第3話:物理無効なら、科学(ルール)で殴れ。――数千度の温度差攻撃
轟音と共に、エネルギー弾が放たれた。
「散開ッ!!」
サラの絶叫で全員が左右に飛ぶ。 直後、俺たちがいた場所が爆発し、コンクリートの地面が抉り取られた。
「……冗談だろ」
俺は土煙の中で【国家盤面】を凝視した。 先ほどの十数秒で、詳細な解析が完了していた。
【敵性体解析完了】
個体名: 拠点防衛用自律フレーム(形式番号:SG-09)
推定脅威レベル: 200〜400(Aランク冒険者2パーティ分に相当)
装甲値(物理): 9,999(測定不能・貫通不可)
エネルギー源: 魔力変換炉(稼働効率98%・外部魔力吸収機能あり)
状態: 経年劣化により「論理回路」破損。無差別排除モード。
「……物理無効に、魔力吸収だと?」
絶望的なスペックだ。 だが、まだみんなはそれを知らない。
「食らえぇっ! 【火球】ッ!!」
カタリーナが杖を振り、巨大な火の玉を放った。 直撃。炎が黒い巨体を包む。
だが——
ブォンッ!
炎は瞬く間に装甲に吸い込まれ、逆にガーディアンの赤い瞳が、より強く輝いた。
「なっ!? 魔力が吸われただべ!?」
「魔法を使うな! 奴は魔力をエネルギーに変える!」
俺が叫ぶのと同時に、ガーディアンが加速した。 速い。巨体に似合わぬ敏捷性だ。
「くっ、なら物理で! ユウマ、合わせろ!」
「応ッ!」
護衛長のダンルイとユウマが左右から斬りかかる。 LV100近い剣士たちの、ミスリルをも断つ渾身の一撃。
ガギィンッ!!
嫌な金属音が響き、二人の剣が弾かれた。 傷一つついていない。
「馬鹿な……手応えがまるで岩だぞ!?」
ガーディアンの裏拳がダンルイを襲う。 ダンルイは大剣を盾にするが、その重さに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ダンルイ!?」
「……ぐぅ、なんて馬鹿力だ……!」
サラが舌打ちをして前に出るが、彼女の攻撃も通じない。 最強の矛も、最強の盾も通用しない。
(……くそっ)
俺は歯を食いしばった。 何もできない。 魔法を撃てば敵を回復させる。剣で挑めば弾かれる。
(……サーシャがいれば)
いつもなら、サーシャが時間を稼いでくれた。 彼女なら、あの攻撃を躱し続けられたかもしれない。 だが、今はいない。
俺が弱いから。 俺が守られるだけの存在だから、みんなが危険に晒されている。
「……危ないッ!!」
ガーディアンの砲口が、体勢を崩したユウマに向けられた。 このままじゃ、死ぬ。 俺のせいで、誰かが死ぬ。
(……嫌だ)
ミカの顔が過る。 もう、誰も死なせたくない。
(……考えろ!)
俺は頭を叩いた。 力じゃない。魔法じゃない。俺にあるのは何だ?
——前世の知識だ。
俺は周囲を見た。 遥か下に流れる、赤いマグマ。 そして、俺たちの手元にある「水魔法」。 敵は、超硬度の金属装甲。
一つの「現象」が脳裏に閃く。
「……いけるか?」
俺は叫んだ。
「全員、あいつを崖際(マグマ側)へ誘導しろ!」
「はあ!? 落ちたら終わりだよ!」
サラが叫び返す。
「いいからやれ! 奴の装甲を砕く方法は一つしかない! **『急冷による金属疲労』**だ!!」
「……何だそれは!?」
「焼き入れの逆だ! 熱して急に冷やせば、どんな硬い金属も割れる!」
「……なるほどな!」
サラがニヤリと笑った。
「トム! 石礫でヘイトを買え! ダンルイ、押すぞ!」
全員が動き出す。 シーフのトムが素早い動きで撹乱し、ガーディアンを崖際へと誘う。 あと少し。あと一歩で、足場が崩れる位置だ。
だが、ガーディアンも学習している。 崖の手前で踏みとどまり、遠距離砲撃の構えを取った。
「……しまっ……!」
近づけない。 今のメンバーには、あいつの重量を無理やり押し込むだけの火力がない。
(……俺がやるしかない)
俺は魔力を練り上げた。 だが、俺の魔力量は凡人並みだ。 巨大なゴーレムを吹き飛ばすような岩塊を作る魔力はない。
(……思い出せ、土質力学!)
土は、水を含ませることで密度と重量が変わる。 ただの土じゃない。 「最適含水比」。 土の粒子が最も密になり、強度が最大になる水分量。 コンクリート並みの硬度と重量を持つ「泥の砲弾」を作る!
ルロイの教えと、前世の物理知識をリンクさせる。 水分量は15%……圧縮率は最大……!
