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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第30話:『安全保障』と兵力を買う ―― 金庫番モネがもぎ取った、第4区との「不平等条約」

 王都の不穏な動きや、サクレア軍の拡張。  迫り来る戦争の影に備え、俺はバールを事実上の「城塞都市」へと作り変えつつあった。

 執務室のデスクで、俺は経済局長のモネから提出された今月の財務レポートに目を通していた。

「……見事なV字回復だな」

 俺が言うと、ソファに足を組んで座るモネが誇らしげに胸を張った。

「当然でしょ。防衛のために街への関門を厳格化したから、最初は商人の足が遠のいて物流が落ち込んだわ。でも、厳しい審査を通過した優良商人には、バール内での関税を優遇して利益率を大幅に上げてやったの」

「なるほど。安全な市場で独占的に稼げるなら、商人は多少の手間でも喜んで手続きをする」

「その通り。それに加えて、ラナ川沿いの港周辺だけは誰でも出入りできる『自由貿易特区』に指定したわ。怪しい行商人や情報屋はそこで取引させれば、街の内部の治安は守れる」

 モネは艶やかな唇に笑みを浮かべ、さらに驚くべき報告を口にした。

「自由貿易区の経済効果は絶大よ。土地の価格が高騰して、莫大な富を得る新興の富裕層が増え始めているわ。実は先日、バール初となる『5階建て』の高層ビルの着工が始まったのよ」

「5階建てだと?」

 近代建築の足音が、ついにこのファンタジー世界にも響き始めたか。  飴と鞭、そして特区によるゾーニング。完璧な経済政策だ。俺は脳内で現在のバールのマクロデータを弾き出した。

 現在、バールの人口はおよそ4万人(急増中)。  今月のバールの総収入は、独自の関税、法人税、専売品(砂糖菓子や鉄製品)の利益、そして周辺の小都市からの献上金を含め、およそ『金貨2000枚』に達している。

 一方で支出も莫大だ。ヴェスタが進める外壁と堀の巨大土木工事は総額1800金貨。2ヶ月の急ピッチ工期のため、単月で900金貨が飛んでいく。さらに2600人に膨れ上がった軍の維持費と兵器開発費に500金貨。医療や行政などのその他インフラ運営費に300金貨。  支出合計は1700金貨。毎月300金貨の黒字だ。  中央銀行の金庫にある現在の貯蓄(内部留保)は『40000金貨』。国家予算規模のストックだが、戦争が始まれば一瞬で溶ける額でもある。

「最近、本当にこの仕事を引き受けてよかったと思うわ」

 モネが紅茶のカップに口をつけながら、ふと呟いた。

「昔みたいに、自分の商会だけを儲けさせるのとはワケが違う。でも、最近は単純な経済政策だけじゃなくなってきたわね。防衛や外交が複雑に絡んでくるから、頭が痛いわ」

「そうだな。……そういえばモネ。今日の昼、第4区から来る使者との会議がある。お前も同席してくれないか」

「あら」

 モネが目を丸くした。

「私が軍事や外交の会議に入るなんて珍しいわね。お金の話が絡むの?」

「ああ。それに、もし将来、俺が不在の時にトップ交渉を任せるとしたら、お前かもなと思ってさ」

「マティアスがいるじゃない。あっちの方が政治交渉のプロでしょ」

「彼は極めて優秀な実務家だ。だが、盤面が乱れた時の頭の回転の柔軟さと、相手の欲を突く『商人としての交渉力』はお前の方が上だ。俺の冷徹なロジックを一番理解しているのもお前だしな」

