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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第1章:ゴミ溜めからの再建計画(ターンアラウンド) ~「死神」コンサルタントは、数字で悪徳貴族を黙らせる~
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第5話:その冒険者ギルドは、人を殺す

行政権を掌握してから数日後。  俺は執務室ではなく、街の目抜き通りにいた。


 着ているのは、貴族の服ではない。  市場で調達した、少し使い古された革鎧と、目立たない灰色のマントだ。


 隣を歩くサーシャも、いつものメイド服ではなく、軽装の狩人のような格好をしている。  フードを目深に被っているが、その隙間から見える表情は、どこか楽しそうだ。


「ふふっ……なんだかワクワクしますね、ルイ様! こうしてお忍びで街を歩くなんて!」


「お忍びではない。『視察』だ」


 俺は小声でたしなめる。


「これから向かう冒険者ギルドは、この街の重要な『外貨獲得源』になるはずの組織だ。だが、現状は機能不全デッドロックに陥っていると聞く。……まずは客として潜り込み、実態を調査リサーチする」


 俺は背後の二人組に視線を向けた。


 大柄な盾使いの男、ボブ。  無口な魔術師の女、サラ。


 この視察のために、酒場で金を払って雇った「即席パーティメンバー」だ。


(……悪くない人材だ。だが、連携チームワークはゼロだな)


 俺は冷徹に分析する。


 ボブは前衛として十分な体格だが、後ろのサラを気にかける様子がない。  サラも常に無表情で、周囲への関心が薄い。  単に「金のために一時的に組んだだけ」というドライな関係だ。


 何より致命的なのは、このパーティには「ヒーラー」がいないことだ。  ギルドの規定では、Cランク以下のパーティは最低5名編成、かつヒーラーの同行が義務付けられているはずだ。


 だというのに、ボブもサラも、3人(+サーシャ)でのパーティ結成に何の疑問も抱いていない。


安全管理規定コンプライアンスが完全に形骸化しているな)


 俺は小さく溜息をついた。  安全軽視の現場は、必ず事故を起こす。  これは、工場でもダンジョンでも変わらない真理だ。


          ◇


 冒険者ギルド「荒野の牙」。  重厚な扉を開けた瞬間、俺を出迎えたのは――むせ返るような「澱み」だった。


「――ガハハハ! 飲め飲めぇ!」 「おい、この酒が水っぽいぞ! ふざけんな!」 「あぁ? やるかコラァ!」


 昼間だというのに、ロビーは酒盛りをする冒険者たちで溢れかえっていた。  床にはゴミが散乱し、何日も掃除されていないことが分かる。  汗と酒、そして血の匂いが混じり合った、不快な悪臭。


(……ひどいな)


 俺は顔をしかめた。  冒険者の質も低い。装備の手入れはおろか、自身の体調管理すらできていない連中ばかりだ。  怪我をして包帯を巻いたまま酒を飲んでいる者もいる。


 これでは「ギルド」ではない。  ただの「自殺志願者の溜まり場」だ。


「……ルイ様。受付の方も、ひどい有様です」


 サーシャが指差した先。  受付カウンターには、派手な化粧をした女性職員が座っていた。  だが、仕事をする気配はない。爪の手入れをしながら、隣の職員と無駄話をしている。


 俺たちは列に並んだ。  いや、列などない。早い者勝ちで割り込むのがここのルールらしい。


 その時だ。  隣のカウンターで、大声が上がった。


「おい! 東の森で『グレイトグリズリー』が出たって報告書、出しただろうが! なんでまだ掲示板に注意書きがねぇんだ!」


 傷だらけの冒険者が、受付の男に怒鳴っていた。  グレイトグリズリー。Cランク相当の強力な魔物だ。  この世界の常識では、同ランクかそれ以上のパーティでなければ、遭遇した時点で全滅もあり得る。


 だが、受付の男は面倒くさそうに鼻をほじった。


「あー、はいはい。報告は受け取ったよ。後でまとめて処理するから、騒ぐなって」


「後でっていつだよ! 今すぐに周知しねぇと、知らずに行った奴が死ぬぞ!」


「うるせぇな! こっちは忙しいんだよ。……ほら、次」


 受付は冒険者を追い払い、次の申請者を呼んだ。  そこに現れたのは、まだ十代半ばに見える、あどけない少年少女の3人組だった。  装備は粗末な皮の鎧。見るからに、登録したてのEランク(初心者)パーティだ。


「薬草採取のクエストを受けたいんですけど……」 「はいよ。場所は?」 「東の森の入り口付近です」


 その言葉に、俺の足がピタリと止まった。  東の森。  さっき、「グレイトグリズリーが出た」と報告があったばかりの場所だ。


(……おい)


