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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第27話:軍の拡張の秘訣は引き抜き?ー北の重装傭兵集団のリクルート作戦

【サラ視点】

 王都との交渉をマティアスに任せている間、私はルイの命を受け、バール軍のさらなる拡張のために動いていた。  向かっているのは「第1区」。王都の北に位置する、広大な領地だ。

 1区はバール(第2区)とはあまり仲が良くないので、今回は身分を隠したお忍びの旅である。  馬車に揺られながら、私は向かいの席に座る男をジト目で睨んだ。

「……なんであんたがついて来るのよ」

「ははっ、そう邪険にしないでください。我が軍の軍事局長殿を、一人で敵地に乗り込ませるわけにはいきませんからね」

 金髪の将軍、ユースが爽やかに笑う。  自分の部隊の訓練があるのだから来なくていいと何度も言ったのに、彼は強引についてきた。  ……なんだろう、この感じ。彼といるとペースを崩されるというか、変に居心地が悪いような、悪くないような。

 私は咳払いをして、窓の外に視線を向けた。

 北に位置する第1区は、バールと比べるとかなり涼しい。冬には深い雪に覆われるほどだが、その気候は小麦や大麦の生産に極めて適している。  車窓には、第2区とは比較にならないほど広大な麦畑が、地平線の彼方まで広がっていた。

「……すごいわね」

 軍人としての率直な感想が漏れる。  ルイの進める「効率化」や「技術革新」とは違う。純粋な国土の広さと、人口の多さ。圧倒的な『物量の暴力』だ。あちこちの関所には重武装の兵士が立ち並び、軍事力の高さも窺える。

 だが、私の今回の狙いは、1区の正規軍ではない。  到着したのは、第1区の第二都市。その中心部にある巨大な『冒険者ギルド』だ。

          ◇

 冒険者ギルドには、ありとあらゆる人間が集まる。  本来、冒険者パーティといえば5〜6人の少数精鋭でダンジョンに潜るのが普通だ。だが近年、特に大きな都市のギルドでは、その形態が変わりつつある。  100人単位の人間を抱え、入団試験を行い、新人教育までシステム化する。もはやパーティというより『企業』や『傭兵集団』と呼ぶべき巨大組織が増えているのだ。

 私の標的は、この都市を拠点とする巨大クラン『極剣道きょくけんどうパーティ』。  総勢150名。そのうちA級が15名、B級が50名という、並の軍隊を容易く蹂躙できる圧倒的な戦力を持った武闘派集団である。  第1区は北の獣人国と隣接しており、国境沿いの小競り合いが絶えない。そのため、彼らのような実戦慣れした傭兵が育ちやすいのだ。

 彼らを丸ごと、バール軍に引き抜く。  それが私のミッションだ。

 ギルドに入り、極剣道パーティの面会を申し込む。私がA級冒険者(現在は休業中だが)の証を提示すると、すんなりと大型パーティ専用の応接室へ通された。  最初は採用担当の男が出てきたが、こちらの素性と「パーティごと買い取りたい」という要件を伝えると、男は顔色を変えて奥へ引っ込んだ。

「……では、上の者を連れてきます」

 数分後、部屋に入ってきたのは、鋭い目つきをした銀髪のエルフの女性だった。

「私が団長のヒラリーよ。バールから引き抜きの話だって?」

 まさか、団長直々に出てくるとは。  私が口を開こうとした瞬間、隣のユースが声を上げた。

「おお! ヒラリーじゃないか! 久しぶりだな!」

「……は?」

 ヒラリーの顔が、あからさまに歪んだ。

「あんたに会うのはちっとも嬉しくないけど……あんたが直々に来てるってことは、バールの噂は本当みたいね」

「え、知り合い?」

 私が目を丸くすると、ユースが頭を掻いた。

「ああ。国王護衛隊時代の同期なんだ。彼女は俺より随分早く辞めたけどな」

「あんたのせいでしょ。急に振るから、王都にいづらくなったのよ」

「……えっ。そうなの?」

「若気の至りです。……元カノでして」

 ユースが気まずそうに目を逸らす。

((やばーーーーい!!))

 私は内心で絶叫した。  元カレと元カノの交渉なんて、感情がこじれて絶対に難航するに決まっている! なんでこいつついてきたのよ!

