わたし、男爵令嬢で夢は王族のメイドさんです
「フォルトゥーナ姫よ隣国の王女とはいえ、許されない事をするそなたと
婚姻を結ぶわけにはいかぬ。婚約は破棄だ」
*
「さすが王宮のケーキ。おいひい…ん?破棄?」
パーティーで、ケーキが美味しくて夢中になっていた
アクティス・レ・フォードの耳に、なんだか怪しい雰囲気の言葉が
飛び込んできた。
イディオ皇太子が右手に少女を抱いて、婚約者であるはずの姫に
婚約破棄を通告したのだ。
「わ…わたしは何も…」可憐なフォルトゥーナはただ首を振るしかできない。
「とぼけるな。お前はこのミセリア嬢に、身分が上なのをいいことに
嫌がらせを続けたそうだな」
「え?一体何が?」
「王子さまが婚約破棄されるそうよ」
隣にいた婦人が耳元でささやいた。
「はい?婚約者って、隣国のフォルトゥーナさまでしょう?なんで?」
「なんでも王子の親しい女の子に嫌がらせを続けていたって」
「へー」
人を避けて王子の近くに行くと、その様子がはっきり見えた。
フォルトゥーナは下を向いたまま、「違う」というふうに首を振っていた。
近くで見るとストレートの金髪碧眼で花のように可憐で、
押したら倒れてしまいそうな妖精のようなお姫さまだ。
なんだか守ってあげたくなる。
アクティスの頭の上で、フォード家の家訓・『弱きを助け強きを挫け』が光った
いや、ちょっと待て。王子の隣にいるのは、女学校の同級生。
ミセリア・レ・ヴァンザス男爵令嬢。
「あーれー。ミセリアじゃない。どうしたの?」
「え…?」
「いつも玉の輿に乗るのよ。って、言ってたけど、ついに乗ったの?
うまくいったの?そのためには嘘も方便よー。とか言ってたよね」
「な…なぜいるの?男爵の位の方は招待しないようにお願いしたのに」
ミセリアは顔を引きつらせてやっと言葉を出した。
「うん、招待はされていないけど美味しいケーキがあると聞いて、
潜り込み…いえ、お手伝いを申し出たの。
さっきまで案内の手伝いをしていたのよ」
ザワザワと周りの人々が騒ぎ出す。
「君は誰だ?ミセリアの知り合いか?」
「い…いいえ。彼女は…。」焦るミセリアに
「学院の同級生です。アクティス・レ・フォードと申します。イディオ殿下」と
カーテーシーをして答えた。
「ミセリアは同じ男爵の階級なので、わりとよくお話しします」
ニコニコ笑って答えるアクティスは、はっきり言って空気が読めない。
読 め な い ! むしろ 読 ま な い !!
フォルトゥーナもアクティスをなんて元気な方なのでしょう。と
思いながら視線を向けている。
「えっと、何のお話しでしたっけ?そうそう、ミセリアですが
クラスの中でも良く言うと向上心があって、悪く言うと強欲で
目的の為なら手段を選ばないという、努力家です」
「ぷっ」王子から少し離れた場所にいた、黒髪の長身の身ぎれいな紳士が
後ろを向いて肩を震わせた。
「な…何をいい加減な…」ミセリアが青くなる。
「えー、だっていつも言ってたじゃない。玉の輿に乗るために
王子様の婚約者を蹴落とすにはどうしたらいいかしらって」
「いやあああ。殿下、この者は乱心しているのです。信じないでくださいませ」
グラマラスな身体を王子の腕に押し付けて涙ぐんで王子を見上げると、
イディオ王子は
「うん、わたしはいつでもそなたの味方だ」とドヤ顔をした。
「いやいや、泣く練習もしてたじゃない。
いつでも涙が出るのが特技よって自慢してたよね。
うん、なるほど上手ね。 あと、王族になったらわたしをメイドにしてくれるって
言ったじゃない。わたし、楽しみに待ってるのよ。
王族の方に使えて、美味しいケーキとお茶でお話しの相手をしたり
お散歩のお供とかしたいわ。あ、刺繍は苦手だから、練習しておくわね」
胸の上で手を組んで、うっとりと話すアクティスだった。
紳士の膝が崩れそうになって、お付きの者が支えていた。
「は…はああ…。」もうミセリアは言葉にならない…声ではなく、
ただの音を口から出していた。
「殿下、わたくしはミセリアさまを存じ上げません。
ですので…その、その方に悪事などできません」
「殿下、姫さまのおっしゃる通り、二人には接点がございません。
わたしが学院で見聞きする限り、ミセリアは毎日楽しそうに
学院生活を送っております」
「嘘よっ。嘘よ 嘘よ 嘘なのよ。
わたしは学校の外で嫌がらせをされたからアクティスは何も知らないの。
そして彼女はわたしを陥れようとしているのです」
「いやいや、陥れてもわたしにメリットないですし。
むしろ王族のメイドさんの道が絶たれてしまうデメリットしかないし」
「そうか、あなたは本当は殿下の妻の地位を狙っているのでしょう?
