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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第5話:配給全廃、現金給付。――死んだ経済を蘇らせる「劇薬」

 翌朝。俺たちはヴァルザークの近郊にある農地を視察していた。

 目の前に広がるのは、やせ細った小麦畑だ。  穂は小さく、土は白っぽく乾燥している。

「……これでは、収穫量は期待できませんね」

 セレスティアが悲しげに眉を寄せた。

「毎年、神官様にお祈りを捧げているのですが、年々土地が痩せていくのです。……やはり、私の祈りが足りないのでしょうか」

「祈りの問題じゃありません。科学の問題です」

 俺は畑の土を手に取り、【国家盤面ステータス】で解析した。


【土壌解析】

窒素(N): 欠乏

リン酸(P): 不足

病原菌: 大腸菌群多数(危険)


「……セレスティア殿。肥料は何を使っていますか?」


「ええと、街から集めた人々の排泄物を……そのまま撒いています。昔からの知恵で、肥料になると」


「直ちにやめてください」


 俺は土を払った。

「人の糞尿は、そのまま使うと病気の元になります。今のヴァルザークで流行っている腹痛や感染症の原因は、これだ」

「えっ……!?」

「肥料には、牛や馬などの家畜の糞を、草と混ぜて発酵させた『堆肥コンポスト』を使ってください。発酵熱で病原菌が死滅し、良質な肥料になります」

 農民たちがざわつく中、俺はさらに言葉を重ねた。

「それと、同じ場所で小麦ばかり作っているのも良くない。  これからは畑を4つに分け、『四輪作』を行います」

「四輪作……?」

「1年目は小麦。2年目はカブ(根菜)。3年目は大麦。そして4年目は——」

 俺は道端に生えていたクローバーを指差した。

「この『クローバー(牧草)』を植えてください」

「牧草? そんな雑草を植えても、人は食べられませんよ!」

 ラティファが噛み付いてきた。

「人が食べるんじゃない。土に食べさせるんだ」

 俺は説明した。  この世界に「窒素固定」という概念はないが、クローバーの根に住む菌が、空気中の栄養を土に戻してくれる。  さらに、育った牧草は家畜の餌になり、その家畜が良質な肥料を生む。  完璧なサイクルだ。

「……これを導入すれば、休耕地を作る必要がなくなり、収穫量は今の1.5倍になります」

 農民たちが驚きの声を上げる。

「休ませずに1.5倍!? そりゃあ夢のような話だ!」 「俺たちにもできるのか!?」

 希望に輝く農民たちの顔。  だが、ラティファだけは腕を組んで鼻を鳴らした。

「……ふん。どうせ、どこかの古い本で読んだ知識だろ? お坊ちゃんが泥にまみれたこともないくせに」

「知識だけで救える命があるなら、安いもんだ」

 俺はラティファの挑発を受け流し、セレスティアに向き直った。

「農業改革は、バールから専門家とコンポストができるまでの肥料を送ります。……次は、街の経済です」

          ◇

 午後、俺たちはヴァルザークの商業区に戻った。

 商店には品物が並んでいるが、値段が高い。  そして、その横で行政による「無料配給」が行われている。  歪な光景だ。

「セレスティア殿。貴女は富裕層や商人への税率を高く設定していますね?」

「……はい。豊かな者から多く取り、貧しい者に分け与える。それが公平だと思いましたから」

「その結果が、この高物価です」

 俺は商店を指差した。

「商人は高い税金を払うため、商品の値段を上げざるを得ない。  さらに、貴女が配給用の食料を、店から『高値(定価以上)』で買い上げていますね?」

「ええ。商店への支援も含めて……」

「それが最悪です」

 俺は断言した。

「店側からすれば、高くても行政が確実に買ってくれる。だから、努力して安く売る必要がない。競争が死んでいるんです」

「で、でも……」

「提案します。まず、商人への税を下げてください。  そして——行政による食料買い上げと配給を、全廃します」

「なっ!?」

 セレスティアが青ざめ、ラティファが剣に手をかけた。

「貴様ッ! 民に飢え死にしろと言うのか!!」

「逆だ。民に『キャッシュ』を配るんだ」

 俺は続けた。

「配給にかかっていた輸送費、保管費、人件費。それらを全て現金化し、貧困層に直接配ってください」

「お金を……直接?」

「そうです。現金があれば、民は自分の好きなものを買える。パンでも、野菜でも、肉でも。  そうなれば、商人は『行政』ではなく『民』に売るために、必死で価格競争を始めます。  減税効果も相まって、物価は劇的に下がるはずです」

