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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第6話 : 王都の常識、崩壊せり。――使者が見た「あり得ない」発展

 バール領へと続く街道を、一台の豪奢な馬車が走っていた。  王家の紋章が刻まれたその馬車に乗っているのは、王国第二王子マイルの使者、ギャランティスである。

 金髪に眼鏡、仕立ての良い服に身を包んだ彼は、不機嫌そうに窓の外を眺めていた。

「……全く。なぜ私が、あのような僻地へ行かねばならんのだ」

 彼はため息をついた。  ギャランティスは優秀だ。若くして王国の財務に関わり、将来はマイル王子を王位につけ、この国の経済を牛耳る野心を持っていた。  彼の中には、「私ならもっとうまくやる」という自負がある。

「……バール領主ルイ。あの『無能』と呼ばれた第三公子か」

 かつてのルイを思い出す。  パーティーの隅で怯えていた、影の薄い少年。  そんな奴が領地を改革した? 笑止千万だ。  どうせ、優秀な移民が流れ着いたか、偶然ミスリル鉱脈でも見つかったのだろう。

「おい、デュラン。まだ着かないのか」

 同乗している大柄な男に声をかける。  彼は竜人ドラゴニュートのデュラン。王国の技術顧問であり、ギャランティスの知恵袋だ。

「……ギャランティス様。前方を」

 デュランが太い指で窓の外を指差した。  ギャランティスは眼鏡の位置を直し、目を凝らした。  そして——言葉を失った。

「……な、なんだあれは?」

 遠くに見えるバールの街。  そこからは、黒い煙が何本も、空高く立ち上っていた。

「火事か!? いや、違う……煙が止まない!」

 異常だ。  王都ですら、煙突から煙が出るのは冬の暖房の時期だけだ。  この季節に、あれほどの煙を吐き出し続けるなどあり得ない。何十箇所で焚き火をしているというのか?

 さらに近づくにつれ、その異様さは際立った。

「……おい、あの建物を見ろ。4階建て……いや、5階建てか!?」

 王都の中心部にある大聖堂や王城ならば分かる。  だが、あんな辺境の平地に、箱のような巨大な建築物が林立しているのだ。

「……石造りじゃない。あれは、なんだ?」

 デュランが鱗に覆われた顔を引きつらせた。

「……ありえん。あの高さなら、自重で崩壊するはずだ。一体どうやって建っている……?」

 ギャランティスの背筋に、冷たいものが走った。  報告書にあった「発展」という言葉では、説明がつかない何かがそこにある。

          ◇

 バールの城門に到着した時、ギャランティスはハンカチで鼻を覆った。  スラム上がりと聞いていた街だ。王都の下町ですら汚物と泥の臭いが充満しているのだから、ここは地獄のような悪臭だろうと覚悟していた。

 だが。

「……臭くない」

 彼はハンカチを下ろした。  風に乗ってくるのは……甘い砂糖の香りと、焦げた鉄の匂いだけ。  道端に汚水が流れていない。泥濘ぬかるみもない。  美しい石畳が、どこまでも続いている。

「ようこそお越しくださいました、ギャランティス様」

 出迎えたのは、宰相のマティアスだった。  その背後には、冒険者上がりの荒くれ者と、パリッとした制服を着た事務官たちが整列している。  統一感はない。だが、その目は一様に鋭く、王立騎士団にも劣らない規律がある。

「……ルイ殿は?」

「あいにく、現在は視察で不在にしております。代わって私がご案内いたします」

「……不在? 王家の使者を迎えるのにか?」

 ギャランティスは不快感を隠さずに言った。  内心の動揺を悟られまいと、あえて傲慢に振る舞う。  だが、マティアスは涼しい顔で「急務ですので」と受け流す。

          ◇

 領主館の応接室。  出された茶菓子を口にした瞬間、ギャランティスの常識にひびが入った。

「……なんだ、これは?」

 白い、雪のような砂糖菓子。  舌の上で瞬時に溶け、雑味のない甘さだけが広がる。

「当領の工場で生産しております『バール・スイーツ』です」

「……馬鹿な」

 ギャランティスは震えた。  王都で流通している砂糖は、もっと茶色く、ジャリジャリしている。  これほど純白で高品質な砂糖など、王族の結婚式でしか見たことがない。  それを、ただの「茶菓子」として出すだと?

「……マティアス殿。単刀直入に言おう。この街を変えたのは君だな?」

「は?」

「ルイ如きにこれができるはずがない。君のような優秀な宰相が、傀儡として彼を立てているのだろう? ……安心しろ、マイル王子には私がうまく伝えてやる」

 ギャランティスはニヤリと笑った。  そうだ、そうに決まっている。  あの気弱なルイに、こんな革命ができるわけがない。

 だが、マティアスは心底おかしそうに、くっくと笑った。

「……買いかぶりすぎですな」

「何?」

「我々はただの手足。この街の設計図を描いたのは、全てルイ様ですよ」

「……謙遜か?」

「事実です。……信じられませんか? では、外の『現実』をご覧に入れましょう」

          ◇

 そこからの視察は、ギャランティスとデュランのプライドを、粉々に粉砕する旅だった。

1.見えない川(下水道) 「……なぜだ。なぜ街に汚水がない?」 「地下に川を作りました。汚水は全て地下のパイプを通り、浄化槽へ送られます」  デュランが地面に這いつくばり、マンホールを確認して絶叫した。 「……地下に水路だと!? この規模で!? 王都の技術者を集めても100年はかかるぞ! それを、たった一年で!?」

