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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第17話:裏切りの値段と、カナリアの罠 ――潔白すぎる帳簿、そして倫理の境界線

 これは、あの橋の上での襲撃事件が起きる、数日前の出来事だ。

 サラが重傷を負い、俺の中で冷たい怒りが燃え上がっていた夜。  俺は執務室にモネとマティアスを呼び出し、極秘の「監査」を開始した。

 狙いは、暗殺者を手引きした「裏切り者」の特定だ。

「……バールにはまだ銀行はない。だが、金は必ずどこかを通る」

 俺はテーブルに山積みになった膨大な帳簿を指差した。  商業ギルドの『為替記録』、街の『金貸し』の顧客リスト、そして高額納税者の申告書。  これらを突き合わせれば、見えない金の流れ(マネー・フロー)が見えてくるはずだ。

「モネ。商業ギルドでの『他国通貨』の両替記録を洗え。特にサクレア方面の通貨だ」 「マティアス。役人の給与と、実際の生活水準(支出)の乖離をリストアップしろ」

 数時間に及ぶ精査。  しかし、捜査は難航した。

「……ルイ。バロンの記録だけど、綺麗すぎるわ」

 モネが溜息交じりに報告書を投げ出した。

「借金なし、豪遊もなし。給与の使い道もすべて『王都への手土産』や『通信費』として記録されていて、領収書まで完璧に揃ってる。  ……まるで、監査が入ることを見越して生活しているみたいに潔白よ」

「……逆に怪しいな」

 俺は眉をひそめた。  人間、少しは脇が甘いものだ。これほど完璧な帳簿は、裏を返せば「見られて困るものがある」証拠とも取れる。

 それに、行動履歴にも違和感がある。  王宮への出張が月1回。地方局長にしては多すぎる。  そして何より、休日の取り方が変だ。不定期だが、必ず「王都の重要行事」や「サクレア貴族の動き」と連動しているように見える。

 だが、それだけでは「黒」とは断定できない。

「……消去法でいくぞ」

 俺はホワイトボードに相関図を書いた。

「あの視察ルートを知っていたのは、俺とマティアス、そして各局長と、その側近のみだ」

 まず、身内を消していく。  サラ、サーシャ、モネ、ヴェスタ。彼らは俺の改革に命を賭けている。裏切るメリットがない。  マティアスも、先代からの忠臣であり、彼がいなければ今のバールはない。

 残る「変数」は一つ。  バロン。

「……そういえば」

 俺の脳裏に、いくつかの記憶がフラッシュバックした。

 ――バロンは、工場の建設や鉄道計画に、常に「王宮の意向」を理由に反対していた。  ――今回の暗殺未遂の時、彼は都合よく「出張中」で不在だった(完璧なアリバイ)。  ――そして、執務室の位置。彼の部屋は、マティアスの部屋のすぐ隣だ。

 さらに、過去の記憶が蘇る。  初めてヴァルザークへ向かった時、古代遺跡の床が抜けて死にかけたあの事故。  あの時、視察を強く勧めたのは誰だった?

「……バロンか」

 点と線が繋がる。  だが、まだ「状況証拠」だけだ。決定的な「物証」がない。

「……ルイ。これを見て」

 その時、モネが一枚の羊皮紙を指で弾いた。  それは、法務局に勤める地味な若手事務官、リリーの個人データだった。

「彼女の給与は月・銀貨2枚。なのに先月、父親の病気の治療費として、街の金貸しに金貨3枚を一括返済しているわ」

「……バロンの部下か。尻尾を出したのは、部下の方だったか」

 俺は頷いた。  バロンは潔白を装い、汚れ仕事と金の受け渡しを全て部下リリーにやらせていたのだ。

          ◇

 その日の深夜。地下の尋問室。  サーシャによって連行されたリリーは、椅子に縛られ、震えていた。

「……私は何も知りません。ただ、父の遺産が入っただけで……」

 彼女は頑なに口を閉ざした。  恐怖に支配されている。ここで喋れば殺されると信じ込んでいるのだ。

「……口が堅いですね」

 俺の隣で、サーシャが冷ややかに言い放つ。  彼女の目には、まだ俺とサラを傷つけられた怒りが燃えている。

「ルイ様。拷問の許可を。  爪を剥げば、3分で全て話すでしょう」

「……ッ!?」

 リリーが悲鳴を上げて身を縮こまらせる。  俺は息を飲んだ。

「……だめだ、サーシャ。それはできない」

 俺の中の現代の倫理観が叫ぶ。  彼女もまた、利用された被害者かもしれない。それを拷問にかけるなど、一線を越えている。

「ですがルイ様! 甘いことを言っている場合ではありません!  サラは死にかけたのです! 次はお前が狙われるかもしれないんですよ!?」

 サーシャが珍しく声を荒げた。  彼女の献身ゆえの焦り。それも痛いほど分かる。  効率を考えれば、拷問が一番早い。  だが、それを認めてしまえば、俺は前世の俺やブラック企業の経営者たちと同じ——いや、それ以下になる。

