表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/66

第10話:エルフの憂鬱、黒い煙の代償

2章もどんどん進んでいきます!次の1話を逃さないよう、ぜひブックマークを!

 鉄道の開通から、3ヶ月が経過した。


 季節は巡り、バールには本格的な産業の風が吹いていた。  バール中央駅から南へ伸びたレールは、順調に延伸を続け、隣都市ヴァルザークまであと一歩のところまで迫っている。


 工場地帯も様変わりした。  かつては試験運用だけだった製鉄所も、今では3つの工場がフル稼働している。  遺跡の技術を応用した「鉄のリサイクル」と、第3区南部から輸入した鉄鉱石を使った「加工貿易」。  これらが軌道に乗り、バール産の鋼鉄は周辺都市へ飛ぶように売れていた。

 その急成長を支えているのが、意外な後ろ盾だった。


「……第二王子マイル様からの『製鉄事業許可証』ですか」


 執務室で、マティアスが渋い顔で一枚の羊皮紙を見ていた。

「ええ。先日、あのギャランティスから送られてきた。……まさか、向こうから許可を出してくるとはな」

 俺は苦笑した。  敵対していると思っていた王都側からの、突然の雪解け。  だが、その裏事情は複雑だ。

「マイル王子も、追い詰められているんでしょうな」

 マティアスが低い声で言った。

「現在、王位継承争いは第一王子ウィリアム様が優勢です。彼はアグレッシブな帝国主義者で、周辺国への侵攻も辞さない武闘派。目指すのは強力な『中央集権国家』です」

「地方貴族から権力を奪い、王に集中させる……か。貴族たちが嫌うわけだ」

「はい。対して第二王子マイル様は『現状維持』を掲げ、地方分権を容認しているため、地方貴族の支持層は厚い。  ですが、ウィリアム様の軍事力とカリスマには押され気味です」

「だから、バール(俺)の手を取りたい、か」

 俺は許可証を机に放った。  二人とも、かつて俺を「無能」と罵り、この辺境へ追放したクソ野郎どもだ。  今さら媚びを売ってくるとは笑わせる。

「……まあ、いいでしょう。マイル様の後ろ盾があれば、表立って軍を差し向けられることはない。毒も喰らう、栄養も喰らう。それが今のバールです」

 綱渡りの平和だ。  だが、この猶予期間に力を蓄えるしかない。


          ◇


 マティアスが退室した後、入れ替わりで経済局長のモネが入ってきた。  今期の決算報告だ。

「……ふう。今月も黒字ね。サクレアからの砂糖収入も安定しているし、製鉄の利益も上乗せされているわ」

 モネは羊皮紙を束ね、椅子に深く背を預けた。  珍しく、少し疲れているように見えた。

「お疲れ様、モネ。……コーヒー飲むか?」

「もらうわ。ブラックでね」

 俺は棚から豆を取り出した。  南の第3都市サクレアから試験的に取り寄せた、希少なコーヒー豆だ。まだ高級品だが、これからバールの喫茶店で流行らせようと思っている。

 二人分のコーヒーを淹れ、香ばしい香りが漂う中、俺たちはソファに座った。

「そういえば、モネは昔、どこで商人をやっていたんだ?」

 ふと気になって聞いてみた。  彼女の手腕は人間離れしている。文字通り、彼女は長命種のエルフだ。

「……昔は、エルフの国で商会を持っていたのよ」

 モネは湯気の立つカップを見つめながら、遠い目をした。

「でもね、あそこは商売には向かないわ。伝統、伝統ってうるさくてね。  『金儲けは卑しい』とか、『森の恵みを金に変えるとは何事か』って、白い目で見られるのよ」

「なるほど。閉鎖的なんだな」

「ええ。彼らは変化を嫌うし、外の世界にも行きたがらない。……刺激がなさすぎて、私は飛び出したの」

 モネは自嘲気味に笑った。

「それで人間の国に来たんだけど……こっちはこっちで、別の問題があったわ」

「寿命、か?」

「ええ。せっかく信頼関係を築いて、太いパイプを作っても……数十年もすれば、相手は老いて死んでしまう。  やっと阿吽の呼吸で取引できるようになったと思ったら、もう葬式よ。その繰り返しには、もう飽き飽きなの」

 彼女の声には、数百年分の倦怠感が滲んでいた。  積み上げても、積み上げても、パートナーが先に消えていく虚無感。

「だから、あんたの話に乗ったのよ」

 モネが俺を見た。

「ルイ、あんたの作る『システム』は面白いわ。  『国家盤面ステータス』による数値化、持続可能な経済圏、そして法整備。  これなら、人が死んでもシステムは残る。……私が求めていた『刺激』と、永遠に続く『遺産』が作れるかもしれないってね」

「……そうか」

 俺は少し嬉しくなった。  彼女はただの金儲けじゃなく、俺の作る未来に賭けてくれているのだ。

「期待してくれ。俺の知識と、お前の頭脳があれば、世界を変えるシステムが作れる」

「……ふふっ。そうね、あんたとなら退屈しなさそう——」

 モネが少しだけ表情を緩めた、その時だった。

 バンッ!!

 執務室のドアが乱暴に開かれた。  飛び込んできたのは、息を切らせた伝令の兵士だ。

「た、大変ですルイ様!!」

「どうした、騒々しい」

 俺は立ち上がった。  ただ事ではない。

「こ、工場区でトラブルです!  民間の『セカンド製鉄』の労働者たちが、一斉に作業をボイコットしました!」

「なんだと?」

「ストライキです!  工場の前で、『賃上げ』と『労働時間の短縮』……それに!」

「『大気汚染反対』を訴えて、暴動寸前になっています!!」

「……ッ!」

 俺とモネは顔を見合わせた。  大気汚染。  そこまで影響が出ていたとは思っていなかった。

「……バール製鉄ではなく、セカンド製鉄か」

 急速な発展の歪み。  鉄道開通式の時に見た、「小さな火種」が、ついに爆発したのだ。  しかも、俺が最も恐れていた「公害」という名目で。

「……行くぞ、モネ!」

「ええ。計算が狂ったわね。……修正しなきゃ」

 俺たちは部屋を飛び出した。  窓の外、南の空には、いつもの黒煙が立ち上っていた。  だが今日はその煙が、まるでドクロのように不吉な影を落としていた。


お読みいただきありがとうございます!


第二王子マイルからの許可証。これで王都からの直接攻撃は避けられそうですが、それは政争の道具に使われているだけ。 そして語られたモネの動機。 「人間の寿命に飽き飽きしたエルフ」が求めたのは、不変のシステムという刺激でした。

しかし、そんな理想をあざ笑うかのように起きた「ストライキ」。 賃上げだけならまだしも、掲げられたのは「大気汚染反対」。 かつて前世の19,20世紀で多くの人が死亡した公害問題が、ついにルイの前に立ちはだかります。

次回、ルイは経営者として、領主として、そしてミカの遺志を継ぐ者として、この暴動をどう鎮めるのか?

「政治背景が見えてきた!」「公害問題……どうするルイ!?」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!


▼次回予告 第2章 第11話『交渉のテーブル、怒りの拳』

次回も【明日19時】に更新します!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