          ◇

「……で? 話を戻すわよ」

 ヒラリーが腕を組み、冷ややかな視線を私に向けた。

「バールが景気いいのは知ってるけど、そう簡単に移れないわ。私の下には150人の部下と、その家族がいるの。全員を養うとなれば、相当な金額が動くわよ。地方領主に払えるの?」

 よし、ここからは私のターンだ。  私はルイとマティアスから事前に叩き込まれた「条件提示プレゼン」の書類をテーブルに広げた。

「準備しています。  まず、150名全員と、そのご家族の住居。これはバールの中心部から徒歩8分以内のエリアに、新築の集合住宅を無償で用意します。  次に給与。C級以下は一律で銀貨3枚(約30万円)。B級は銀貨4枚(約40万円)。A級は銀貨7枚(約70万円)。契約期間は無期限の正規雇用。武器防具の支給およびメンテナンス費用は、全て軍が負担します」

「……はい?」

 ヒラリーの目が、文字通り点になった。  無理もない。冒険者パーティは依頼の報酬を山分けするシステムだ。獣人の繁殖期である春の繁忙期でさえ、安定して稼げるのはこの半分の額だろう。  それを「固定給」で、しかも家族の住居保証付きで出すと言っているのだ。

「……凄まじく良い条件だわ。だけど、裏は?」

「ないわ」

「信じないわよ。そんなうまい話」

「個人的な裏はないわ。ただ、正直に言うと……」

 私は声を潜めた。

「現在、バールは王宮との関係が悪化しているの。だから、政治的な立場としては少し危ないわ。軍備を急いでいるのはそのためよ」

 下手に隠せば後で不信感に繋がる。これもルイの教えだ。  ヒラリーは深くため息をつき、やがてニヤリと笑った。

「なるほどね。戦の匂いがするから金払いがいいってわけだ。……私は長年生きているエルフだけど、最近のバールほど、面白いほど急成長してる街の噂は聞いたことがないわ」

 彼女は書類を指で弾いた。

「いいわ、受け入れる。……だけど、A級の給料は『銀貨8枚』にしてちょうだい。それなら、幹部たちも文句なく納得するわ」

「なぜ? 7枚でも破格のはずよ」

「私たちのパーティは山分けだから普段の給料は低いけど、A級の実力があれば、個人で動けば月に金貨1枚(約100万円)稼ぐ月もあるわ。住み慣れた街を離れさせるなら、せめてそれに近い夢を見させてよ」

 なるほど。傭兵のプライドと、部下への思いやりか。

「……分かったわ。問題ない。それで契約成立よ」

「決まりね。1週間以内に、部下をまとめてバールへ移動するわ」

 拍子抜けするほど、交渉はあっさりとまとまった。  圧倒的な資本力による「札束での殴り合い」。ルイの用意した武器は、剣や魔法よりも強力だった。

          ◇

 ギルドを出た後、私たちは馬車に乗り込んだ。  これから別の都市も回り、同じような武闘派パーティを片っ端からリクルートしていく予定だ。

 第1区の戦力を削り、バールに引き抜く。  当然、1区の領主からの心証は最悪になり、関係悪化は免れないだろう。

 だが、ルイは言っていた。 『今の第1区は、経済面でバールに圧倒的な差をつけられている。我々が3区とのラナ川の貿易ルートや、鉄の輸出入を握っている以上、彼らは経済的にバールに手出しできない。それに、王宮と1区の関係も良好とは言えない。気にするな』と。

 あの男の盤面ボードの上では、この大陸の全てが計算通りに動いている気がする。

「……しかし、ヒラリーも丸くなったものだ。昔はもっとツンケンしてたのにな」

 向かいの席で、ユースが暢気にそんなことを呟いている。

「あんたが振ったからでしょ」

「いやぁ、面目ない」

 私は呆れてため息をついたが、なぜか少しだけ、胸の奥がスッとしている自分に気づいた。  ……まぁ、優秀な戦力が手に入ったのだ。細かいことは気にしないでおこう。


お読みいただきありがとうございます!

サラの第1区リクルート出張編でした。 圧倒的な物量を誇る第1区の描写と、冒険者ギルドの「大型化(企業化)」という世界観の広がり。 そして、ユース将軍の元カノ登場というプチ修羅場(?)を挟みつつ、ルイ直伝の「圧倒的な福利厚生」で相手を丸め込む爽快な交渉シーンでした。

ルイのマクロな政治・経済戦略(1区が手出しできない理由)が裏付けとして機能しているため、サラも自信を持って動けていますね。

次回、引き抜いた大傭兵団がバールに到着。 そして、マティアスが王都から持ち帰った「一時的な平和」の裏で、ついにもう一つの隣国「サクレア」が牙を剥きます。

「ユースの元カノに焦るサラ可愛い!」「札束(福利厚生)で殴る交渉最高!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

次回も【明日19時】に更新します!


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