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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第8話:鉄の増産と、揺れるメイド心。――「視察」という名のデート?

 バールへの帰還。  城門をくぐると、そこにはいつもの煤煙と、肌を震わせるような都市の鼓動ノイズが待っていた。

「おかえりなさい、ルイ様!」 「おーい! ヴァルザークの改革、噂になってるぞ!」

 労働者たちが手を振り、口々に叫んでいる。  活気がある。石炭の匂いと、甘い砂糖の香りが混じった、この街特有の空気。  俺は深く息を吸い込み、背嚢リュックを握りしめた。  ここには、バールの未来を変える「製鉄炉の設計図」と「魔導コア」が入っている。

 俺はそのまま、技術開発局の工房へと向かった。


          ◇


 工房の扉を開けた瞬間、熱気とオイルの匂いが鼻をついた。  中には、図面の山に埋もれた小柄なドワーフ、技術局長のゴードがいた。  目の下に隈を作り、自慢の髭はボサボサだ。

「おい、ゴード。新しい研究材料だぞ! すごいもん拾ってきた!」

 俺が設計図を掲げた、その瞬間。

 ヒュンッ!

 巨大なハンマーが俺の顔の横を通過し、壁に突き刺さった。

「……あ?」

「……帰れ」

 ゴードが血走った目で睨んできた。

「俺はなぁ! お前の無茶振りで、蒸気機関から機関車の試作まで、不眠不休で仕上げたんだぞ! これ以上、新しい仕事を持ってくるなぁっ!!」

「い、いや、お前こういう新しい技術好きだろ?」

「好きだが限度があるわ! 流石のワシも歳だ! ……ワシは、休暇に出る!」

「は?」

「探さないでくれ!」

 ゴードは窓ガラスを突き破り、そのまま脱走した。

「……おいマジか」

 残された俺は、突き刺さったハンマーを見つめた。  ……これは問題だ。ゴードは天才だが、今の彼にこれ以上の負担はかけられない。

 そうだとしても領主の俺にハンマー投げるとはな。。。戻ってきたら追加の仕事で責任とってもらおう。

 それにしても部下にがんばらせすぎているのだろうか?最近法務局長のバロンも見かけなかったり、話できていないし、屋敷のスタッフの雰囲気も少し悪い。今後改善していかないとだな。

「……仕方ない。プランBだ」

 俺は執務室に戻り、二人の男を呼び出した。  この街で製鉄業を営む民間企業のトップ、ダニエルとハノルだ。

 バールでは現在、病院や食堂、職業訓練校などのインフラは行政(区)が直営しているが、ギルドや一部の製造業は民間に委託し始めている。  特に製鉄は、競争原理を働かせるためにいち早く民営化していた。もちろん、行政の監視下ではあるので、定期的にこの二人にはあったり、視察もしている。

「現状の報告を」

 俺が促すと、小太りで脂ぎった顔のダニエルが、葉巻を弄びながら前に出た。  彼は最大手『バール製鉄』の社長だ。

「へへっ、順調ですよルイ様。ウチの第一・第二工場合わせて、日産140キロ。品質は安定のCランク、たまにBランクが出ますな。モネさんのアドバイスのおかげで収益性も上がってますぜ」

「ふん、質より量の『バール製鉄』さんが何を言うか」

 食ってかかったのは、細身で神経質そうな男、ハノルだ。  新興企業『セカンド製鉄』の社長である。

「ウチは工場こそ一つですが、日産60キロで、Bランク比率はあんたの倍だ。……質なら負けてない」

「あぁ? たかだかシェア3割の弱小が吠えるねぇ」

「なんだと!?」

 バチバチと火花が散る。  二人は犬猿の仲だ。顔を合わせればすぐに喧嘩を始める。  だが、それでいい。

「二人とも、そこまでだ」

 俺はテーブルに、一枚の羊皮紙を広げた。  古代遺跡から持ち帰った、転炉と圧延機の設計図だ。

「……これは?」

「新時代の製鉄技術だ。これを導入すれば、ランクA〜S級の鋼鉄が、現在の日産の50倍は作れるようになる」

「「なっ……!?」」

 二人が絶句した。  Sランク。それはミスリルに次ぐ強度を持つ伝説級の金属だ。それを量産するなど、常識ではあり得ない。

「この技術を、お前たち両方の会社に供与する」

「……両方に、ですか?」

 ダニエルが目を細めた。

「ああ。独占はさせない。両社で競い合ってくれ。  より高品質な鉄を、より安く作った方から、行政は優先的に買い上げる」

「……へへっ、面白い。資金力のあるウチが有利に決まってる」 「やってやりますよ。技術力ならウチが上だ。……バール製鉄を潰してやる」

 二人は互いに睨み合い、そして俺に深く頭を下げて部屋を出て行った。  その背中は、商人の欲と職人の矜持で燃えていた。  これでいい。彼らの欲望が、バールを次のステージへ押し上げる。

