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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第21話:鉄と誇りの工場 ――産業革命の槌音と、忍び寄るインフレ

【設定:バールの製鉄事情】


体制: 市内には最大手「バール製鉄(2工場/量産重視)」と、新興「セカンド製鉄(1工場/品質重視)」の2社が競争中。


経緯: セカンド製鉄は、前社長ハノルが労働搾取で追放(2章第11話)された後、モネの暫定管理を経て、現在は現場叩き上げの新社長ゲイルが再建。


現状: 両社ともにルイから古代技術の供与を受け、バールの産業革命を牽引する両輪となっている。

 「セカンド製鉄」の巨大な鉄扉が開くと、そこは熱と轟音の支配する世界だった。

 ゴオオオオオオオオッ!!

 肌を焦がすような熱気。  だが、かつての乱雑で危険な職場とは違う。そこには、計算された「リズム」があった。

「……壮観だな」

 俺は思わず息を飲んだ。  工場の中心には、以前俺が渡した『古代文明のスクロール』を解析して作らせた、高さ10メートルを超える「高炉ブラスト・ファーネス」が鎮座している。

 従来の「たたら製鉄」のような原始的なものではない。  上部から鉄鉱石と、ゴードの技術で焼き固めた「コークス」、そして不純物を取り除く「石灰石」を投入し、下から熱風を送り込み続けることで、24時間止まることなく鉄を溶かし続けるシステムだ。

 ドロドロに溶けた鉄(銑鉄)が、まるで溶岩の川のようにといを流れ、次々と型に流し込まれていく。  その光景は、まさに産業革命の夜明けだった。

「ようこそ、ルイ様!」

 新社長のゲイルが駆け寄ってきた。現場叩き上げの、煤けた顔をした実直そうな男だ。

「見てください。3交代制(8時間シフト)を導入してから、炉の火を落とす必要がなくなり、生産量は以前の5倍に跳ね上がりました!」

「ああ、素晴らしい効率だ」

 俺は頷き、周囲を見渡した。  労働者たちは全員、革製のエプロンと保護メガネ、厚手の手袋を着用している。  通路には「安全第一」のスローガンが掲げられ、緑色の腕章をつけた「安全管理委員」が巡回し、危険な作業がないか目を光らせている。

(……ミカが作った「安全衛生課」の遺産が、ここで生きている)

 かつて彼女が願った「誰もが安全に働ける場所」が、ここにある。

          ◇

 奥の加工エリアへ進むと、さらに驚くべき光景があった。  武器の製造ラインだ。

 ズドンッ! ズドンッ!

 蒸気機関で動く巨大な*「蒸気ハンマー」が、赤熱した鉄塊を餅のように打ち据えている。  人の手でカンカンと叩くのではない。圧倒的な質量の暴力で、一瞬にして鉄を延ばし、型抜きしていく。

 剣の刀身、矢尻、槍の穂先。  規格化された武器が、ベルトコンベアのように次々と完成していく。

「……これなら、サラの言う2000人の軍隊もすぐに武装できるな」

 俺は感心しつつも、コンサルタントとしての目を光らせた。  全体的には順調だ。だが、細部にはまだ「澱み」がある。

 俺は【国家盤面】の生産ログと、実際の作業員の動きを照らし合わせた。

「……ゲイル社長。あそこの冷却工程、ボトルネックになっているな」

 俺は指差した。  成形された剣が、冷却水槽の前で山積みになり、作業員の手が止まっている。

「えっ? ああ、確かにあそこだけ溜まっていますが……」

「加工スピードに冷却が追いついていない。  水槽をあと2つ増やせ。それと、あそこで検品しているスタッフを、梱包ラインへ回せ。検品は冷却後に行う方が、不良品の発見率が上がるし、火傷のリスクも減る」

「な、なるほど……! 盲点でした!」

「それと、素材の搬入ルートだ。右から入って左へ流れているが、一度中央で交差しているせいで、運搬人同士がぶつかりそうになっている。  床にラインを引いて、動線を一方通行に整理しろ。それだけで移動時間が15%は短縮できる」

 俺の指摘に、ゲイル社長は必死にメモを取っている。  データに基づいた改善カイゼン。  これこそが俺の真骨頂だ。

          ◇

 視察の最後、休憩所で労働者たちと言葉を交わした。  皆、表情は明るい。給料が上がり、生活が安定したからだ。

「ルイ様のおかげで、肉が食えるようになりました!」 「前の社長の時とは大違いだ!」

 だが、話を聞いているうちに、気になる言葉が耳に入った。

「……でもなぁ、最近ちょっと困ってんだよ」 「ああ。小銭が役に立たねぇんだ」

「どういうことだ?」

 俺が尋ねると、古株の職人が渋い顔で答えた。

「いやね、給料は増えたんですが……街の物の値段が上がりすぎてて。  最近、外から来た商人が増えたでしょう? 奴ら、バールの人間は金を持ってるって知ってるから、ふっかけやがるんです」

「パン一つ買うのに、以前の倍の銅貨が必要になりやした。  それに、外から入ってくる珍しい商品は『金貨』や『大銀貨』じゃないと売らねぇって言われる始末で……」

「……なるほど」

 俺は眉をひそめた。  インフレーションだ。  バールの経済が急成長し、労働者の賃金が上がったことで、需要が供給を上回っている。  そこに目をつけた外部の商人が、価格を吊り上げているのだ。

 さらに問題なのは「通貨供給量」のバランスだ。  バールで流通しているのは主に銅貨や小銀貨だが、高額な取引が増えたことで、決済手段が追いついていない。  結果、生活必需品の物価だけが上がり、せっかくの賃上げ効果が相殺されつつある。

(……急速な発展の副作用か。  金はあるのに、物が買えない。あるいは、外部に富が吸い上げられている状態だ)

 これは放置すれば、市民の不満に繋がる。  賃金を上げるだけでは解決しない。通貨政策と、流通のコントロールが必要だ。

「……分かった。対策を考える」

 俺は職人たちの肩を叩き、工場を後にした。

 馬車に戻った俺は、すぐに次の目的地を決めた。  この問題を解決できるのは、あの「元・大商人」しかいない。

「……屋敷へ戻る。モネに緊急の相談だ」

 鉄の生産は成功した。  だが、経済という生き物は、鉄よりも遥かに扱いが難しい。


お読みいただきありがとうございます!

古代技術と近代管理手法の融合により、バールの工業力は爆発的に向上しました。 蒸気ハンマーによる武器の大量生産。これで軍拡の物質的な準備は整いました。

しかし、光が強ければ影も濃くなる。 急激な経済成長が引き起こした「インフレ」と「通貨問題」。 現代でも頭の痛いこの問題に、ルイはどう立ち向かうのか?

次回、経済の天才モネと共に、バール独自の「金融政策」を打ち出します。 銀行の設立、そして独自通貨の発行へ……?

「工場萌え!」「インフレ問題まで扱うとは本格的」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

▼次回予告 第2章 第22話『黄金の天秤と、紙の紙幣』 「……ルイ。このままじゃバールの富は全部外に逃げるわよ」 モネの警告。 インフレを抑え、富を還流させるための秘策。 それは、この世界初となる「中央銀行」の設立と、信用創造への挑戦だった。

次回も【本日19時】に更新します!


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