表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/65

第18話:帳簿に隠された軍靴の音――死神領主、サクレアのスパイを暴く

 屋敷の地下牢。  湿った空気とカビの匂いが充満する空間で、俺は鉄格子の向こうにいる男と対峙していた。  元・外交法務局長、バロン。  拘束衣を着せられた彼は、やつれてはいたが、その瞳にはまだ狂信的な光が宿っていた。

「……なぁ、バロン。何でやったんだよ」

 俺は静かに問いかけた。

「お前は優秀な官僚だった。バールの発展にも貢献していたはずだ。……なぜ、俺を殺そうとした?」

「……フン」

 バロンは鼻を鳴らし、蔑むような目で俺を見た。

「ウィリアム殿下の考える『理想の国』に、お前のような異物は不要だからだ」

「はぁ? 国全体が強くならなきゃ意味がないだろ。地方が力をつければ、国全体の底上げになる」

「それが間違いだと言うんだ! 地方が強くなってどうする? どうせ力をつければ、王座を狙って牙を剥く」

「俺は追放された身だ。王座になんか興味はない」

 嘘だ。王座はいらないが、世界一の経済都市を作る野望はある。だが、それは彼にとっては同じ「脅威」だろう。

「そんな言葉、信じられるか!」

 バロンが鉄格子を掴んで叫んだ。

「お前は……お前は、世の秩序を壊しているんだ!  本来なら、才能ある高貴な魔術師や騎士しか持てない『力』を、お前の技術は誰にでも与えてしまう!  誰でも使える強力な武器、魔法を使わない移動手段、明るすぎるランプ……。  そんなものが普及すれば、貴族の権威はどうなる? 平民がつけあがるだけだ!」

「……それが理由か」

 技術の民主化。それが特権階級である彼らにとっての恐怖なのだ。

「お前のせいで、美しき伝統とウィリアム様の理想は汚された。……だから私はやったんだ」

「馬鹿だな。もっといいやり方があっただろ」

「ふふん、凡人には分かるまいよ」

 俺はため息をついた。会話は平行線だ。

「……で、これは全て第一王子ウィリアムの指示か?」

「いいえ。私が独断でやったことです」

「嘘をつけ。資金はどうした? 暗殺ギルドを雇う金だ」

「昔の仕事からの貯金がありましてね」

 白々しい。  リリーの証言と金の流れから、サクレア貴族がスポンサーであることは明白だ。だが、彼は頑として口を割らない。  これ以上聞いても無駄か。彼は完璧な「答え」を用意して、主君と共犯者を守るつもりだ。

「……そうか。なら、そこで朽ち果てろ」

 俺は踵を返した。  背後でバロンが何か叫んでいたが、もう振り返らなかった。

          ◇

 執務室に戻ると、モネがコーヒーを淹れて待っていた。

「お疲れさん。……吐かなかった?」

「ああ。忠犬だよ、あいつは」

 俺はソファに沈み込んだ。  脳裏に浮かぶのは、リリーの泣き顔だ。

「……なぁモネ。リリーへの尋問、あれでよかったのか。病気の父親をダシにして……俺は、あいつらと同じ穴のむじなかもしれない」

「……仕方ないことよ」

 モネはカップを俺の前に置いた。

「私は長く生きて、いろんな指導者を見てきたわ。綺麗な手だけで国を守れた奴なんていない。  ……あんたは、多くの民を守るために、少数の非情を選んだ。それは『罪』じゃなくて『責任』よ」

「……厳しいな、エルフの知恵は」

「伊達に歳は食ってないわよ」

 モネはふっと笑い、表情を引き締めた。

「さて、感傷はここまで。……仕事の話よ」

 彼女は一枚の報告書を広げた。

「リリーが借金返済に使っていた金貨、あれはサクレアのものだったわね。  それで気になって、サクレアのここ数ヶ月の財政報告書(公開分)を洗い直してみたの」

「どうだった?」

「……怪しいわ」

 モネが眉をひそめた。

「前回の視察以降、サクレアは植民地支配のような構造で、サトウキビとゴムで莫大な利益を上げているはずよ。  税収報告書も、確かに『過去最高益』を記録している。  ……だけど、支出のバランスがおかしいの」

 彼女は指でグラフをなぞった。

「『軍事費』の項目が、ずっと低い値で横ばいなのよ。利益が増えているのに、警備強化もしていない。  その代わり……『公共事業費』と『資材購入費』が異常に膨れ上がっている」