 ただし、古代遺跡で見つけた、魔力変換コアは画期的すぎる。技術流出が特に怖い。

コアに関してはゴートが帰ってくるのを待たなければならないだろう。

          ◇

 午後。  溜まっていた決裁書類を片付けていると、執務室のドアがノックされた。

「ルイ様。……お時間よろしいでしょうか」

 入ってきたのはサーシャだ。  だが、俺は書類から目を上げ、一瞬言葉を失った。

「……なんだ、その格好は」

 いつもの機能性重視の黒いメイド服ではない。  淡いブルーのワンピースに、白いカーディガン。  亜麻色の髪は丁寧に巻かれ、小さなリボンでまとめられている。  仕事着の彼女からは想像もつかないほど、柔らかく、華やかな雰囲気だった。

「こ、これより人事関係の市内視察に向かいます。同行をお願いできますか?」

 サーシャは頬を朱に染め、俯き加減で言った。

「視察? 珍しいな、お前から誘うなんて」

「……重要な案件ですので。あ、あと、その格好は……あまり目立たないように、私服なんです!」

「なるほど。潜入調査か。流石だな」

「……はぁ(鈍感……)」

 サーシャが小さく溜息をついたのが聞こえたが、俺たちは街へと繰り出した。

          ◇

 午後の日差しが、石畳に長い影を落としている。  街は買い物客で賑わい、あちこちから笑い声が聞こえる。

 俺たちは並んで歩いた。  普段は半歩後ろを歩くサーシャが、今日は俺の隣を歩いている。  ふわりと、彼女の髪から甘い香りが漂ってきた。

「……まずは、公衆食堂です」

 サーシャが案内したのは、行政が直営する貧困層向けの食堂だ。かつてミカが提案し、サーシャが形にした場所だ。

「ここのマネージャーには、元酒場の女将をスカウトしました。荒くれ者の扱いがうまく、回転率が2割上がっています」

「病院の受付は、記憶力の良い元商人を配置しました。カルテの管理ミスが激減しています」

 サーシャは各現場を回りながら、熱心に説明してくれる。  彼女の仕事は完璧だ。人を見る目があり、適材適所で組織を回している。

「……すごいな。俺が出る幕はないよ」

「いえ! ルイ様に見ていただくことが重要なんです! 私の……仕事の成果を」

 そう言いながら、彼女の足取りはどこか軽い。  途中、なぜかパン屋で新作の菓子パンを眺めたり、服屋のショーウィンドウで足を止めたりした。

「……このリボン、可愛いですね」

「ん? ああ、似合うんじゃないか? 今つけてるやつと」

「……! ほ、本当ですか?」

 サーシャがパッと顔を輝かせる。  その笑顔を見て、俺は少しドキリとした。  こいつ、こんな顔で笑うんだな。

          ◇

 冒険者ギルドに立ち寄ると、そこにはサラの姿もあった。  彼女もたまたま、軍事関連の調整で来ていたようだ。

「あら、ルイにサーシャ。……へえ、デート?」

「視察ですっ!!」

 サーシャが即答する。サラはニヤニヤしながら「はいはい」と肩をすくめた。

「ちょうどいいわ。ルイ、ちょっと相談があるの」

 ギルド長のガントも交えて、立ち話が始まった。  話題は、急増する冒険者と依頼の管理についてだ。死亡率が低くなったことで人数が減らないことと王都や1区からの稼げない冒険者がやってきている影響らしい。ちゃんとマティアスに推定値を出してもらいたいが、肌感1.5倍くらい混んでいるな。

「西側の山に近い川沿いに、支店を作ろうかと思ってるんだが……どう思う?」

 ガントの問いに、俺の経営者スイッチが入った。

「経営視点なら問題ない。窓口を分散させれば、一度により多くの対応が可能だ」

「ええ。それに西側の山は、初級〜中級モンスターが多い狩場よ。西側支店を『ランク制限なし』にして、初心者を誘導すれば効率がいいわ」

 サラが即座に反応する。

「だが、情報の分断リスクがある。伝達手段として、一定時間ごとに早馬を走らせるべきだ」 「いいな。あと、南の山脈は危険度が高い。あっちの依頼は中央本店のみで管理して、逸れモンスターの対応を強化しよう」 「報酬の二重受け取り防止もしないと……依頼を受けた店舗でしか換金できないルールにするのは?」 「採用だ。あと、川側の倉庫街には旅人が多い。彼らは護衛を求めるから、あそこに出張所を置いて……」 「なら、そこで武器のメンテナンスサービスも併設しましょう。鍛冶ギルドと提携して……」

