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彼女と、桜餅と

作者: WAIai
掲載日:2026/10/04

桜舞う三月、空は明るく穏やかだった。

しかし等はダイニングルームのソファで、そわそわしており、何だか心配事があるようだった。

「どうしたんだ、等?」

父親の秀樹が新聞から目を離し、指摘する。

今日は土曜日なのだが、秀樹は公務員なので休みだった。

自分の父親にしては、見目が良く、かっこいいと言われるのだった。

「あの、その、言ったはずだけど…?」

ちらりと母親のたえを見れば、彼女は秀樹の横で紅茶を飲んでいる。

「あなた、今日は等の恋人が遊びに来るのよ」

「等の恋人…? そうか、それで緊張しているのか」

あははと秀樹が大声で笑う。

自慢の父親だが、等は今、恥ずかしかった。

ーもう、ちゃんと言っておいたのに。

妹の静は友達と遊びに行ってしまったので、いなかった。

等はパンツに手を押しつけ、緊張を解そうとする。

するとチャイムが鳴った、

「ーあ、来た!!」

一目散に、等はとんでいき、玄関ドアを開く。

するといつも制服姿の愛子が、可愛い格好でやって来たのだった。

外見を気にしてか、少し化粧しているらしい。

「いらっしゃい」

「うん。お邪魔します」

愛子は手に箱を持っており、等に差し出してくる。

「何、これ…?」

「お邪魔になるから、手土産。その季節の商品なんだけど」

「開けていい?」

「どうぞ。中を確認してみて」

愛子に促されて、箱を開ければ、桜餅だった。

春を味わう一品で、等は嫌いではなかった。

「その、和菓子でいいのか、迷ったんだけど」

「いいよ、十分。ーお母さん」

たえに向かって言うと、秀樹がついて来て、愛子の姿を確認する。

「可愛い娘だな」

「ありがとうございます。嬉しいです。今日はよろしくお願いいたします」

愛子は礼儀正しく頭を下げると、両親は感心したようだった。ちゃんと彼女の親が教育しているようで、等も鼻が高い。

「早く上がって。俺の部屋に行く?」

「等くんの好きでいいよ」

「どうするか」

等が迷っていると、秀樹が言ってくる。

「俺は自分の部屋にいるから。たえは対応してあげなさい」

「はい、あなた。…愛子ちゃん、上がって」

「失礼いたします」

愛子が靴を脱いでいる間、等が愛子から渡された箱を、たえに差し出す。

「桜餅。わざわざ持ってきてくれたんだ」

「そうなの? 気を遣わせてごめんね」

「いいんです。本当はケーキとかのほうがいいかなとも、思ったんですけど…」

「気にしないでいいわよ。…これ、早速、二人に出すわね」

「愛子、行こう」

手を差し出すと、愛子は雲を思い出すような柔らかな手を出し、ダイニングルームへ歩いていく。

自分の部屋でもいいのだが、ムラムラすると困るし、たえもキッチンに近いほうがいいかなと思ったのだった。

「飲み物は何がいい? 俺、用意してくるよ」

「えっと…じゃあジュースで」

「何のジュース? 果物、それともソーダ系?」

「ソーダ系かな。ごめんね、気を遣わせて」

「いいって。お前もリラックスしろよ。うちの父親と母親は、大歓迎なんだから」

そう言うと、等はキッチンに行き、冷蔵庫を開ける。

たえは小皿に桜餅を乗せており、上機嫌な様子だった。

「どうしたの、お母さん?」

「ううん、等も大きくなったなと思って。彼女、可愛いじゃない」

肘でつつかれ、等は頬を赤くしつつ、ジュースをグラスに注いでいく。

「ついでに桜餅も持っていって」

「うん、分かった」

盆を用意すると、桜餅二つと、ジュースを乗せる。

すると、たえが桜餅を指さし、言ってくる。

「桜餅はね、江戸時代からある季節商品なのよ」

「へえ…。よく知っている」

「えっへん!! 調べたもの、昔。それでね、桜餅で問題になるのは、塩漬けした葉を食べるか、食べないかということなの。私は食べる派だけどね」

「俺も食べる派だな。…でも、妹の静は嫌だって言って、食べない派だけど」

