表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第1章:ゴミ溜めからの再建計画(ターンアラウンド) ~「死神」コンサルタントは、数字で悪徳貴族を黙らせる~
3/10

第1-3話 国家盤面、起動


 王宮の裏門――通称「ゴミ出し口」。  華やかな正門とは対照的に、そこは食材の搬入口や汚物の運び出しに使われる、薄暗く湿った場所だった。  兄たちが用意した馬車は、そこに停まっていた。  塗装の剥げた、屋根があるだけの粗末な荷馬車だ。御者台には、金で雇われたのであろう無愛想な男が一人、退屈そうに欠伸をしている。

 見送りなど、いるはずもない。  そう思っていた俺の足が、不意に止まった。



「お待ちしておりました、ルイ様」



 馬車の横に、古びたトランクを持った小柄な影が立っていた。  俺の専属メイド、サーシャだ。  目深に被った帽子で顔を隠しているが、その佇まいで誰かはすぐに分かる。



「……何をしている」



 俺は眉をひそめた。



「見ての通り、俺は追放された。第2区は泥舟だ。給金も払える保証はないし、身の安全も約束できない」


「存じております」


「なら帰れ。君の事務処理能力と王宮での実務経験スペックがあれば、王都の貴族なら好条件で雇うはずだ。こんな泥舟に乗るなんて、投資対効果コスパが悪すぎる」



 これは本心だ。  彼女を連れて行くメリットより、彼女がこれから被るであろう苦労デメリットの方が大きい。  俺は冷たく突き放し、馬車に乗ろうとした。  だが。



「……嘘ですね」



 背中にかかった鈴のような声に、俺は動きを止めた。  振り返ると、サーシャが帽子を脱ぎ捨てていた。  露わになったのは、透き通るような銀髪と――人間よりも長く尖った、ハーフエルフの耳。



「ルイ様は、ご自分の保身ではなく、私が路頭に迷うのを心配して、わざと突き放そうとしています。……私には分かります」



 彼女の翡翠色の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いていた。  ハーフエルフ特有の種族スキル『嘘看破』か、それとも単なる長年の付き合いによる勘か。  どちらにせよ、俺の計算ロジックは彼女には通用しないらしい。



「汚れた血と罵られ、石を投げられた私を……ただ一人の『人間』として雇用契約してくださったのは、貴方だけでした」



 サーシャはトランクを握りしめ、一歩前に出る。



「私の価値を決めるのは、市場ではありません。私自身です。……どうか、お供させてください」



 その瞳には、テコでも動かないという強い意志が宿っていた。  俺は小さく溜息をつく。  感情論だ。非合理的だ。  だが――不思議と、不快ではなかった。



「……好きにしろ」


「はい!」



 俺が短く告げると、サーシャは花が咲いたような笑顔を見せ、軽やかに馬車へと乗り込んだ。  (まあいい。彼女の能力は有用だ。現地での『ユニット』として活用させてもらうとしよう)  俺はそう自分に言い聞かせ、御者に出発を命じた。

          ◇

 馬車は王都を離れ、一路、第2区へと進んでいく。  スラムを抜けた後、城壁の外に広がっていたのは、一面の銀色の麦畑だった。  風に揺れる穂は美しく、旅情を誘う光景だ。  だが、俺の口から出たのは感嘆ではなく、深い呆れ混じりの溜息だった。



無駄ロスが多すぎる」



 俺は窓枠に肘をつき、冷ややかな目で畑を指差した。



うねの間隔が広すぎて、土地の3割がデッドスペースになっている。それに、なぜこの痩せた土壌に『銀麦』なんだ? 銀麦は見栄えこそいいが、土の養分を吸い尽くす金食い虫だ」



 貴族たちが好む、ふわふわの白パン。それを作るためだけに、この国は無理をしている。



「この水はけの良い土なら、根菜類イモの方が相性がいい。茎を伸ばすエネルギーをすべて可食部に回せる根菜なら、単位面積あたりのカロリーベースで小麦の3倍から4倍の人口を養える。畝の間にマメ科の植物を植えれば、肥料代だって浮くんだ」



 見た目だけの美しさに囚われ、生存に必要な効率をドブに捨てている。  まさに、あの兄たちの政治そのものだ。



「……だが」



 俺はふと視線をずらし、畑の脇を走る用水路に目を止めた。  そこには、俺の知る兄たちの杜撰さとは異なる、異質な『完成度』があった。



「唯一、褒められるのはあの水路だな」



 水路の底は滑らかな切り石で舗装され、継ぎ目には耐水性の漆喰が充填されている。勾配の計算も完璧で、これなら水流の勢いを殺さず、かつ蒸発による損失ロスを最小限に抑えて末端まで水を運べる。  ローマ水道も裸足で逃げ出すレベルの、極めて高度な灌漑技術だ。