未来の王妃になろうとしているのよ」ミセリアは必死に言葉を繰り出す。
「ないない。正直言って公衆の面前で、レディに恥をかかせる男なんて
趣味じゃない。 あ、ごめんあそばせ。」
「あっはっはっは」
とうとう紳士が我慢できずに大笑いした
「で…殿下」お付きの者が止めようとするが笑いが止まらない。
「み…皆の前でこうしたのは、全員が証人になるからだ。
ミセリアを正式に婚約者とするための証人だ」
「あら、わたしにはミセリアが未来の王妃になるという別世界を想定した
殿下のなんちゃって創作小芝居大会に見えましたが。
まあ、人それぞれですね」
「なんだそれは無礼なっ。不敬罪だ」
「いえいえ、尊敬申しておりますよ。わたしのような身分がかなり下の者にも
こうしてお話しをしてくださいますし、腐っても王子様ですし。ねっ」
にっこり笑うアクティスは天然でもある。
天 然 で も あ る
「腐って…って…。もういいでしょう。笑い死にしそうです」
さっきまで笑っていた紳士が前に出た。
「アリアス国のウィルトゥス皇太子殿下!」
来賓の貴族の誰かが叫んだ。
あらやだ。アリアス国といえば、同盟国。しかも格上の大国。
さらに、タルトケーキが超・美味しい国!
…なんでそんなに笑っていらっしゃるのかしら?
とアクティスが思っていたら
「国王陛下のおでましです」と家臣の声が響いた。
全員が頭を下げて迎える。
「なんだ?何かあったのか?」陛下の問いに
ウィルトゥス皇太子が事情を説明すると、国王の顔がみるみる険しくなった。
「何を証拠に姫との婚約破棄を?」
「父上。それは…」
「わたしの証言と、この涙が証拠です、陛下」ミセリアは国王陛下にも
涙を流して見せた。
「いや、だから証言は証拠じゃないし。涙は自力で出せるし。
そもそも殿下は姫君よりも身分の低い男爵令嬢を愛せる自分に
酔っているだけかと思われます」
「あはは。空気は読まないし、天然だが、きちんと相手を見ているところが
君のいいところだ」と、ウィルトゥスがアクティスの横に並んでほほ笑んだ。
「はい?」ぽかんとウィルトゥスの顔を見つめるアクティスだった。
「フォルトゥーナ姫が言われているような事をしたという証拠がないのなら
虚偽罪となるが」
「父上…それは…。わたしはこのミセリアを信じたいと…」
「国を統べるものが情で判断して何とする。お前には資質がないのか?
残念だ」
「ミセリアちゃん、涙のご利用は計画的にできたけど、
ツメがポンコツだったね」
アクティスがぽんぽんとミセリアの肩をたたくと
「むかーっ。なによ、計画が台無しじゃない」とミセリアがアクティスを睨んだ。
「あ、計画的だったんだ」
「わあああん」とミセリアは泣き崩れた。
家臣が衛兵を呼ぼうとしたその時に、
「これにてっ!パーティーの余興の創作小芝居は終了でございます」
とアクティスが挨拶した。
「お粗末様でございました。笑っていただけましたら幸いでございます。
殿下もミセリアもお疲れさまでした」
振り返って王子とミセリアに頭を下げた。
イディオ王子もミセリアもぽかんとしている。
「なんだ、お芝居か」 「とても刺激的でしたわ」
「久しぶりに笑わせていただきましたわ」
集まった貴族たちが大喜びした。
「…というわけでございます、国王陛下。
ちょっとしたお芝居で騒がせてしまい、申し訳ありませんでした」
「そうか、なんだ余興であったか」
「はい」
これでイディオ王子もミセリアもお咎め無しとなった。
パチパチパチ
ウィルトゥス皇太子が拍手を送った。
「なんて賢いんだ。見事に収めたね。大したものだよ。我が国に招待したい」
「タルト・ケーキ!」アクティスが嬉しさのあまりに飛びあがった。
「好きなのかい?ケーキ」
「はい。愛しております。何よりも」
「許してくれ、笑い死ぬ」
「なぜ?何がそんなにツボなのでしょう?」
「いや、いいんだ。うん。ケーキを食べに来て欲しい」
「は-い。喜んで」
*
「弱小の我が国にとってイディオ殿下との婚約は大切でしたが、
まさかアリアス大国の皇太子殿下の口添えで、第二王子様と婚約できるなんて
アクティスさまのおかげです」
フォルトゥーナが隣に座る王子と微笑みあう。
「わたしは政略結婚などと思っていないからね。大切にするよ」
「はい。わたしもお慕い申し上げております、殿下」
「それにしても兄上はアクティス嬢とどうなることやら」
「ライバルがタルト・ケーキですから、手ごわいです」
「アリアス国のケーキ、最高!フォルトゥーナさまのメイドにも
なれたから言う事なし!」と
目の前にいるイケメン皇太子よりもケーキに愛を注ぐアクティスだった。
なお、イディオ王子は引きこもり、ミセリアは次のターゲットを
探して翻弄中であった。 逞しくてなにより。
思いついて勢いで書いてしまいましたが、
笑っていただけたら嬉しいです。




