第14話:メイドの仮面が剥がれる時
その時、私は屋敷の一室で、退屈な面接を行っていた。
「ええと、志望動機は……安定しているからです」 「……そうですか。次は?」
新設予定の「安全健康課」の局長候補。 何人面接しても、ルイ様の眼鏡に叶いそうな人材はいない。 ため息をつきかけた、その時だった。
ドガァァァァァァァァァンッ!!
空気が震えた。 窓ガラスがビリビリと音を立てるほどの衝撃波。 私の心臓が、早鐘を打った。
方角は、倉庫街。 この時間、ルイ様が視察に向かっているルートだ。
「……嘘」
面接官用のペンが、私の手の中でへし折れた。 思考するより先に、私は窓枠を蹴り飛ばして飛び出していた。
嫌な予感がする。 心臓が凍りつくような、最悪の予感。 お願い、ご無事で。ルイ様、ルイ様、ルイ様……!
◇
現場の惨状は、地獄だった。 燃え盛る馬車。血の匂い。 そして——
黒焦げになって倒れているサラ様と、血を吐きながら彼女を背負うルイ様の姿を見た瞬間、私の視界が真っ赤に染まった。
病院への搬送中、私は震えが止まらなかった。 恐怖ではない。 自分の不甲斐なさと、犯人への憎悪で、内臓が煮えくり返りそうだったからだ。
処置室でサラ様が生還し、ルイ様の無事が確認された時、安堵と共に私の中で「何か」が切れた。
(……許さない)
ベッドで眠るルイ様の寝顔を見ながら、私は誓った。
(私の主を傷つけ、私の友を焼き殺そうとした。……ただの「死」では生温い。魂まで後悔させてやる)
私はルイ様の警護を最強の布陣で固めた後、静かに病室を出た。 行き先は、屋敷ではない。 まだ熱気が残る、倉庫街の現場だ。
◇
夜の倉庫街。 人気のない路地裏に戻ると、異変に気づいた。
「……ない」
ルイ様たちが倒したはずの、暗殺者たちの死体がない。 爆発の跡や血痕はそのままなのに、死体だけが綺麗に片付けられている。 証拠隠滅だ。
ふと、頭上を見上げる。 遥か先、建物の屋根を飛び移っていく影が見えた。 数は十人ほど。 彼らの背には、回収された死体が担がれている。
「……見つけた」
私の唇が、三日月形に歪んだ。 逃がすわけがない。 地の果てまで追いかけて、引きずり戻してやる。
ダンッ!!
私は石畳を強く踏み込んだ。 加減などしない。 衝撃で地面がクレーターのように陥没し、周囲の瓦礫が弾け飛ぶ。
音速に近い踏み込み。 風圧がドレスの裾を鞭のようにしならせる。
ヒュンッ! 一瞬で距離を詰める。 屋根の上を走る集団の背後、真上の空中に、私は音もなく躍り出た。
「……ッ!?」
最後尾の男が気配に気づき、振り返る。 だが、遅い。
私は空中で体を独楽のように回転させた。 武器などいらない。 私の体、私の魔力、その全てが凶器だ。
「……【風刃円舞】」
遠心力で圧縮された風の刃が、360度全方位へ解き放たれる。 カマイタチなどという可愛いものではない。 鉄骨すら切断する、見えざる断頭台。
ザンッ!!
悲鳴すら上がらなかった。 十人のうち、後ろを走っていた九人の胴体が、上下に泣き別れた。 鮮血の花火が夜空に咲く。 バラバラになった肉片と、彼らが担いでいた死体が、ボトボトと地面に落ちていく。
残ったのは、先頭を走っていた一人だけ。 明らかにリーダー格の男だ。
彼は仲間の死に驚愕し、即座に懐から短剣を抜いて襲いかかってきた。 その動き、人間ではない。 鱗に覆われた肌。縦に割れた瞳。
「……竜人か」
珍しい種族だ。身体能力は人間の数倍。 だが——
私は突き出された短剣を素手で掴んだ。 刃など握り潰せばいい。
「なっ、貴様……!何者だ」
男が驚愕する隙に、私は彼の右腕を掴み、逆方向へねじり上げた。
バキボキッ!!
湿った骨の砕ける音が響く。
「グアアアアアッ!!」
男が絶叫して膝をつく。 私はその髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。
「……答えなさい」
私は冷たく見下ろした。 殺気など出さない。ただ、事実として告げる。
「誰の命令でやった? ルイ様を狙ったのはどこのどいつだ?」
「は、話すか……! 我々は……!」
「そう。じゃあ、屋敷でたっぷりと聞かせてもらうわ」
私は男の顎に掌底を叩き込んだ。
ガゴッ。 脳を揺らし、意識を強制的に刈り取る。 男は白目を剥いて崩れ落ちた。
「……ゴミ掃除は後ね」
私は気絶した竜人を軽々と担ぎ上げた。 眼下には、九つの死骸。 それは、私の大切な居場所を壊そうとした愚か者たちの末路だ。
「……ルイ様を害する者は、神だろうと殺す」
私は夜風に髪をなびかせ、屋敷への帰路についた。
その背中には、冷たい月の光だけが注いでいた。
お読みいただきありがとうございます!
【サーシャ視点】の書き下ろしでした。 普段の献身的なメイド姿からは想像できない、彼女の「本性」が出た回です。 「風魔法で9人を瞬殺」「竜人の腕を素手でへし折る」。 彼女もまた、ルイの配下として規格外の強さを持っています。
捕らえた竜人は、マティアスの「容疑者リスト」にはない種族。 事件はさらに混迷を極めます。
次回、本編に戻り、ルイによる尋問と復讐が始まります。
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次回はついに犯人を突き止める!!是非お楽しみに!!




