第23話:王の崩御と、変化する国内情勢
本日は投稿時間が大幅に遅れてしまい、申し訳ありません。これから面白くなっていくので今後とも是非よろしくお願いします。
新通貨「バール鉄貨」の発行から、半年が経過した。
「……【国家盤面】、開示」
執務室の椅子に深く腰掛け、俺は脳内でシステムを起動した。 視界に浮かび上がるのは、この半年間で劇的な変貌を遂げたバールの最新データだ。
【都市バール:最新ステータス】
人口: 約38000人(急増中)
財政: 黒字(ただし、銀行設立と軍の武器製造、鉄道拡張への再投資で手元資金は多くはない)
特産: 砂糖菓子、レンガ、ゴム製品、製鉄、鉄工業、武器製造、出版
軍事力: Bマイナス(装備の質は極めて高いが、圧倒的な人数不足)
危険度: S(王都からの敵視、鉄不足によるインフラ崩落リスク)
「……悪くない数字だ。だが、薄氷の上を歩いていることに変わりはないな」
俺は視界のデータを消去し、窓の外を見下ろした。 モネは昔の商業仲間や優秀な会計士をかき集め、かつてスラム街だった北西部と、新たに開通したバール駅の真ん前に、石造りの巨大な建物を二つ建設した。 『バール中央銀行』の本店と支店である。
銀行は、バール鉄貨という独自の血液を使って、事業を起こしたい市民や企業に「融資」を本格化させていた。結果として街には新しい工場や商店が次々と立ち並び、経済規模は爆発的に膨れ上がっている。
同時に、その豊富な資金を投入し、サラが指揮する「新生バール軍」の拡張も強行した。 領内だけでなく、近隣の都市から流れてきた傭兵や食い詰めた冒険者を高給で雇い入れ、現在、正規の訓練を受けた兵力は2000名に達している。 だが、ゴードの工房で進めている火薬や銃の開発はまだ試行錯誤の段階だ。高品質な鋼の剣と鎧で武装しているとはいえ、大国の正規軍と正面衝突するには、まだまだ数も火力も足りない。
そんな矢先だった。 バールの経済成長に冷や水を浴びせるような、一通の親書が届いたのは。
「……ルイ様。王都から、早馬です」
普段は冷静なマティアスが、血相を変えて執務室に駆け込んできた。 彼の手にある封筒には、王家の紋章が黒い蝋で封印されている。黒い封蝋は、王族の喪を意味する。
「……親父(王様)が、死んだか」
「はい。崩御なさいました。……そして、第一王子ウィリアム殿下が、新たな国王として即位されました」
俺は冷たい感触の親書を受け取り、ペーパーナイフで封を切った。 便箋に書かれていたのは、兄からの身を案じる言葉などではない。簡潔で、暴力的な最後通牒だった。
『バール領主ルイへ。 貴様が独自に発行している鋼の貨幣は、国家の通貨発行権を侵し、独立を企てる重大な反逆行為である。 新王の権限において、貨幣の製造および流通を即座に停止せよ。 従わぬ場合、反逆罪として聖騎士団による逮捕、および武力制圧も辞さない』
俺は親書を机に放り投げ、深くため息をついた。
「……いちゃもんをつけてきたな」
「いちゃもんなどという生易しいものではありません! 反逆罪ですぞ!」
マティアスが声を荒げた。
「国家において、通貨を発行できるのは中央政府だけです。それを一介の地方領主が勝手に作り、流通させたとなれば、独立宣言と見なされても文句は言えません!」
「逮捕、ね」
俺は鼻で笑った。
「誰が俺を逮捕するんだ? バールに駐留している聖騎士たちは、今やバールの鉄と飯で生活している。彼らは絶対に俺を裏切らない。……だが、王都から『討伐軍』を差し向けられれば、話は別だ」
2000名の軍では、王国の数万の軍勢は止められない。 銃器が整っていないこのタイミングでの武力衝突は、絶対に避けなければならない「最悪のシナリオ」だ。
「マティアス。お前、王都へ行け」
「……は?」
「俺の特使として、新王ウィリアムとの交渉の席についてこい」
俺の言葉に、マティアスは目を丸くした。
