五球目 ミサイルでは、潜水艦は落とせない
まだバタバタしてます(ToT)
ほんとすいません
m(_ _)m
もう少しで落ち着きそうです。休筆せずに済みそうですが、あと一回ぐらいレッドに入るかもしれません(ToT)
今回登場のポール・ヒューイット投手の名前も、前回に引き続きREO氏から提供していただきました(^O^)
ありがとうございましたm(_ _)m
果たして誰がこの様な展開を予想しただろうか。いや、間違い無く誰も予想していなかっただろう。
6回終わって6対3、しかも、日本はツーアウトながら二塁と三塁にランナーを置いているのである。そこで、
『バッティングナイン
ピッチャー
ギャクトォ オーノォ』
という状況となった。
パ・リーグは指名打者制(ピッチャーの代わりに守備に就かない打撃専門の野手が打席に入って良いという制度)であるため、シュバルツのクローザー一筋6年目の学人は、向こう六年間、まともにバットを振った試しがない。それ以前の野球人生を遡っても、やはりクローザー一筋だったため、公式戦の打席に入ったことは片手で数えることが出来る程度しか無いのである。
そんな学人に、優勝候補の筆頭であるアメリカ代表にシングルヒットで4点差、長打で5点差、一発出れば6点差をつけることが出来る大チャンスで打席が回ってきてしまった。
それにしても野球の神とは、なんと皮肉なものなのだろう。いくらノッているとはいえこの状況で学人に回すとは……。美周朗は剣の舞い、マウンド上の美周朗は投球の舞い。それが本来の彼の舞いのフィールドである。いつもとは違う畑でボールからバットに持ち変えたマウンド上の美周朗は、果たしてどのような舞いを見せてくれるのだろうか。
三塁側の内野スタンドからは、日本の大応援団からの大声援の中に有っても一際目立つ大きな声で、
「パパ頑張れー!!!」
「パパ打ってー!!!」
という、歳端もいかない子供特有のけれん味の無い澄んだ裏声が聞こえてくる。ここは娘達のために、久々に本気でバットを振ってみよう。学人はそう、心に決めた。
都合十年ぶりぐらいに、バットを携え打席に向かう。圧倒的戦力差を持つ敵軍に相対して、一歩も怯まず渡り合っている。日本代表の長老、剣持和俊がトドメとも言える一撃を放ち、今学人に回ってきている使命は、云わば敗残兵総討指令である。
そういえば、三国志で一番周瑜が活躍していた赤壁の戦いも、呉軍の長老、黄蓋による見事な突撃によって魏の大軍にトドメをさしていた。
……だが、この時周瑜によって行われた敗残兵総討作戦は、失敗に終わっている。しかもこの時に受けた矢傷が感染症を引き起こし、弱冠三十六歳で彼は病死してしまうのである。
《ちょっと、ヤベえかな……》
別に自分がマウンド上の美周朗という通り名を賜っているからといって、彼と同じ運命を辿るとは思っていない。だが、この周瑜の作戦失敗は大勝ちに油断したことによる、注意力の低下が元凶であると読んでいた学人は、このエピソードを思い出し大打者と対戦するときの何倍もの注意力をもって、打席に向かった。
アメリカ代表は、さすがに6点も奪われた投手をいつまでもマウドに上げておく訳にもいかず、剣持、黒鉄、村越に連打を浴びた時点で二番手のポール・ヒューイットにスイッチしている。ヒューイットは、学人が打席に入るなりもうモーションを起こしてきた。
そして、この時ようやく学人は悟ったのである。ツイている時は何をやってもツイているのだということを。
ヒューイット。
この投手はメジャーの中でも一二を争うモーションが小さい(投球動作がコンパクトで、とても素早い)投手であるとの噂を和俊から聞いていたのだ。そのヒューイットのモーションが、とても遅いのだ。いや、むしろ止まっていると言った方が正しいのかもしれない。連続写真のようなストップモーションとなって目に飛込んでくる。
学人自身、有ることは知っていたが実際に体験するのはこれが初めてだ。トップアスリートが極限までその精神力を高め、その上で集中力も極限まで高まった時に突入するというストップモーションの聖域。
学人自身半信半疑だった超一流への登竜門。
いわゆる、【ゾーン】である。
ゾーンへの入り方は十人十色だと言われているが、一旦入ることができれば、いつでも入ることが出来るという点は、全員に共通している。学人は、その点もはっきり把握していた。彼の場合は、絶好調の時に、赤壁の戦いの事後処理時の周瑜を思い出せばいいのだ。
これは後の野球人生を考えると、かなり大きな収穫と言える。未だ二十四歳。まだまだこれからなのである。
まだヒューイットの右肩は回っていない。まさにスローモーションである。このぶんなら、たとえ投手である自分であっても総討作戦を果たすことは出来そうだ。心地好い緊張感を保ちながら、じっくりとヒューイットの動きを観察する。
