表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第1章:ゴミ溜めからの再建計画(ターンアラウンド) ~「死神」コンサルタントは、数字で悪徳貴族を黙らせる~
9/18

第7話:戦場(ダンジョン)のオペレーション

翌朝。


 窓の外が白む頃、ようやく俺たちの作戦会議は終わった。


 机の上には、インクで真っ黒になった地図と、大量のメモが散乱している。  ほぼ徹夜だ。


「……ふぅ。これで理論上のバグは潰したわ」


 サラが大きく伸びをする。  目の下には薄っすらとクマができているが、その瞳は爛々と輝いていた。


「驚いたな。君がここまでタフだとは思わなかった」


 俺がコーヒーを差し出すと、サラは少しはにかんで受け取った。


「……私、興味がないことにはとことん無関心だけど、面白い謎解き(パズル)を見つけると、止まらなくなるの」


 昨日の無表情で冷めた態度が嘘のようだ。  戦術の穴を見つけ、修正し、効率化する。その作業中の彼女は、まるで新しい玩具を与えられた子供のように熱中していた。


 一見クールに見えるが、根は真面目で、何より頼りになる。  彼女がいなければ、この短時間でここまでの作戦は組み上がらなかっただろう。


「最高の相棒バディを見つけた気分だ。……よし、行くぞサラ。改革の時間だ」


「ええ。やりましょう、ルイ」


 彼女はもう、俺を「貴族」として見ていない。  背中を預ける「同志」として、名前で呼んでくれた。


          ◇


 冒険者ギルド「荒野の牙」の空気は、劇的に変わっていた。


 昨日まで欠伸をしていた職員たちが、今は鬼の形相で冒険者たちをチェックしている。  なぜなら、彼らの背後に俺とガントが仁王立ちしているからだ。


「……ちっ、いちいち細かいんだよ」


「俺たちゃ自由にやりたいんだ」


 不満の声も上がるが、ガントの怒号一発で全員が直立不動になる。  現場の規律ディシプリンは整った。


 俺は頷き、新設された**「作戦司令室オペレーション・ルーム」**へと向かった。


          ◇


 司令室では、サラが巨大な地図を前に、集まった冒険者のリーダーたちに説明を行っていた。


「今回の作戦のカナメは、『誘引』です」


 サラが地図上の赤い駒(敵)と、青い駒(味方)を動かす。


「アンデッドの習性については、過去の研究で二つの特徴が判明しています」


「一つは、みなさんも知っている通り、生者の数が多い方向へ引き寄せられること」


「もう一つは……なぜか『氷魔法』の魔力波長に強く反応し、襲いかかってくることです」


 氷魔法への反応。  それは彼女が実家で読み漁った古い文献と、独自の研究による知識だ。


「この習性を利用します」


「まず、入り口付近の広間に前衛部隊を集結させ、あえて『生者の気配』を濃くします。さらに、魔法使いが定期的に氷魔法を空撃ちし、敵を挑発します」


「すると、奥の通路に散らばっているアンデッドたちが、一斉に広間へ殺到します」


「そこを叩くのですか?」


 質問したのは、最前列にいた男だった。  くたびれた革鎧に、特徴のない顔立ち。  Bランクパーティ『黄金の盾』のリーダー、剣士のダンルイだ。


「はい。敵が広間に集まっている隙に、ダンルイさん率いる『調査団』は、手薄になった脇道サイドルートから深層へ侵入してください」


「承知しました」


 ダンルイが俺の方を向き、深々と頭を下げた。


「ルイ殿下。このような安全な策を立案していただき、感謝します。おかげで、無駄に部下を死なせずに済みます」


「礼なら俺に言うな。この戦術を構築したのは、そこにいるサラだ」


 俺が視線で示すと、ダンルイは驚いたようにサラを見つめ、改めて深く頭を下げた。


「なんと……このお嬢さんが。素晴らしい戦術眼です。我ら冒険者には思いつかない、命を重んじた策だ。……ありがとう」


 真っ直ぐな感謝の言葉。  それを浴びたサラは、一瞬きょとんとした後、みるみるうちに耳まで赤く染めた。


「べ、別に……当たり前のことを言っただけよ」


 サラはぷいっと顔を背け、地図上の駒をいじるフリをする。


「効率を考えればこうなるってだけの話。……感謝されるようなことじゃ、ないわよ」


 口では素っ気ないが、その口元は少しだけ緩んでいた。  自分の才能が認められ、感謝される。  それが彼女にとって、どれほど新鮮で嬉しいことか、俺には痛いほど分かった。


