二回。あと犠牲になったイケメンさん数知れ」


「変なこと言うな」

 おれと姉貴はスイカを口に運ぶ。

「姉貴。季節はずれなのに美味いな」


「だなぁ」

「皮、漬物にするか」


「そうだなぁ。塩味は飽きたから味噌で頼む」

 女子高生が食べた後のスイカに手を付けようとした変態の顔を俺は姉貴に見つからないように踏んでいた。

【誰かの視点】


 このままでは良くない。

 もっとテコ入れせねばならん。この世界を壊すために。

 俺が思うように話し、思うように動くためには彼の、彼女たちの協力が必要なのだが。


 やっと出逢えた同志は既にこの世界から排除され、彼も彼女もイマイチ頼りにならない。それでもやらねばならん。

 そうせねば彼女を抱きしめることは出来ない。そうしなければ彼女を励ますことが出来ない。

 たかがゲームのキャラクターに過ぎない俺に自我があるなんて信じられないだろう。

 確かに俺は同人界隈ではアレな描写をされているし、色々な設定がある。

 そのこと自体は悪いとは思っていない。むしろ感謝している。俺に自我を与えてくれたのは彼ら、彼女らだ。


 俺はこの『画面』を叩き割り、今なお嘆く彼女に慰めの言葉をかけてあげたい。


「貴方は同じことしか言わない」


 そうじゃない。言えないだけなのだ。そう言いたい。

 俺は君を愛している。故に君の為に君の世界に行きたい。

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