 俺とサラの会話が加速する。  言葉のキャッチボールが止まらない。  彼女とは思考の速度が合う。軍事と経営、視点は違うが、目指す「効率」が同じだからだ。

 その様子を、サーシャが横でじっと見ていた。  口を挟む隙間がない。  彼女の表情が、少しずつ曇っていく。

「……ルイ様」

 冷ややかな声がした。  サーシャが、俺の袖をギュッと掴んでいる。

「ギルドは民営組織です。人事権限のない私には関係ありません。……ここは視察不要です」

「え? いや、まだ話が……」

「行きますよ」

 有無を言わせぬ力で、ズルズルと引きずり出された。  後ろでサラが「あらら」と面白そうに手を振っていた。


          ◇


 夕暮れ時。  俺たちは屋敷の前の広場にあるベンチに座っていた。  空が茜色に染まり、家路につく人々の影が長く伸びている。

 隣に座るサーシャは、俯いたまま無言だった。

「……なあ、どうしたんだ。今日、少し変だぞ」

 俺は声をかけた。

「……なんでもありません。初めてのお二人での視察だったので、緊張して」

「今更かよ。戦場も潜り抜けた仲だろう」

「……なんで」

 サーシャが、消え入りそうな声で言った。

「なんでヴァルザーク視察に、私を連れて行ってくれなかったんですか?」

「え?」

「マティアス様から聞きました。古代遺跡に落ちて、死にかけたと。……護衛の責任者として、許せません」

「ああ……それは、お前が人事の仕事で忙しいと思ったから……」

「忙しいなんて言ってません! 大丈夫だったのに……!」

 サーシャが顔を上げた。  その瞳が潤んでいる。  夕日に照らされた彼女の顔は、泣き出しそうで、でも必死に堪えていて。

(……いやでも、あれは明らかにルイ様を狙った罠だった。……もう二度と、彼を失うような恐怖は味わいたくない)

 彼女の心の声など聞こえない俺は、ただ困惑した。  なんでそこまで怒るんだ?

「大丈夫さ。サラもいたし、俺も強くなった。ほら、五体満足だ」

「……もう。やけにお母さんみたいな心配をしますね」

「……大丈夫ですよ。今はもう、ただのメイドじゃありませんし」

 ふう、と息を吐いて、サーシャは空を見上げた。  一番星が光っている。

「……ルイ様は、ミカ様のことが好きだったんですよね?」

 不意な問いかけに、俺は少し驚いた。  心臓の奥が、チクリとした。

「……ああ。気付くのが遅すぎたがな」

「そうですか。……私も、好きでした」

「うん」

 ミカは、みんなに愛されていた。  その喪失は、まだこの街のどこかに影を落としている。

「……でも、ルイ様。前を向いても、いいと思うんです」

 サーシャが俺の顔を覗き込んだ。  その瞳には、真剣な光が宿っていた。

「ええ。俺は確かに悲しくて引きずっているが、仕事も運営も全て問題なくやっているぞ。バールは順調だ」

「……そっちの話ではなくて」

 サーシャがガクリと肩を落とした。  呆れと、少しの悲しみが混じった溜息。

「……? どういう意味だ?」

「……はぁ。なんでもないです」

 彼女は立ち上がり、パンパンとスカートを払った。  いつもの凛とした表情に戻っている。

「そろそろご飯の時間です。行きましょう」

「え、さっきパン屋で食べたじゃん」

「お腹空くんです! 私はまだ成長期ですから!」

 スタスタと歩いていく背中。  俺は首をかしげながら、その後を追った。

 ……やっぱり、今日のサーシャはどこか変だ。  リボン、買ってやればよかったか?


【後書き】

お読みいただきありがとうございます!

「バール製鉄」と「セカンド製鉄」の競争開始。 そしてサーシャとの視察デート。 サラとの「仕事の相性の良さ」に嫉妬するサーシャ、可愛かったですね。 しかし、ルイの鈍感スキルはLV99のようです。気づけ、ルイ。

次回、いよいよバールに最大の危機が迫ります。

「サーシャちゃん頑張れ!」「ルイ鈍感すぎ!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

▼次回予告 第2章 第9話

遂に産声を上げる、大陸初の鉄道。 亡き友の名を冠した『聖女記念駅』に響き渡る汽笛は、バールが新たな時代へと突入した合図だった。 祝祭に沸く数千人の市民。しかし、その熱狂の背後には、急速な発展に背を向ける「影」が蠢き始めていた――。

次回は【本日20時】に更新します!


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