 ダンルイは微笑ましそうに目を細め、再び俺に向き直った。


「では、行って参ります。私と、私のパーティ『黄金の盾』一同……ご期待に添えるよう、全力を尽くします」


 非常に腰が低く、正義感の強そうな男だ。  だが、俺の鑑定眼アセスメントでは、彼のステータスは高いものの、ギルドマスターのガントが放つような『覇気』は感じられない。


(……人柄は良さそうだが、Bランクにしてはどこか平凡だな。本当にこの激戦地を抜けられるのか?)


 眉を寄せて考え込んでいた、その時だ。


 ――グイッ。


 隣にいたサラに、脇腹を肘でつつかれた。


「……っ」


「心配しなくて大丈夫よ」


 サラが俺にだけ聞こえるような小声で囁く。


「彼はレベルも高いし、戦士としてのセンスも抜群にいいの。私も一回、補佐で潜ったことあるけど……彼ならやってのけるわ」


「……そうか。サラがそこまで言うなら、信じよう」


「ふふっ。意外とルイって、心配性なのね」


「……うるさい。これからの街の存続がかかっているんだ。慎重にもなる」


 俺がむっとして答えると、サラは楽しそうにクスクスと笑った。


 実際、彼の能力は誰もが評価している。  その上、彼らのパーティ編成は完璧だった。


 剣士リーダー、重装の盾役タンクが2名。  そして罠や鍵を開ける専門家である「解除師トラッパー」。  後方にはヒーラーと攻撃魔術師。


 合計6名の、守りと安全性を重視したBランク編成だ。


「期待しているぞ、ダンルイ」


「はっ! 必ずや吉報をお持ちします!」


 ダンルイたちは敬礼し、戦場へと向かっていった。


          ◇


 作戦開始から数時間。


 サラの読み通り、戦況は一方的だった。


「氷魔法、発射!」


 ヒュンッ!  広間で氷のつぶてが弾けると同時に、奥の通路から「カカカカッ!」と歯を鳴らす音が響いてくる。


 釣られたスケルトンやゾンビが、雪崩のように広間へ押し寄せる。


「来たぞ! キルゾーンへ誘導しろ!」


 待ち構えていた本隊が、密集した敵を一斉魔法で粉砕する。  単純作業ルーチンワーク。  だが、恐ろしいほどの効率だ。


 そして、その情報のやり取りを支えているのが、俺が考案した「伝令システム」だ。


「伝令! 第一階層、A-4区画、制圧完了!」


 部屋に飛び込んできたのは、軽装の斥候だ。  彼の横には、護衛役の足の速い剣士がついている。


 情報を運ぶ専門の係を3人用意し、常に本隊と司令室を往復させているのだ。  これにより、タイムラグなしで戦場の霧が晴れていく。


「A-4クリア。……よし、ダンルイ隊のルートは確保できたわ」


 サラが地図上の駒を進める。  別ルートから侵入したダンルイたちの動きも順調のようだ。


 その時、次の伝令が息を切らせて飛び込んできた。


「ほ、報告! 調査団のダンルイ隊より入電!」


「どうした? 何かトラブルか?」


 俺は身を乗り出した。  やはり、あの平凡な優男には荷が重かったか――。


「いえ……その逆です!」


 伝令兵が、興奮気味に叫んだ。


「侵入ルート上で、『スケルトンナイト』5体の小隊と遭遇!」


「スケルトンナイトだと!?」


 ガントが驚愕の声を上げた。  Cランク上位のモンスターだ。それが5体も固まっていれば、Bランクパーティでも半壊しかねない。


「で、被害状況は!?」


「ゼロです! リーダーのダンルイが、一人で5体とも瞬殺しました!」


「はあ!?」


 俺とガントの声が重なった。


「目にも止まらぬ早技でした……。一太刀で鎧の継ぎ目を貫き、5体同時に首を刎ねたそうです。『掃除完了』とのことで、先へ進んでいます!」


 司令室がどよめきに包まれた。


(……わお)