「わ、私がですか!? 反逆の疑いをかけられているこの状況で、敵の懐に飛び込めと……無事に帰れる保証がありません! 大丈夫なのですか!?」
「案ずるな。手ぶらで行かせるわけじゃない。最強の交渉材料を持たせてやる」
俺は引き出しから、二つの書類を取り出した。
「一つ目のカードは『脅迫』だ。……半年前の暗殺未遂事件。あの時捕らえたバロンの自白書と、王宮からの資金提供の裏付けデータだ。 これをチラつかせろ。『新王が即位早々、弟を暗殺しようとしていた証拠を近隣諸国にバラまかれたくなければ、武力行使は控えろ』とな」
マティアスが息を呑む。まさに、王家のスキャンダルという劇薬だ。
「二つ目のカードは『譲歩』だ。 バールから王都へ輸出している高品質な鉄の『関税』を、大幅に引き下げると提案しろ。 王宮も軍備を整えたいはずだ。バールの鉄を安く買える恩恵は、喉から手が出るほど欲しいはずだ」
「……アメとムチ、ですか。しかし、通貨の件はどうするのですか?」
「……一時停止だ」
俺は苦渋の決断を下した。
「現在市場に出回っている鉄貨を回収することはしない。だが、銀行での『新規発行』と『製造』は直ちに停止すると伝えろ。 ……王都の顔を立ててやるんだ。相手は王になったばかりだ。『弟を従わせた』という政治的な実績を与えてやれば、矛を収める口実になる」
第一王子、いやもう国王か、国王のウィリアムはとにかくプライドが高くて、気が短い。厄介な相手だが、扱いやすいのもある。逆にいうと、第二王子のマイルの方が何を考えているかわかんないことが多くて心配だ。彼は今何をしているのだろうか?
マティアスは書類を受け取り、震える息を吐き出した。
「……承知いたしました。この命に代えても、時間を稼いできます」
「死ぬ必要はない。お前は優秀な宰相だ。生きて帰ってこい」
俺がそう告げると、マティアスは深く一礼し、足早に執務室を後にした。
◇
一人になった執務室で、俺は壁に掛けられた大陸地図を見上げた。 状況は極めて緊迫しているように見える。危険度Sのパラメーターは伊達ではない。 だが、俺のコンサルタントとしての脳髄は、極めて冷静に盤面を俯瞰していた。
(……焦る必要はない。ウィリアムは、今すぐには動けない)
前世の企業買収(M&A)でも同じだ。 トップが変わり、新しい体制になった直後というのは、組織が最も脆弱になる。
ウィリアムは第一王子として即位したが、王国にはまだ第二王子派や、彼に反発する中立派の貴族たちが山ほどいるはずだ。 まずは国内の派閥争いを制し、反対勢力を粛清して地盤を固めなければならない。そんな足元がぐらついている状況で、バールのような辺境に大軍を差し向けるリソースの余裕など、あるはずがないのだ。
(工作員を放つ程度の嫌がらせはしてくるだろうが、正規軍が来るまでには、まだ年単位の猶予がある)
これは時間との勝負だ。 ウィリアムが王国の統制を完了させるのが先か。 俺が銃器を完成させ、バールの軍事力を王国に対抗できるレベルまで引き上げるのが先か。
「……急ぐぞ、サラ、ゴード」
俺は誰にともなく呟いた。 王の死は、終わりの始まりに過ぎない。 真の生存競争の火蓋が、今切って落とされたのだ。
お読みいただきありがとうございます。
冒頭の盤面データで明らかなように、バールは急速に発展していますが、危険度も最大レベルに達しています。 第一王子ウィリアムの即位、そして「通貨発行」という国家の逆鱗に触れる行為に対する最後通牒。 しかし、ルイは冷徹な分析で「今すぐの戦争はない」と見切り、マティアスに極秘の外交交渉を託します。
アメ(関税引き下げ)とムチ(暗殺の証拠)、そして顔を立てるための「発行停止」。 果たしてマティアスの交渉は上手くいくのでしょうか? そして、迫り来る戦争の影に対し、バールの軍拡は間に合うのか。
次回も【明日19時】に更新します!




