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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第31話:撒かれた毒紙と、兵站(ロジスティクス)の破壊戦略

 朝。  執務室で書類に目を通そうとしていた俺の耳に、窓の外から異様な騒音が飛び込んできた。  怒号。シュプレヒコール。ただならぬ群衆の気配だ。

「……何事だ」

 俺が立ち上がると同時に、コンコンと静かなノックの音が鳴り、宰相のマティアスが執務室に入ってきた。  彼の表情は常に変わらず冷静沈着だったが、その手には何枚もの見慣れぬ紙束が握られていた。

「ルイ様。屋敷の正門前に、旧市街の労働者を中心としたデモ隊が集結しています。数はざっと二百。……原因は、これです」

 マティアスがデスクに置いたのは、王都の紋章が印字された『王国真実報』という新聞の号外だった。  太々しい黒インクで、こう見出しが躍っている。

『バール領主、市民を裏切る軍国化』 ■ 小見出し:『血税で大量のよそ者(傭兵)雇用。急増する凶悪犯罪の元凶か』

「ここ数週間、バール市街にじわじわと持ち込まれ、ばらまかれていたようです。昨今の急激な発展による環境の変化も相まって、ついに市民の不安が沸点に達したのでしょう」

 マティアスの淡々とした報告を聞きながら、俺は冷たい目で新聞を見つめた。

 記事には、最近のバールの急激な発展や自由貿易区の特権階級の存在、そして引き入れた傭兵たちの存在が、ひどく誇張され、悪意ある文脈で切り取られて書かれていた。  工作員に金を払って扇動させた暴動ではない。この記事を読んだ市民たちが、純粋な「自分たちの生活が脅かされるかもしれない」という恐怖と被害者意識から立ち上がったのだ。

 事実をベースに嘘を混ぜ込み、大衆の不安を煽る。前世の現代社会でも、ネットやタブロイド紙で常套手段とされる悪辣な情報操作だ。  第二次世界大戦におけるプロパガンダもそうだった。大衆の不安に明確な『敵(よそ者)』というターゲットを与え、怒りをコントロールする。  この兵器は、剣や魔法よりもタチが悪い。

「マティアス。武力による鎮圧は厳禁だ。それこそ『領主の軍国化』という記事の証明になってしまう」

「心得ております。すでに私の部下の文官たちを広場へ向かわせ、『説明会』の場を設けるよう手配済みです。領主様が直接出向く必要はありません。数字と事実を丁寧に提示し、彼らの誤解を解くことに注力させます」

 さすがは有能な宰相だ。すでに初動の火消しは終わっている。

「助かる。だが、これはただの応急処置だ。それに加えて、早急に『バール政府公式の広報板』を街中に用意しろ。数百メートルおきに設置し、税金の使い道や実際の犯罪件数の低下など、正確な最新情報を毎日掲示させるんだ。情報の透明化が、最大の防御になる」

「ハッ。直ちに」

          ◇

 文官たちの粘り強い説明会と広報板の設置により、デモ隊はひとまず解散した。  しかし、撒かれたフェイクニュースの出所を絶たない限り、第二、第三の暴動が起きるのは時間の問題だ。

 夜。俺は執務室に、マティアスとモネを招集した。  そこへ、人目につかないよう屋敷の裏口からこっそりと案内された情報屋、ヤンダルが音もなく姿を現した。

 彼が俺と繋がっていることが他国や王宮にバレれば、せっかくの情報網が機能しなくなる。前回は地下の酒場で極秘に接触したが、今回も屋敷の使用人すら遠ざけ、徹底した隠密行動をとらせていた。

「……いやはや、領主様の屋敷は裏口も警備が厳しくて、入るだけで肩が凝りますねぇ」

 ソファにどっかと沈み込んだヤンダルが、気怠げに首を鳴らす。

「……調べはついたか、ヤンダル」

 俺が問いかけると、ヤンダルはニヤリと笑って一枚の地図を広げた。

「ええ。お得意様の依頼ですからねぇ、きっちり裏を取りましたよ。  王都の新聞本部は王宮の近くにありますが……バールに持ち込まれている新聞は、そこでは刷られていません。王都と第1区の境界にある、巨大な『地方向け印刷所』で作られています」

「地方向け、だと?」

「ええ。王都の市民には当たり障りのない綺麗な記事を見せ、バールのような地方には、不満を煽る猛毒の記事をばらまく。完全に地方の不安定化を狙った戦略です」

 王宮の官僚め、なかなかいやらしい手を使う。  だが、物理的な生産拠点が判明したなら、話は早い。  俺はコンサルタントとしての冷酷な笑みを浮かべ、金庫番であるモネに視線を向けた。

「モネ。敵の新聞の『サプライチェーン(供給網)』を、経済力で物理的に破壊する」

「……面白そうじゃない。どうするの?」

 モネが身を乗り出した。

「反論記事を出すだけでは後手だ。そもそも新聞が『作られ、運ばれる』という過程そのものをへし折る。  モネ、中央銀行の内部留保を使え。ダミー会社を複数設立し、第1区にある製紙ギルドとインク工房に接触しろ。現在の市場価格の『3倍』の値段で、彼らの生産する紙とインクの【独占供給契約(専属契約)】を結んでしまえ。もし他所に卸せば、莫大な違約金を払わせるという縛り付きだ」

「なるほど、資本力による兵糧攻めね」

「それだけじゃない。印刷所から各地へ新聞を運ぶ【運送ギルド】そのものを、丸ごと買収しろ」

「……買収? 馬車を借り切るだけじゃなくて、組織ごと飲み込むの?」

「そうだ。物流の心臓部を握れば、新聞は物理的に運べなくなる。おまけに、あのエリアの運行業を独占してバール傘下に収めれば、最終的には莫大な利益を生む事業になる。さらに、各地を走り回る御者たちは、他領の動向を探る優秀な『情報網スパイ』として機能する」

 言論を封殺し、新規事業を手に入れ、諜報網まで拡大する。  俺の提示した一石三鳥の計画に、モネの翠緑の瞳がビジネスの興奮で爛ギラギラと輝き始めた。

「……最高にエグいやり方ね。商人として血が騒ぐわ。3倍の買収額とギルドの買収費用なんて、今のバールの資金力なら十分にお釣りが来る投資よ。明日にはダミー会社を動かして、第1区の物資と物流を根こそぎ奪ってやるわ」

 ヤンダルが「いやはや、悪魔の所業ですねぇ」と呆れたように笑う。  マティアスも、眼鏡の奥で静かに感嘆の息を漏らしていた。

 フェイクニュースには、論理と圧倒的な資本力で返答する。  俺たちの反撃作戦が、今静かに幕を開けた。



情報戦に対するルイの反撃の狼煙が上がりました。

プロパガンダには「資本力によるサプライチェーン(物理的な生産・物流ライン)の破壊」という、極めてコンサルタントらしいロジックで対抗します。 言葉で言い争うのではなく、「紙とインクと馬車を全部買い占める」という札束での殴り合い。モネも非常に生き生きとしています。

次回、実際にモネが動き、王都の言論機関を物理的に干上がらせる痛快な展開となります。


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