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二球目 曝進、小野学人号

    スコア

    6回裏

    5対3


 打席に迎えているのはアメリカ代表8番打者アンダーソン。メジャーでの昨シーズンの成績は、2割1分3厘、12本塁打。イメージとしては、典型的な守備の人だ。


 マウンドには、この大会で何度も敵軍を沈めてきた【不沈潜水艦】小野学人。この試合先発した大榎貴志が、5回に突然乱れてしまい、いつもの習慣で3回から肩作りを始めていた学人がいつもより早くマウンドを踏むこととなった。


 ボールカウントは、アンダーソンの顔スレスレをかすめ通っていくビーンボール(頭にぶつかる可能性のある危ない球)によるワンボールナッシング。たったの一投で球場に張り詰めた空気を作ってしまった。


 激しいブーイングが地響きのごとく鳴り響く中、学人の体がまたゆっくりと地面を這うように沈んでゆく。


 相棒からの指示は、外低めギリギリのスローカーブ。学人としても反対の意思はない。顔スレスレの速い球は打者の意識を内側に引き付け、意識的なストライクゾーンを通常より内側にずれているように誤認させる効果がある。


 アンダーソンにとっては外目のボール球。しかし実際には外低めギリギリのストライク。さらに、ヒョロヒョロと頼り無さ気に飛んで来るスローボールなのである。打たれるどころかスイングされる心配すら殆んど無い、組み立て(打者を打ち取るまでの投球計画)の王道であるといえる。


 ボールは学人の手元から離れ、なだらかな弧を描きながら知昭のミットへと飛んでいく。そして、そのスローボールはまるで磁気に吸い寄せられる鉄塊であるかのように寸分の狂いもなくミットに収まった。



 ボールカウント、ワンエンドワン。



 三発目の魚雷。今度の目標は、あわよくばアンダーソンを沈めようとするもの。だが、それはあくまでも【あわよくば】のレベルであり、真の目的はやはり彼を混乱の渦に叩き込むことにあった。


 外れていると思っていたボールでストライクを取られる。それだけでも充分に混乱させることが出来るのだろうが、もっと惑わせることができれば、この後の打席でも打たれることが無くなるのである。


 狙うべきポイントは内側高めの若干内側に外した速球。先程のスローカーブ同様、ストライクゾーンがずれてしまっているアンダーソンにとって、そのボールはストライクなのである。


 ボールが、地を這うような軌道で繰り出される手元から放たれる。


 狙った位置へとボールは進んでいく。残る問題は、アンダーソンがどう動くかだ。躯をねじり、バットを握る両手に一段と力を込めてきた。


 《打つ気だ》


 その気迫がまるですぐ側で突然空気が膨張してしまったかのようなプレッシャーを伴って押し寄せて来る。


 学人の速球は138キロ。決して手も足も出せないスピードではない。いや、それどころかメジャーリーガーにとっては打ち頃極まるスピードであるといえる。だからこそ、ルアーに食い付くブルーギルのように、この釣り球(打ちやすいように見えて、実は物凄く打ちずらい球)に手を出してしまったのだろう。


 アンダーソンの打球はバットの根本に当てただけの内野ゴロとなり、学人が拾って一塁へ送った。



 ワンナウトランナー無し。ゲームセットまで、あと11人……。









 アンダーソンをたったの三球で打ち取る鮮やかな手並みで三塁側のオーディエンスを取り戻した学人は、次なる攻撃目標となる

『バッティングセカンド ピッチャー マイク・シュタイナー』

 へと意識を向ける。


 ピッチャーの仕事は相手に点をやらないことと、バント(予めバットを寝かせてボールに当てやすくする打ち方)をすること。これは、高校時代の恩師からの指導であるのだが、この場面でのバントはさすがに有り得ないだろうと判断した学人は、自ら知昭に【三球勝負(三球で三振に打ち取る)】のサインを送り、その返事を待つ。


 知昭の首振り人形のような、特徴的な頷きを確認して、三球勝負のためのサインのやりとりを始める。


 気分が乗っている。本来は、8回、9回のニイニングに投げるだけで済むはずの自分が、6回から投げているという違和感すら、全くと言っていいほど気にならない。

 《勝てるぞ、今日は勝てる!》

 全く根拠のない自信ではあったが、予感めいたものが脳裏をかすめた。


 内側の高めと低めにシュートとスライダーを散らした後、外低め一杯に速球。シュタイナーはもともと振るつもりが無かったのだろうか、それを【動かざること山の如し】を体現しているかのように威風堂々と見送り、三球三振となった。ピッチャーとは、唯一打てなくても文句を言われないポジションなのだ。



 ツーアウトランナー無し。ゲームセットまで、あと10人……。







 続く打者は、

『バッティングサード セカンドベースマン クロノ・ムーラン』


 ムーラン。ヨーロッパ競馬の短距離レースにムーラン・ド・ロンシャン賞(1600m ジーワン)というレースがあるため、競馬好きの学人としてはどうしても足が速いというイメージを持ってしまう名前だが、実際にムーランの足はかなり速いらしい。


 100m、9秒96。真剣に陸上競技に専念していたならば国際大会であってもメダル獲得は確実で、もはや何色を取って来るのかに話題は集中していたことだろう。まさにクロノの名前通り、時空を超越した脚の持ち主なのである。


 そんな脚の現人神を相手に回し、自分は何をすべきなのかを自分に問うてみる。


……、《打ち取るべき》


 勿論答えはこれしかない。そのための組み立てを知昭と共に慎重に考え始めた。









    スコア

    6回裏

ツーアウトランナー無し

    5対3




次回予告!!




学人でーすo(^-^)o



いやぁ、9秒96ですよ、9秒96!


剣持先輩の10秒14でも驚いてたのに、上には上がいるもんだなぁ……(◎o◎)



さて、次回はヤツとの対決が始まりますo(^-^)o



次回 スイッチ!

三球目 ムーラン包囲網





いくらいい脚を持ってたって、出れなきゃ宝の持ち腐れなんだよ








えっ!?

出られたら確実に一点入る!?

それは言わないでー(ToT)



以上、学人でしたぁ(^o^)/

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