2.科学の農地 「……なんだこの作物は?」  整然と区画整理された畑。見慣れないクローバーと、異常なほど丸々と太ったカブ。 「四輪作と堆肥の導入実験場です。収穫量は従来の1.5倍を記録しています」 「い、1.5倍だと……!? 祈りも捧げずに!?」

3.命の選別所トリアージ  清潔な白い建物。怪我人は「重症度」でタグをつけられ、魔法と薬を併用してシステム的に治療されている。 「感情で治療順を決めない。助かる命を確実に助ける……ルイ様が構築された医療システムです」  ギャランティスは唇を噛んだ。  冷徹な計算の上に成り立つ、完璧な福祉。  自分が理想として語っていた机上の空論が、ここでは既に「日常」として稼働している。

4.黒鉄の心臓(工場) 「……中には入れんのか」 「企業秘密です」  立ち入り禁止区画。煙突からは絶え間なく黒煙が上がり、地響きのような音が轟いている。  シュゴオオオオッ……ガシャン、ガシャン!  聞いたこともない音。 (……何を作っている? ただの砂糖工場じゃない。何かが、とてつもないエネルギーを生み出している……!)  竜人のデュランが、青ざめて震えていた。 「……ギャランティス様。あれは『動力』です。魔法生物でもない何かが、半永久的に動いている……。あんな技術、王国には存在しません」

5.鉄の道(鉄道)  そして、トドメがそれだった。  街の外へ向かって伸びる、二本の鉄の線。

「……おい、マティアス。あれはなんだ」

「**『鉄道』**です。とりあえず、隣のヴァルザークまで繋ぐ予定ですが」

「鉄の……道? 馬車を走らせるのか?」

「いいえ。蒸気の力で、鉄の車両を走らせます。一度に数百人の人と、数トンの物資を運べます」

「…………は?」

 ギャランティスは眼鏡をずり落とした。  蒸気で? 数トン?  馬を使わずに?

「……狂っている」

 彼は呟いた。  だが、その目は驚愕を通り越し、畏怖に染まっていた。

「……これを、本当にルイが?」

「ええ。設計図は全て彼が引きました。……我々も最初は狂気だと思いましたよ。ですが」

 マティアスは、誇らしげに黒煙たなびく街を見上げた。

「ルイ様の描く図面には、狂いがない。この景色がその証明です」

 ギャランティスは、ガクリと膝をつきそうになった。  認めざるを得ない。  これは、マティアスのような宰相が考えつくレベルではない。  王都を……いや、この世界の文明レベルを数段階引き上げるような「異質な知性」が、ここに君臨している。

「……あいつは、無能なんかじゃなかった」

 ギャランティスは震える声で呟いた。

「……化け物だ」

          ◇

 帰り際。  馬車に乗り込む前、ギャランティスは振り返った。  その顔に、かつての見下した色は欠片もない。

「……マティアス殿。ルイ殿に伝えてくれ」

「はい」

「……『見誤っていたことを謝罪する。いずれ、改めて正式に挨拶に伺う』と」

 彼は少しだけ悔しそうに顔を歪め、そしてフンと鼻を鳴らした。

「だが、それを支える部下も、化け物揃いのようだな」

「恐縮です」

 マティアスが深々と頭を下げるのを見届け、ギャランティスは馬車に乗り込んだ。

          ◇

 バールを離れる馬車の中。  ギャランティスは羊皮紙を広げ、猛烈な勢いでペンを走らせていた。  宛先は、第二王子マイル。

『殿下。報告を訂正します。  バールは、我々の想像を絶する領域に達しています。  産業、インフラ、技術。全てにおいて、王都は既に周回遅れです』

 彼は一度ペンを止め、遠ざかる黒煙を見た。  本来なら、この場で軍を差し向けて潰すべきかもしれない。  王家の権威すら脅かす、あまりに強大な力だ。

 だが、ギャランティスは続きを書いた。  その手は、興奮で微かに震えていた。

『……しかし、彼を敵に回すべきではありません。  第一王子派に対抗するためにも、この強大な力を「利用」すべきです。  バールは危険ですが……手を組めば、我々は最強の後ろ盾を得ることになります。  至急、正式な同盟のご検討を。    追伸:あの白い砂糖は、王都の貴族が金貨を積んででも欲しがるでしょう』

 書き終えた手紙を封蝋し、ギャランティスはデュランに言った。

「……面白くなってきたな、デュラン」

「……ですな。あの若様が、これほどの『王の器』を持っていたとは」


 見下していた「無能」が、王都の叡智すら及ばない「巨人」だった。

 その事実に、ギャランティスは恐怖しつつも——どこか、ワクワクしていた。

 この国は、変わるかもしれない。  あの、黒い煙と共に。


お読みいただきありがとうございます!

「王都には煙突の煙すらない」という世界観の中で、バールの異質さが際立つ回となりました。 エリートのギャランティスや、技術者デュランが、ルイの「現代知識チート」に常識を粉砕される様子、楽しんでいただけましたでしょうか? 読者の皆様にも「ルイ様すげえ!」と感じていただければ幸いです。

さて、次回は視点をヴァルザークに戻します。 一週間の猶予を与えられたルイ。 バールから到着した「最強の助っ人部隊」と共に、一気に街を改造します!

「ギャランティスの反応最高!」「ざまぁ展開気持ちいい!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

▼次回予告 第2章 第7話『一週間の奇跡』 バールからヴェスタ率いる土木部隊と、ゴード率いる技術班が到着。 「へっ、ここの建物はボロボロだな! やり甲斐があるぜ!」 突貫工事で進むインフラ整備。 そして始まる「現金給付」。 市場はどう動く? ラティファの反応は? 運命の結果発表の日、広場に集まった民衆の声が、答えを出す。

次回は【本日19時】に更新します!


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