プロローグ
その日は私にとって、とても幸せな日になるはずだった。
生まれる前からヨシノブ様の妻になることが決まっていた私は、幼き頃よりずっとヨシノブ様に可愛がって頂いてて私はこの人の妻になるのがとても嬉しかったの。大きな手が私の頭を撫でる度に早く大人になってヨシノブ様の子を授かりたいとずっと思っていた。少しはしたないかしら?でもそれが私の夢だった。
12歳になり、ついに私も大人になった。
お腹のずしりとした痛みと血の着いた布団を見てやっとヨシノブ様の子を成せるとはしゃいだわ。
今夜は赤飯だとばあやと話しながら髪を梳かしてもらう。
早くヨシノブ様のお顔を見たいわ。
きっと喜んでくれるはず。
そう、こんな風に赤に彩られたヨシノブ様を見るはずじゃなかったの。
その男は急に現れた。
ヨシノブ様の首を持って。
「やっと逢えた…まさか君が既に誰かの嫁になってるだなんて思いもしなかったんだ。」
彼はくしゃりと顔に笑みを浮かべ、私の頬に手を添える。
彼の手に着いた赤が私の頬へ移った。
これは誰の血?
そんなはずはないわ。だってーーー
視線を少し下げるとヨシノブ様と目が合った。
物言わぬヨシノブ様の「首」と。
「ーーーーーー」
声にならない悲鳴を上げながら私はその男から逃げる。
ヨシノブ様の妻になるためにおしとやかに上品に、と走らすことのなかった体はすぐに足をもつれさせた。
どたっと倒れた私に声がかかる。
「大丈夫?ああ、僕が側にいながらこんな風に転けるだなんて。でも君も悪いんだよ?だって僕というものがありながら他の男の嫁になるだなんて。ちょっとくらい痛い目に合えばいいんだ。ねぇ、君。早く君の名前を教えてくれないかな?ああでも君の声で僕の名前も呼んでもらいたいな。僕の名前はエドワード。竜族だよ。そして君は僕の愛する番だ。ねぇ、君の名前は?」
私に伸ばされた手を見ながら、この男が喋ることを理解しようと頭を回す。
でもどうしても「理解」ができない。
ただ、わかったことがある。
この男に声を聞かれたくないということだ。
伸ばされた手を叩き落としながら私は立ち上がり彼の目を見る。
決して許さない。
彼を不幸のどん底に落としてやると私は決意した。