 まさか、通さないよな?  Cランクモンスターの出没エリアに、Eランクの子供たちを?  それは業務上の過失ではない。「殺人教唆」だ。


 だが、俺の予想を裏切り、受付の男はハンコを手に取った。


「はいはい、東の森ね。薬草採取なら簡単だ。行ってきな」 「ありがとうございます! 行ってきます!」


 少年たちは嬉しそうに依頼書を受け取り、出口へ向かおうとする。  受付の男は、何の良心の呵責もない顔で欠伸をしている。  情報の連携(共有)がされていない? いや、違う。


(知っていて、無視したのか)


 俺の中で、何かが冷たくキレる音がした。  非効率。職務怠慢。組織としての欠陥。  数ある「無能」の中でも、俺が最も許せないタイプだ。


 俺は無言で歩き出し、少年たちの前に立ちはだかった。


「行くな」 「えっ……?」 「そっちへ行けば死ぬぞ。東の森にはCランクの魔物が出ている」 「えっ!? ほ、本当ですか!?」


 少年たちが青ざめる。  俺は彼らの手から依頼書を取り上げ、カウンターへと戻った。  そして、受付の男の目の前に、その紙を叩きつけた。


 ――バンッ!!


 乾いた音が、喧騒に包まれたギルド内に響き渡る。  一瞬、周囲が静まり返った。


「あぁ? なんだお前」


 受付の男が、不機嫌そうに俺を睨みつける。


「何の真似だ? 営業妨害だぞ」


「妨害しているのはどちらだ。Cランクモンスターの出現報告があったエリアに、Eランクのパーティを派遣する。……貴様、正気か?」


 俺は冷徹な声で告げた。  男は一瞬ギクリとした顔をしたが、すぐに居直ったように鼻を鳴らす。


「はっ、何を言うかと思えば。薬草採取は『森の入り口』だ。クマが出るのは『奥』だろ? 遭遇する確率は低いんだよ」


「確率はゼロではない。万が一遭遇したら、彼らは確実に全滅する。そのリスク(可能性)を、なぜ説明しなかった?」


「いちいち説明してたら仕事にならねぇんだよ! 大体なぁ、運が悪けりゃ死ぬのが冒険者だろ! 自己責任だ!」


 自己責任。  管理を放棄した人間が、最も好んで使う言い訳だ。


「……なるほど。自己責任か」


 俺は冷ややかな目を細めた。


「なら、貴様のその怠慢で彼らが死んだ場合、その損害賠償と遺族への説明も、貴様個人が責任を持って行うんだな?」


「なっ……!?」


「ギルド職員としての管理義務違反だ。組織は守ってくれないぞ。全財産を売り払ってでも償う覚悟があるから、ハンコを押したんだろう?」


 俺が淡々と詰め寄ると、男の顔が赤黒く染まった。  論理で勝てない人間が次にとる行動は、決まっている。  「暴力」による解決だ。


「てめぇ……! 新入りのくせに、ごちゃごちゃと!」


 男がカウンターを叩いて立ち上がると、それに呼応するように、周囲で飲んでいた荒くれ者たちが立ち上がった。


「おいおい、何だぁ?」 「生意気な新人がいるって?」 「受付の兄ちゃんを困らせるんじゃねぇよ、貧弱な貴族崩れが!」


 あっという間に、俺たちは十数人の冒険者たちに囲まれた。  どいつもこいつも、酒臭い息を吐きながら、敵意を剥き出しにしている。


「……やれやれ」


 俺は小さく溜息をついた。  後ろではボブとサラが「俺たちは関係ない」とばかりに距離を取り、サーシャが心配そうに俺の服を掴んでいる。


 話し合い(交渉)のフェーズは終わったらしい。  ここからは、現場(実力行使)の時間だ。


「おい、表へ出ろ。教育してやるよ」


 先頭の男が、歪んだ笑みを浮かべて俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。


 だが。


(……遅い)


 俺の目には、その軌道が、赤いラインとなってハッキリと視えていた。俺のスキルは便利でどこを攻撃するのかもある程度見える。だから、レベル26の俺でもLv35くらいの相手までは相手ができるのだ。


 ――開戦だ。

本日もお読みいただきありがとうございます!


「自己責任」。 管理を放棄した人間が使う、一番汚い言葉ですね。 ブラック企業ギルドの実態を目の当たりにし、ルイの怒りのボルテージが上がってきました。


さて、囲まれたルイですが……実は彼は「頭脳」だけの男ではありません。


もし「続きが気になる!」「返り討ちにしてやって!」と応援してくださる方は、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れていただけると最高に嬉しいです! (ブックマーク登録もぜひ……!)


▼次回予告 第6話『暴力よりも強い「情報」』 襲いかかる荒くれ者たち。しかし、ルイには全ての攻撃軌道が「視えて」いた。 そして現れる、強面のギルドマスター。


「俺なら死者をゼロにし、稼ぎを10倍にできる」


暴力とデータの真っ向勝負が始まります。


次回も【明日18時】に更新します!

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