「……公共事業、だと?」

「ええ。それと、取引記録。バールからの『鉄』の輸入量が急増している。それに、第3区からも皮革や保存食を大量に買い付けている形跡があるわ」

 俺の中で、警鐘が鳴り響いた。  コンサルタントの直感が告げる。これは典型的な「粉飾」だ。  軍事費を隠すために、他の項目に計上している。

「……鉄を買い占め、食料を備蓄し、帳簿上は軍事費を隠す。  これは……」

「……軍を作っているわね。それも、大規模なやつを」

「ああ。バロンを使った暗殺は、ただの時間稼ぎか、前哨戦に過ぎなかったのかもしれない」

 俺は拳を握りしめた。  南からの風が、火薬の匂いを運び始めていた。

          ◇

 その足で、俺はサラの私室に向かった。  彼女はまだ療養中だが、入院を拒否して自室に戻っていた。

 部屋に入ると、そこは乙女の部屋とは程遠かった。  壁には様々な種類の剣や槍が飾られ、机の上には戦術書が山積みになっている。

「……よう。体調はどうだ?」

「ルイ? 平気よ、もう走れるわ」

 ベッドの上で上半身を起こしたサラは、包帯姿だが元気そうだった。  俺は椅子を引き寄せ、単刀直入に切り出した。

「サラ。軍を拡張するぞ」

「……あら。話が早いわね」

「現在500名の予備兵を、2000名まで増員したい」

「2000……。本気ね」

 サラの目が鋭くなった。

「理由は?」

「サクレアだ。奴らは軍備を増強している。  防衛だけじゃ足りない。いざとなれば、こちらから打って出られる『遠征能力』が必要だ。  サクレアだけに攻撃されるとも限らない。同時に二箇所で戦線が維持できる規模……それが2000だ」

 俺の計算を聞き、サラは少し考え込んでから頷いた。

「……悪くない見積もりね。でも、ただ数を増やすだけじゃ烏合の衆よ。  編成をいじらせて」

 彼女は羊皮紙にさらさらとペンを走らせた。

「500は重装歩兵による『防衛部隊』。  1000は機動力重視の『遊撃部隊』。  残りの500は……魔術師と、ルイが作っている『新しい兵器』のための特殊部隊にするわ」

「新しい兵器……銃や大砲のことか」

「ええ。まだ試作段階でしょうけど、いずれ必要になる。  それに、馬の部隊も増やさないと。補給線が命綱よ」

「……できるか?」

「できるわよ。私を誰だと思ってるの?」

 サラは不敵に笑った。

「ただし、急いでね。工場の武器生産ラインもフル稼働させて。  ……王宮からは文句を言われるでしょうけど」

「ああ。だが、向こうも強くは言えないはずだ」

「バロンの一件ね?」

「そうだ。王宮の人間バロンが不祥事を起こしたんだ。こちらの『自衛のための軍拡』にケチをつければ、バロンの背後関係を追及すると脅せばいい」

 政治的なカードは揃った。  あとは、実行あるのみだ。

「頼りになるよ、サラ。……怪我をしているのに、ごめんな」

「気にしないでよ。私、こういうヒリヒリする準備、嫌いじゃないしね」

 サラは悪戯っぽく微笑み、手を出した。

「その代わり……ちょっと給与は増やしてよね?」

「ははっ、死にかけてるしな。『危険手当』は弾んどくよ」

「あはは! 死にかけたって、そんな手当じゃあ足りないわ!」

 二人で笑い合った。  だが、その笑いの裏で、俺たちは互いに理解していた。  次に来るのは、暗殺者のような「点」の暴力ではない。  国と国、軍と軍がぶつかり合う「面」の暴力——戦争が近づいていることを。


お読みいただきありがとうございます!

バロンの動機、それは「技術革新による特権階級の崩壊」への恐怖でした。 いつの時代も、既得権益を持つ者は変化を恐れるものです。 そしてモネの分析により判明した、サクレアの軍事増強。 ルイとサラも対抗して軍拡へ舵を切ります。

内政チートから、いよいよ本格的な「国家運営・軍事シミュレーション」の様相を呈してきました。 しかし、その前に一つだけ片付けなければならない問題があります。 そう、「30日の約束」——大気汚染問題です。

次回、ゴードの研究所がついに火を噴きます(比喩ではなく)。

「軍拡会議、ワクワクする!」「バロンの言い分も一理あるのがリアル」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

▼次回予告 第2章 第18話『

次回も【明日19時】に更新します!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