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R童話-名無しの世界-情景童話

黒い布の男とキシ

作者: RYUITI

過去へ繋がる島の次の話となっております。

そのほかの短編も読んでいただけるとより、

分かることが見つかると思いますのでよろしかったらどうぞ

自身を包んでいた蒼い光が薄れていく。


かんざしを引き抜いた後、

男の目に飛び込んできたのは…


自身と鎧を包む黒い布と、

大きな鐘の姿と突然現れたモノを囲む大勢の人間達だった。


男の腰にはしっかりと忌々しい黒い剣が有る。

引き抜いたはずのかんざしは、

黒い布に張り付いていた。


耳には常に水の音が聞こえてくる。


男を囲んでいる人間達は、いきなり現れたモノに驚き、

皆ガヤガヤと声を立てていた。

現れたそのモノは禍々しい程の黒い布に身を包んでいたからだ。


そんなことを気にする様子もない黒い布の男は、

自身を囲んでいる大勢の人間にも興味を示さず、

目の先にある大きな鐘に意識を向けていた。


黒い布の男は、思う。

コノ鐘は、禍々しい程の黒色が発現していない。

次に、

黒い布の男は、眼球だけを動かし、辺りを見る。



眼に映る風景には青々とした草花、

建物の周りには、澄んだ水が廻っているのが感じられた。


そうして黒い布の男は、想う。

コノ国は、まだ朽ちてはいない。


そして、黒い布の男は考える。


.此処は、過去の祖国であり、

この鐘はアレを呪う事をまだ諦めては居ないのだ。と


.現在の状況が判断出来たなら、すぐにでも行動に移さねば、

手遅れになるかもしれない。


そう思った黒い布の男は立ち上がり、ある一点を見つめた。


視線の先には、一軒の家の窓。

ふと、家の主が窓から見えた。


刹那。

黒い布の男は、風を切るような速さで、腰にある剣を抜き、

視線の先にある家へ斬りかかっていた。



黒い布の男の剣は、家を砕き、

窓のガラスが地に散らばろうとも、その力が弱くなる事は無かった。


そうして剣の力に耐え切れず、

家の主である男は、部屋から吹き飛ばされ、大地に背を打ちつけていた。


黒い布の男は、ゆっくりと男の近くへ歩を進め、

男の前で立ち止まる。


だが、標的を見つけた禍々しい剣は、違った。

家の主である男を斬ろうとその顔元へ伸びていく。

その動きはまるで、剣が生きているかのよう。


そして斬りかかろうとした時、

ミシリと何かが音を立てた。


黒い布の男が力を込めて、

剣を自身の方へと抑えていた。


そして黒い布の男は、

大地に背を打ち付けている【キシ】の左眼に右手を近づけた。

その刹那、キシの左眼は、

黒い布の男の右手の中に、吸い込まれていく。


吸い込まれるのと同時に、

黒い布の男の左眼が色を変えた。


清らかな水の音が優しく、

黒い布の男の鎧を撫でる。



ふと黒い布の男は眼前から、視線を感じた。


眼を向けてみると、先ほど壊した家の主である男が、

焦りを感じた表情のまま、黒い布の男を見ていた。


その様子を見た黒い布の男は、


.このキシは今、どんな気持ちで私を見ているのだろうか、

私が、何者なのかを考えているのだとしたら…笑みが零れそうだ。


そう思いながら、爽やかに吹く風に耳を傾けていた。

強さの違う風がゆっくりと当たる。


なんと心地のいい風だろうか、なんと懐かしいものだろう。

出来ることなら、この世界で暮らしたい。


という考えが頭を過ぎるが、


自身に宿る呪いと血に染まった身体、左眼の新たに増した、

禍々しいモノの事を思うと、それらを地に残してはならないという、

決意を改めて確認するしかなかった。


全ては自身の為であり、この大地全ての為なのだから。


そう考え終わった時、黒い布の男の左眼が、

熱を帯びるように強く痛み始めた。



時間がないと思った黒い布の男は、

未だに目の前で焦りを見せる男に、

声が出なくなって行くのを感じながらも言葉をかけた。


.歴史は…変えられる。世界は、オレは、平穏を望んでいた。

これで、オレは自由になれる。これから、楽しく生きろよ。


そう言い終わった黒い布の男は、

倒れそうになる全身の痛みに耐えながらも、

晴れ晴れとした顔をしていた。


すると、


.なにやってるのよ!早くしないと手遅れになるのよ。

早く私を剥がしなさい!と


黒い布から、女性の声が聞こえてきた。


その声を聞いた黒い布の男は、朦朧とした意識の中、

かんざしを、布から剥がした。



蒼色の光が当たりに漂う。


蒼色の光が黒い布の男を包むと、

黒い布の男の姿は消えていた。



男が居た場所には、柔らかい風が吹いている。

黒い布の男とキシを読んで頂きありがとうございます。


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