「……計算完了」
俺は両手を突き出した。
「【超硬質泥弾】ッ!!」
俺の掌から、黒光りする巨大な泥の球体が射出された。 魔力消費は最小限。だが、その質量は岩をも砕く。
ズドォォォォォンッ!!
泥弾がガーディアンの胸部に直撃した。 想定外の「物理衝撃」に、巨体がグラつく。
「……落ちろオオォォォッ!!」
さらに足元の地面が、衝撃で崩壊した。 ガーディアンはバランスを崩し——
ズブオォォォォッ!!
真っ赤なマグマの中へと落下した。
「……やったか!?」
ダンルイが身を乗り出す。 だが、ガーディアンは沈んでいなかった。 魔力障壁を展開し、マグマの中を歩いて岸へ登ろうとしている。
「……しぶとい!」
「いや、これでいい!」
俺は叫んだ。 ガーディアンの黒い装甲が、マグマの熱で赤熱し、湯気を上げている。 オーバーヒート寸前だ。
「今だ! カタリーナ、ルンダ、ラリ! ありったけの水魔法をぶち込め!!」
「了解だべ!!」
三人の魔術師と俺が、同時に魔法を放つ。
「【激流】ッ!!」
大量の冷水が、赤熱したガーディアンに直撃した。
ジュウウウウウウウウウッ!!
凄まじい水蒸気が爆発する。 数千度の温度差。 膨張していた金属が、一瞬で収縮する。 物理法則は、古代兵器にも平等だ。
数十メートル上にいる俺たちにも暑い熱気が打ち付けてくる。熱い。
パキッ、ピキキキキキッ……!
硬質な音が響き渡る。 「物理無効」を誇った装甲に、無数の亀裂が走った。 そして——
ガシャアアアアンッ!!
胸部の装甲が砕け散り、内部が露出した。 奥で輝く、巨大な水晶体。
「トム! コアだ!!」
俺は叫んだ。
「へいッ!!」
シーフのトムが影のように走った。 水蒸気の中を突き抜け、砕けた装甲の隙間に侵入する。 彼は盗賊ツールを素早く操り、配線を切断した。
「……いただき!」
トムがコアを引き抜く。 次の瞬間、ガーディアンの赤い瞳から光が消えた。
ズゥゥゥゥゥン……
巨体はその場に崩れ落ち、動かなくなった。
◇
静寂が戻った廃墟で、トムが戻ってきた。 その手には、バスケットボールほどの大きさの水晶が抱えられている。
「……ルイ様。へへ、いい仕事できましたぜ」
俺はそれを受け取った。 【国家盤面】が震えるほどの高エネルギー反応を示している。
「……すごいな」
俺は息を吐いた。
「周辺の魔力や、受けた攻撃をエネルギーに変換する『永久機関』に近いコアだ。……こいつも持って帰ろう」
製鉄炉の設計図。 そして、魔力変換コア。 バールは今日、100年分の技術を手に入れた。
「……流石だわ、ルイ」
サラが肩を叩いてきた。
「熱して冷やすなんて発想、普通の剣士や魔術師じゃ出てこないよ。……あんたの指示がなきゃ全滅してた」
「いや……」
俺は首を振った。
「みんなのおかげだ。ダンルイたちの足止めがなきゃ死んでたし、トムがいなきゃトドメは刺せなかった」
俺は全員を見渡した。
「……サラが集めた『新生護衛チーム』は優秀だよ。ありがとう」
「……へへ、領主様に礼を言われるなんて、長生きはするもんですな」
ダンルイが兜を脱いで、汗を拭いながら笑った。 全員が、誇らしげな顔をしている。
「よし、長居は無用だ。脱出ルートを探して、ここを出るぞ!」
「応ッ!!」
俺たちは歩き出した。 古代遺跡の闇を抜けて、光ある地上へと。 その背嚢には、国を変える「未来」を詰め込んで。
お読みいただきありがとうございます!
物理無効の敵を、科学知識(熱衝撃)と土木知識(最適含水比)で撃破! これぞ「異世界コンサル」ルイの真骨頂です。 サーシャの有能ぶりと、チームの絆も深まりました。
手に入れた「製鉄炉の設計図」と「魔力変換コア」。 これでバールの産業革命は止まりません。 しかし、地上に戻ったルイたちを待っていたのは……?
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▼次回予告 第2章 第4話
古代遺跡から生還したルイたち。
だが次に待っていた敵は――魔物ではない。
向かう先は第二都市ヴァルザーク。
そこにあったのは、美しい街並みと、崩壊寸前の財政。
使途不明の金。
機能しないインフラ。
そして――私財を削って民を救う、善人すぎる領主代行。
理想で街を守る少女と、
現実で国を変えようとする少年。
ぶつかるのは剣ではなく、
「統治の在り方」。
次回、
優しさでは国は救えない――その証明が始まる。
次回【本日19時】と【本日20時】トリプル更新です!