 迷う俺に、マティアスが静かに近づいた。  そして、耳元で囁いた。

「……ルイ様。暴力は使いません。ですが、『精神的な揺さぶり』は必要かと」

 マティアスは一枚の書類を俺に渡した。  そこには、リリーの父親が入院している病院のカルテがあった。

「……彼女の父親は、バールの病院で治療を受けています。  もし、彼女が『国家反逆罪』に問われれば……その家族への支援も打ち切らざるを得ません」

「……それを、材料にしろと言うのか」

 俺は顔をしかめた。  病気の父親を人質に取る。拷問とは違うベクトルで、卑劣なやり方だ。  倫理的ではない。

「……嫌な役回りですね」

 俺は自嘲した。  だが、ここで止まれば、次は誰かが死ぬ。  俺は領主だ。泥をかぶってでも、守るべきものを守らなければならない。

「……分かった。やろう」

 俺は覚悟を決め、リリーに向き直った。

「リリー。君を拷問するつもりはない」

 俺は静かに告げた。

「だが、君が沈黙を貫くなら、私は君を『敵』と見なす。  敵の家族に、バールの医療を提供する義理はない。  ……君の父親は、明日退院してもらうことになる」

「……っ! そ、そんな……! 父さんは今、治療を受けないと死んでしまう!」

「なら、話せ」

 俺は心を鬼にして、彼女を見下ろした。  効率と倫理の狭間で、俺は効率(大義)を選んだ。

「君が知っている『真実』を話せば、私が責任を持って君と父親を保護する。  ……バロンの脅しよりも、私の約束の方が確実だぞ」

 リリーは泣き崩れた。  そして、途切れ途切れに語り始めた。

「……バロン様です。  バロン様が、『国のための崇高な任務だ』と……。  私は、サクレアからの資金を受け取り、暗殺ギルドへの手付金を運びました。  マティアス様の部屋からルートの書類を盗んだのも……私です……」

 すべてが繋がった。  俺は深く息を吐き、天井を仰いだ。  ……後味は悪い。だが、これで本丸に届く。

「……マティアス。リリーと父親を保護しろ。絶対にバロンの手の届かない場所へ」

「御意」

 だが、まだこれだけでは「証言」に過ぎない。  バロンほどの男なら、「部下が勝手にやった」と言い逃れするだろう。  決定的な、言い逃れのできない「現行犯」の証拠が必要だ。

「……トラップを仕掛ける」

 俺はマティアスとサーシャに告げた。

「明日の視察、俺はわざと危険な場所へ行く」

「なっ、また囮になるおつもりですか!?」

「いいや、今度は完璧な布陣で行く。  そして……『カナリアの罠』を使う」

「カナリア……?」

「情報の出どころを特定する手法だ」

 俺は指を3本立てた。

「マティアス、3通りの『偽の視察ルート』を作れ。  局長数人には『北ルート』。  一部の近隣部下には『南ルート』。  そしてバロンには……あえて襲撃しやすい『倉庫街の運河ルート』を伝えるんだ」

 もし、明日の襲撃が「運河」で起きれば、情報を漏らしたのはバロン以外にあり得ない。  それは、いかなる言い訳も封じる、数学的な証明となる。

「……なるほど。誰が歌う(リークする)か、試すわけですね」

 マティアスが感心したように頷いた。

「バロンは慎重だが、焦っている。  『前回失敗した』という事実と、『警備が厳重になる前にもう一度』という心理が、彼を必ず動かす」

 俺は暗い尋問室で、冷たく笑った。

「舞台は整える。  あとは、彼が自分の首を絞めるロープを掴むのを待つだけだ」




お読みいただきありがとうございます!

これにて解決編の裏側が補完されました。 ルイが領主として、綺麗事だけでは済まされない「大人の判断」を下した回でもあります。 病気の父親を交渉材料にする……現代の彼なら躊躇したでしょうが、背負うものが増えた彼には、もう退路はありません。


「そういうことだったのか!」「ルイの覚悟が見えた」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

▼次回予告 第2章 第17話

次回も【明日19時】に更新します!



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