 これが、需要側への直接給付による市場の活性化だ。  今の「官製不況」を打ち破るには、これしかない。

「……理論は分かります。でも、本当にうまくいくのでしょうか……?」

「一週間、俺に時間をください」

 俺はセレスティアの目を見据えた。

「その間に、バールの土木部隊も呼び寄せ、崩れそうな建物の応急処置も行います。  ……一週間で結果が出なければ、俺は二度と口出ししません」

「……分かりました」

 セレスティアは決意の表情で頷いた。

「ルイ様の『魔法』……信じてみます」

「おいセレスティア様! 騙されちゃダメだ!」

 ラティファが叫ぶが、賽は投げられた。

          ◇

 その夜。  領主館でささやかな晩餐会が開かれた。

 テーブルに並んだのは、薄いスープと硬いパン、そして茹でたブロッコリーだけ。  肉も魚もない。  これが、一都市の領主の食事だ。

「……粗末なもので、申し訳ありません。予算は全て給付金に回す準備に入りまして……」

 申し訳なさそうにするセレスティアに、俺は首を振った。

「いえ。貴女の覚悟、受け取りました」

 彼女は本物だ。  やり方は不器用だが、その精神ノブレス・オブリージュは誰よりも高潔だ。

 ふと、隣を見ると。  サラが「無」の表情でブロッコリーを咀嚼していた。

 モグ、モグ、モグ。  味わうでもなく、ただ栄養を摂取する作業のように。

「……あの、サラ様?」

 セレスティアが恐る恐る声をかけた。

「お口に合いませんでしたか……?」

「ん? いえ」

 サラはフォークを置いた。

「効率的な野菜だと思いまして。ビタミン豊富、茹でるだけで食べられる。戦闘糧食レーションとしては優秀です」

「……せ、戦闘糧食……」

 会話が弾まない。  サラは基本的に、剣と戦い以外には無関心だ。  ドレスにも、宝石にも、グルメにも興味を示さない。

「サラ様は、普段は何をされているのですか?」

「鍛錬と勉強ですね」

「ご趣味は?」

「剣の手入れとかですかね。ルイがまだ軍を作らないから仕事がなくてですね」

「……あ、あの、好きなタイプとかは……」

「背後を任せられる奴と私より強い奴です」

(彼女は確かこの間LV100を超えている。サラより強い奴そうそういないだろうな)

 セレスティアが困り顔で俺を見てくる。助け船を出そうとした時だった。

「……セレスティア殿は、なぜそこまでして民を守るのですか?」

 サラが逆に問いかけた。

「え? それは……私が領主だからです。彼らを守るのが、私の義務ですから」

「……ふうん」

 サラの目が、少しだけ光った。

「守る、か。……私も、昔はただ強ければいいと思っていました。  でも今は、守りたい場所バールがあるから、剣を振るっています」

「へえ、そうなんですね!サラさんの使う剣技はどのようなものなんですか?」

 サラが腰の剣を愛おしそうに撫でた。 その瞬間、彼女の無機質な雰囲気が、キラキラとした熱量に変わった。

「この剣技はですね、守ることに特化した型でして。敵の攻撃を受け流しつつ、ルイ……あー、護衛対象の死角をカバーするんです。この重心移動がですね……」

 急に早口になるサラ。  セレスティアは目を丸くし、そして嬉しそうに微笑んだ。

ここまで嬉しそうに話すさらはなかなか見ない。そういえば彼女は他の局長の女性とはそこまで仲が良くない。サーシャとは性格は合わないし、モネとは逆に似すぎているが興味の方向性が違いすぎる。孤独にさせていたのかもしれないな。

「まあ! 素敵です! 誰かのために剣を振るうのですね!」

「ええ。セレスティア殿の『祈り』と同じですよ。  方法は違いますが……貴女も、戦っているんですね」

「……はい!」

 無関心なリアリストのサラと、慈愛の塊のようなセレスティア。  水と油のような二人が、「誰かを守る」という一点で共鳴した瞬間だった。

 俺はその光景を見ながら、残りのブロッコリーを口に運んだ。  味気ない野菜が、少しだけ美味しく感じられた。

(……さて、一週間だ)

 俺は心の中で再確認する。  この優しい領主と、不器用な護衛のためにも。  必ず、ヴァルザークを再生させてみせる。


【後書き】

お読みいただきありがとうございます!

農業改革と経済改革。 現代知識を使った「コンサル無双」パートでした。 そして、サラの意外な一面(ブロッコリーもぐもぐ&剣オタク)も披露。 セレスティアとの「守る者同士」の絆も生まれました。

しかし、改革には抵抗勢力がつきものです。 ラティファの不信感、そして既得権益を失う商人たちの反発……。 一週間で結果を出せるのか?

次回、バールから最強の助っ人部隊(土木&技術)が到着! 一気に街を作り変えます。

「続きが楽しみ!」「サラちゃん可愛い!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

▼次回予告 第2章 第6話『一週間の奇跡』 バールからヴェスタ率いる土木部隊と、ゴード率いる技術班が到着。 「へっ、ここの下水道はボロボロだな! やり甲斐があるぜ!」 突貫工事で進むインフラ整備。 そして始まる「現金給付」。 市場はどう動く? ラティファの反応は? 運命の結果発表の日、広場に集まった民衆の声が、答えを出す。


明日はダブル投稿!次回は【明日の12時】


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