バッティングのタイミングの取り方の基本は球離れの瞬間を見極めることが出来るかどうかに尽きる。普段なら見ずらい筈の右投手の腕の動きが、信じ難いほどはっきりと見えている。今ボールがどの位置に有るのか手に取るように確認することが出来た。あまつさえ、どう握っているのかさえはっきりと判る。
ストレートかカーブかスライダーかシュート。握りから察して、投げる球はこの四種類に絞れそうだ。
右肩が回る。腕の回転は、左回転。この時点でシュートは消える。後はリリース(ボールから手を離すタイミング)の問題だ。それさえ判れば、かなり早い段階でなにが来るのか察知することが出来る。
指がボールの真上に来たところで切って投げてきた。最近ジャイロボールという呼び名で認知されてきた、浮く変化球だ。
ボールの軌道を見極めるため、取り敢えずこれは見逃してみることにする。あまり日本では投げる投手が居ない変化球だ。下手に手を出して打ち上げてしまっては、球自体はよく見えているだけに、どうにもこうにも後味が悪い。
投げられた初球は、予想通りに真っ直ぐから大きく浮き上がってきた。もはや、キレの良いストレートは浮き上がって見えるなどというレベルではなく、確実に浮いている。そして、それがジャイロボールなのだ。
通常のバックスピンストレートならば160キロ以上の速度で200回以上回さなくては浮かないが、スパイラルスピンによってジェット推進力と浮力を同時に獲得することで125キロ以上、100回転で浮き上がることが可能となった特殊なストレート、それがジャイロボールなのである。
《ビーンボールか……》
いつもの学人なら怖じ気付くのかもしれない。それどころか、避け損ねる可能性すら多分に有り得る。だが、今日の学人は、いつもとはひと味違うのだ。自然な流れで避けの体勢をつくることが出来た。
打撃の神様川上哲治氏の言葉として有名な【ボールが止まって見える】というのは、まさにこれのことなのだろう。頭に向かってすっ飛んで来る危険球に対して、なんの恐怖も感じることはない。
それにしたって、9番ピッチャーに対して初球からビーンボール……。この組み立ては、アンダーソンの個人的な復讐によるものか、絶好調の学人をチームぐるみで潰しにかかっているのか、どちらかしか考えられない状況だ。バックスクリーンに155km/hと表示されたジャイロボールを余裕でかわしながら、学人は、燃えた。
ボールは見えている。間違い無く見えている。今のビーンボールによって、その感覚は確信へと変わった。後は芯で捉えるだけだ。せっかくボールが止まって見えるのだから、変に配給を読みにかかるより来た球を打つスタンスの方がいい。これは、ゾーンに入ることに成功した選手の特権と言える。
二球目。ヒューイットの右手は縫い目とクロスするように浅く握り込まれている。カーブ、シュート、スライダー、ジャイロボール。握りが見えるというのは本当に楽だ。腕は右側に回っている。シュート確定。まさかぶつけるためにわざわざシュートさせる必要も無いだろう。残る作業は、ボールをしっかり見て真芯で捉えることだけだった。
ヒューイットの投げたシュートは学人のストライクゾーン手前に到達したとき、外高めのスレスレのところで止まっていた。
「川上さん、マジでボールが止まってますよぉ!」
打撃の神様に呼び掛けながらスイングを開始する。
リトルリーグ、シニアリーグ、旭川実践学園高校、そして沖縄シュバルツとクローザー一筋13年。高校時代ティーバッティング(ゴルフのファーストショットのように予めティーアップされているボールを打つ、芯で捉えるための練習)でボテボテのファールチップを打ったという不名誉極まる伝説を残しもしたが、打ち損じても学人はピッチャーだ。誰もその事を責めやしない。
打てなくて当たり前の存在。攻撃においてこれほどに陰の薄い存在であるということが学人の気持を更にリラックスさせている。そして、なんのプレッシャーも無くスイングされたその一振りは、ヒューイットのシュートを真芯で捉えることに成功していた。
「飛んでけオラァ!」
気合いを込めて弾き返されたそのボールは、中堅手がちんたら歩いて追うほど大きな当たりとなって、バックスクリーンに到達した。
スリーランホームラン。
初球のビーンボールで若干熱くなっていた学人は、ホームを踏んだ刹那、アンダーソンに対し、
「潜水艦はミサイルじゃ落とせねえんだよ!」
との言葉を拙い英語で言い放つ。当然マナーを注意されもしたが、そんなことはもはや、どうだっていいことだった。
スコア
7回表
ツーアウトランナー無し
9対3
次回予告!
こんばんは〜、深幸だよ(^◇^)┛
パパスゴーイ!
ホームラン打っちゃった(◎o◎)
調子に乗って変な球投げちゃ駄目だよ(^_^;)
次回 スイッチ!
六球目 機雷は意外な場所から放たれる
パパ調子くれすぎだから、ほんと心配なんだよぉ(ToT)
以上、深幸でした(^o^)/