静にはまだ早いのか、桜餅の葉をいつも等にくれるのだった。

ー静がいたら、ムードメーカーになったかもしれないけれど。

恋人と二人っきりで過ごすのは初めてなので、等は緊張し続けているが、それは愛子も同じだろうと考える。

たえはふふと笑うと、

「若いわね。可愛らしいわ」

「お母さん、茶化さないでよ」

「いいじゃない。ーあ、そうだ。桜餅の話だけどね」

たえは箱から一つ摘み、桃色の皮を指差す。

「関東では生地に小麦粉を使うんだけど、京都の桜餅は道明寺粉を使うのが普通らしいの。中に餡が入っていないものもあって、地方によって異なるみたい」

「なるほど…。お母さん、よく知っている。今の説明、俺も使ってもいい?」

「いいわよ。教えてあげなさい」

等はうなずくと、盆を持って、ダイニングルームに戻る。

その際、後ろから「何か用があったら呼びなさい」と声が追ってきた。

等は「分かった」と答えると、ソファに座っている愛子の側へ近づく。

やはり愛子も緊張しているらしく、落ち着かない様子だった。

「ーはい。ジュースと桜餅」

「ありがとう。飲んでもいい?」

「どうぞ。俺も飲むから」

等は愛子の横に座ると、グラスを手に取る。

春にしては暑く感じ、エアコンをつけようか、どうしようか迷う。

ーでも汗をかくほどでもないし。愛子に聞いてみるか。

グラスをテーブルに置くと、等は愛子を見つめる。

ストレートの髪に、色白の肌。

自慢の彼女だった。

「エアコン、つける? 暑くない?」

「うーん、私は普通かな。このままでいいよ」

愛子はグラスについた口紅を手で拭うと、ハンカチで手を拭く。

ストローをつければ良かったかと後悔したが、愛子は別に気にしていない様子だった。

「そうか。じゃあこのままでいいか」

「うん。…桜餅、どうかな?」

窺うように見つめられたので、等は桜餅を手に取る。

たえが教えてくれたように、愛子に説明しようとする。

「愛子は葉を食べる派? それとも、食べない派?」

「えっと…私は食べる派かな。等くんは?」

「俺も食べる派。いただきます」

桜餅を口に入れると、独特の香りがし、甘味の中に塩味を感じる。

「美味しい!! どこのお店の?」

「えっと…私の家の近くにあるんだけど」

場所を教えてもらい、等はうなずく。

それを確認してから、愛子も桜餅を手に取る。

可愛らしく、一口小さく食べると、表情が柔らかく解れていく。

「美味しいね。小さい頃から贔屓にしているお店だから」

「そうなのか? …あ、愛子、口に」

「え…?」

そう言うと、等は俊敏に動き、愛子の唇の横にキスをする。

嘘なのだが、「餡がついていたから」と言い、愛子の反応を待つ。

「も、もう、等くん…!!」

愛子は顔が真っ赤になり、軽く叩いてくる。

それをクッションで防ぎ、等はにやりと笑う。

「ご馳走様。甘くて美味しかったぜ」

ぷくりとした唇に触れ、愛子は更に顔を真っ赤にさせる。

等は知らん顔をして、ジュースを口にすると、TVを指差す。

「ゲームでもやる? それとも、違うことをする?」

「ど、どうしよう…。その、あの、等くんが決めて!!」

恥ずかしいようで、愛子は見ないでと手を振ってくる。

その愛くるしい仕草に、等は笑うと、愛子の頭を撫でる。

「ー俺以外に、触れさせては駄目。分かった?」

「も、もちろんよ!! もう等くんったら」

「あはは」

明るい雰囲気になってきたところで、等は愛子を誘う。

「ゲーム、やろうか。俺、強いから」

「その、お手柔らかに。私、ゲームといえば、スマホだけだから」

「そうか。じゃあ丁寧に教えてあげる」

「うん」

愛子は素直に答えると、残りの桜餅を口に入れ、ジュースを飲む。

ゆっくりとグラスを置くと、等の手を取って立ち上がり、TVの前に行く。

「よし、やるぞー!!」

等は明るく言うと、愛子も緊張が解れたようで、笑みを浮かべてくる。

二人は室内に入ってくる光に支えながら、ゆっくりと時を過ごすのだった。

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