 俺が素直な評価を口にすると、モネは一瞬きょとんとし、それから――。

「あははっ! あんたにそこまで言われると、悪い気はしないわね」

 いつもは皮肉めいた笑いしか見せない彼女が、久しぶりに心からの、底抜けに明るい笑顔を見せた。

          ◇

 昼。会議室。  第4区からの使者は、疲労困憊といった様子でテーブルの向かいに座っていた。

 第4区は王都の南、そして第3区の西に位置する国境の領地だ。  さらに南には『混合王国』と呼ばれる国があり、その国境沿いは無法地帯と隣接している。そのため絶えず小規模な戦争が起きており、第4区の軍隊は大陸でも屈指の精強さを誇っている。

 現在、その4区では前領主が死亡し、3人の兄弟で泥沼の後継者争いの真っ最中らしい。使者は、一番上の兄が送ってきた男だった。

「……単刀直入に申し上げます。長男派は現在、深刻な資金難に陥っております。もしバールから軍資金の援助をいただけるなら、見返りとして、我々の歴戦の軍人『800名』をバールに貸し出します。期間は問いません」

「なるほど」

 俺は腕を組んだ。  百戦錬磨の兵士が800名。バール軍の戦力を一気に引き上げる、極めて魅力的な提案だった。

 俺が条件を詰めようとした時、隣に座っていたモネがスッと身を乗り出した。

「お言葉ですが、使者殿」

 モネの声は、優雅でありながら氷のように冷徹な『大商人』の響きを持っていた。

「資金難の軍隊を800名も貸し出されるということは、その兵士たちの武器のメンテナンス費用や食費は、全てこちら(バール)持ちになるということですよね?」

「そ、それは……はい」

「ふふっ。体よく言っていますが、要するに『兵士を養う金も食料も底を尽きたから、バールに800人分の扶持コストを丸投げしたい』というのが本音でしょう?」

 使者の肩が、ビクンと跳ねた。

「戦乱の続く第4区で、喉から手が出るほど欲しいはずの精鋭を手放す理由なんてそれしかないわ。兵を飢えさせるわけにはいかないから、私たちに養わせながら軍資金もせびろうってわけね」

「なっ……! 我が軍を侮辱――」

「事実でしょ。私たちは慈善事業の金貸しじゃないの。バールがあなたたちの兵を食わせてやり、さらに後継者争いのパトロンになってあげるというなら……その800名の完全な指揮権だけでは足りないわね」

 モネは冷たく微笑み、決定的な要求を突きつけた。

「長男派とバールの間で『安全保障同盟』を結んでいただきます。もし今後、バールが他領や……あるいは『王都』と戦争状態に陥った場合、あなたたちは無条件でバールの味方として参戦すること。それが融資の絶対条件よ」

「お、王都と戦争ですと!? そのような恐ろしい同盟……」

「あら、嫌なら他所を当たりなさい。兵士ごと飢え死にするか、それとも私たちと手を組んで次の第4区領主の座を手に入れるか。……選ぶのはあなたたちよ」

 モネの鋭い眼光に射すくめられ、使者は顔面を蒼白にして震えていた。

「さ・ら・に。お貸しする資金の『使用用途』は完全に透明化し、月ごとに詳細な報告義務を負っていただきます。帳簿の誤魔化しは許しません」

 一切の隙を与えない論理の連続に、使者はタジタジになりながらも、最終的には全ての条件を呑んで契約書にサインをした。

(……見事だ)

 俺は内心で口角を上げた。モネは分かっている。  軍の貸与という名目の裏にある「兵糧難」を見抜き、それを逆手にとって『安全保障同盟』という外交上の強力なカードをもぎ取った。  さらに資金使途の報告義務を負わせることで、第4区の内情を詳細に把握し、情報戦の武器にする。  モネは商人としてのスキルを活かしつつ、外交や諜報の領域にまで思考を巡らせている。その顔は、生き生きとしたやりがいに満ちていた。