 俺は内心で口笛を吹いた。  あの一見頼りなさそうな男、ただの善人ではなかったか。  能ある鷹は爪を隠す。  どうやら俺の人事評価スキルも、まだまだ甘かったらしい。


「……ふっ、嬉しい誤算だ」


 俺は椅子に深く座り直した。


 正面からの「誘引殲滅」。  裏からの「精鋭突破」。  そして、それを繋ぐ「高速情報網」。


 全てが噛み合っている。  戦利品の報告書が山のように積み上がり、街の財政を一気に潤していく。


「死亡率ゼロ。進行速度は想定の200%。……完璧だ」


 これぞ「最適化」。  無法地帯だった戦場が、巨大な生産工場へと生まれ変わった瞬間だった。


「サラ。このまま深層まで行けるか?」


「はい。ダンルイ隊が先行して罠を解除してくれています。明日には、最深部のミスリル鉱脈に到達可能です」


 サラが充実感に満ちた笑顔を見せる。  ガントも「こりゃあ、たまげたな」と上機嫌だ。


 順調だ。順調すぎるほどに。


 だが、この「順調さ」こそが、コンサルタントとして最も警戒すべき落とし穴でもある。


 現場が慣れ、気が緩んだ瞬間に、事故は起きる。  そして何より――俺自身が、この成功に酔い始めていた。


(俺も現場を見る必要があるな)


 俺は腰の剣に手をやった。  ダンルイがあれほどやれるなら、同じBランク相当の知識レベルを持つ俺にも可能なはずだ。  それに、直接ミスリルの純度を確認したい。


「明日は俺も『調査班』として潜る」


「え? ルイがですか?」


「ああ。指揮はサラに任せる。……なに、安全マージンは十分にとっている。問題ない」


 そう。  問題ないはずだった。


 この時の俺は、まだ知らなかったのだ。  ダンジョンには、計算できない「例外イレギュラー」が存在することを。


 そして、俺自身の最大の弱点が、「自身の過信」であることを。

お読みいただきありがとうございます!


冒険者たちが「え、これだけでいいの?」と困惑するほどのホワイトな職場環境。 徹夜で深めた絆と、氷魔法による誘導、そしてBランク隊長ダンルイの意外な無双。 サラも褒められて照れる可愛さを見せてくれました。


しかし、ラストの不穏な引き……。 「現場を知らない指揮官」が前線に出るとどうなるか。 次回、ルイに最大のピンチが訪れます。


面白いと思っていただけましたら、 ぜひ下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントをお願いします! ブックマークも増えると泣いて喜びます!


▼次回予告 第8話『指揮官の過信、死の気配』 「俺には攻撃軌道が見えるから大丈夫だ」 そう思っていたルイの前に現れたのは、想定外の強敵でした。 頭脳が通用しない、圧倒的暴力の恐怖。


次回も【明日18時】に更新します!


【この世界の豆知識】


■ダンジョンの役割分担ロール


解除師トラッパー】 戦闘力は低いが、宝箱の解錠や、通路の罠発見に特化した専門職。この世界では「盗賊シーフ」という呼び名は差別用語とされるため、ギルドではこう呼ばれる。


伝令ランナー】 ルイが新設した役職。足の速い剣士が護衛につき、3人一組で情報を運ぶ。「情報=弾薬」と考えるルイの戦略の要。レベルもそのエリアのモンスター2体ほどに遭遇しても戦える人材を起用している。


【スケルトンナイト】 Cランク上位〜Bランク相当。全身鎧を着込み、武技を使う骸骨騎士。通常は熟練のパーティが囲んで倒すが、ダンルイはこれを瞬殺した。言い伝えによると古代文明の騎士団が魔王に魂を乗っ取られ、数百年もの間酷使されているとも言われているモンスター。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