          ◇

 使者が帰り、会議室には俺とモネの二人だけが残った。

「完璧な交渉だった。あの条件なら、バールにとって最高の傭兵契約かつ情報源になる」

「ふふん。伊達に長年、商売の第一線で張ってないわよ」

 モネは契約書を綺麗に畳みながら、ふと、窓の外の青空を見上げた。

「……前にも言ったと思うけどさ」

 彼女の横顔は、いつもの勝気な金庫番ではなく、途方もない時間を生きてきたエルフ特有の、どこか寂しげなものだった。

「長く生きているとね、『何事も永遠じゃない』ってことに慣れちゃうのよ。国が興っては滅び、人が生まれては死んでいくのを、何度も何度も見てきた。だから、失うのが怖くて、何に対しても一定の距離を置く癖がついてたの」

「……」

「でもね、ルイ。今はなんだか、自分がすごく『意味のあること』をしている気がして、嬉しいのよ。  これから戦争になるかもしれないし、また色んなものが壊れるかもしれない。怖いけど……何があっても、私たちが今作っているこの国は、ただの街じゃない。世界を変える力を持ってる」

 モネは俺に向き直り、その翠緑の瞳で俺を真っ直ぐに見つめた。

「あんたは人間だから、数十年もすれば老いて死ぬわ。エルフの私よりずっと早くね。  でも、その時私がまだ現役で生きていたとしても……あんたがこのバールに遺した『システム』や『技術』だけは、永遠に残ってそうだな、って。そう思えるのよ」

「……永遠のシステム、か」

 俺は小さく笑った。  命は儚い。ミカの死でそれを痛いほど学んだ。  だが、俺の構築する論理と、この街に根付かせた理念は、肉体が滅びても稼働し続ける。

「なら、お前がそのシステムの管理人をしてくれ。……百年後もな」

「ええ。せいぜい長生きして、私の仕事を増やさないでよね」

 モネはそう言って、再び明るく笑った。

 王都、サクレア、そして第4区。  周囲の思惑が複雑に絡み合う中、バールの屋台骨を支える仲間たちとの絆だけは、鋼のように強固になりつつあった。


お読みいただきありがとうございます!

バールの財政事情と、モネの鮮やかな交渉術が光る第30話でした。 月間収入が金貨2000枚(約20億円)、支出が金貨1600枚(約16億円)。急激な軍拡や巨大土木工事を行ってなお黒字を叩き出せるのは、徹底した効率化とフリーゾーンなどの絶妙な経済政策の賜物です。

そして、エルフであるモネの死生観。 「永遠じゃない」からこそ距離を置いていた彼女が、ルイの作る「死後も残り続けるシステム」にロマンと希望を見出しました。コンサルタントにとって、自分の作った仕組みが残り続けることほど本望なことはありませんね。

第4区の精鋭部隊も確保し、着々と防衛網は完成に近づいています。

次回、ついにゴードの工房で、戦争の概念を根底から覆す「あの兵器」が完成します。

「モネさん有能すぎる!」「エルフならではの寿命ネタ、エモい!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

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【豆知識:現在のバールの経済・都市状況】

■ 人口と都市構造 約4万人の大都市へと急成長。中央の政治・商業エリア、北東の旧スラム(現・駅および金融街)、西のラナ川沿いの倉庫・宿泊街、そして南北の工場区で構成されている。自由貿易特区では初の5階建てビルの建設が開始。

■ 月間収支の状況 ・月間収入:約2000金貨(関税、法人税、専売品利益、周辺都市からの献上金) ・月間支出:約1700金貨(内訳=堀の建設費900金貨、軍事・兵器開発費500金貨、その他行政・医療インフラ費300金貨) ・月間利益:約300金貨の黒字

■ 中央銀行の内部留保(貯金) 現在『40000金貨』。強固な財政基盤を持つが、戦争という莫大なコストを消費する事態に備え、油断できない状態が続いている。

■ 第4区について 王都の南、第3区の西に位置する領地。さらに南の『混合王国』との国境沿いにある無法地帯と隣接しており、絶えず戦争状態にあるため軍の練度が非常に高い。現在、領主死亡により3兄弟による後継者争いが勃発中。

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