「これだけの土木技術テクノロジーがあるなら、なぜそれを乾燥した地方カントリーに展開しない?」



 俺は先ほど以上の苛立ちを込めて吐き捨てた。  この水路は、王都周辺の「見栄えが良いエリア」にしか張り巡らされていない。  おそらく、他国の使節団が通る街道沿いだからだろう。「我が国の農業技術は世界一です」と見せびらかすためだけの、ただのショーウィンドウだ。



「技術はある。金もある。だが、それを『国民を食わせる』ことではなく『他国への見栄』だけに使っている。……あまりに愚かなリソース配分だ」



 この技術を第2区や第1区に導入すれば、飢餓など一年で解決する。  解決策ソリューションは足元に転がっているのに、誰もそれを拾おうとしない。  まさに宝の持ち腐れ。無能な経営陣を持つと、現場の技術が泣く羽目になる典型例だ。



「……綺麗な景色、ですのに」



 ふと、対面に座っていたサーシャが不思議そうに口を開いた。



「ルイ様は、なんだか悔しそうなお顔をされていますね」



「悔しい? 俺がか?」



「はい。普通の貴族様なら、この豊かさを誇るか、あるいは興味も示さず通り過ぎるだけです。……でもルイ様は、まるで『もったいない』と怒っているように見えます」



 サーシャは少しだけ悲しげに、けれど優しく微笑んだ。



「そのすごい技術がここだけにあることを、誰もおかしいとは思わないんです。……ルイ様以外は」



 彼女の言葉に、俺は少しだけ虚を突かれた。  そうか。この世界の住人にとっては、王都だけが優遇されるのは「当たり前」で、怒るようなことではないのか。



「……俺はケチな性分なんだ。使える手札を使わずに負けるのが、一番嫌いだからな」



 俺は短く答えて、窓の外から視線を外した。  ここには改善の余地しかない。  つまり――俺が手をつければ、この国は劇的に変わるということだ。

(待っていろ。第2区に着いたら、この国の『当たり前』を全部ひっくり返してやる)

 俺は懐の革袋を強く握りしめた。  怒りは、強力な原動力エネルギーになる。  馬車は荒野へと続く道を、車輪を軋ませながら進んでいった。






 王都を出て数時間。  窓の外の景色は、豊かな緑から、次第に赤茶けた荒野へと変わりつつあった。  第2区。雨が少なく、主だった産業もない貧困地帯。  兄たちが「ゴミ溜め」と呼んだ場所だ。



「……ひどい有様ですね」



 サーシャが窓の外を見て、心を痛めたように呟く。  道は舗装されておらず、馬車が大きく揺れる。沿道に見える草木は枯れ、土はひび割れていた。  だが、俺の目には違うものが見えていた。

(土の色が悪いのは、単に有機物が不足しているだけだ。地形自体は平坦で、開墾のコストは低い)

 俺は目を細めた。  前世、俺は「死神」と呼ばれた。  瀕死の企業に乗り込み、不要な部門を切り捨て、隠された資産を掘り起こし、V字回復させる再建のプロ。  その俺の本能が告げている。ここは「死に体」ではない。「未開発」なだけだと。



「さて……そろそろ『現状把握』といくか」



 俺は低く呟き、意識を集中させた。  この世界に転生した際、俺の魂に刻み込まれた唯一無二のギフト。  前世の知識と経験が、異世界のことわりと融合して生まれたユニークスキル。





「――【国家盤面ステート・ボード】、起動オープン

 瞬間。  キィン、と高い音が脳内で鳴り響いた。

 世界が変わる。  俺の視界にノイズが走り、半透明の青白い光がオーバーレイ(重ね合わせ)される。  ただの荒野だった風景の上に、無数のタグと数値がポップアップした。

『土壌レベル:F(砂質・有機物欠乏)』 『地下水脈:あり(深度50m・水良質)』 『推奨作物:根菜類、耐乾性牧草』 『魔素濃度:低(モンスター発生率・低)』



「……見える」



 俺の唇が、自然と三日月形に歪む。  見えるぞ。すべてが「データ」として。  不確かな勘や、曖昧な伝承ではない。冷徹で、管理可能な「数値」がそこにある。



「治安20? 忠誠度10? ……ハッ、底値もいいところだ」



 株価なら上場廃止レベル。  だが、それは裏を返せば――



「伸びアップサイドしかないじゃないか」



 俺は虚空に浮かぶウィンドウを、指揮者のように指で弾いた。  腐った土台を叩き壊し、無駄を削ぎ落とし、俺の計算通りに世界を組み替える。  これ以上の娯楽が、他にあるか?



「待っていろ、愚兄たち。ここからが俺の『国盗りゲーム』だ」



 瞳の奥で、青白い光が怪しく明滅する。  「死神」の再建劇が、今、幕を開けた。





お読みいただきありがとうございます!


いよいよ次回からは左遷先の2区のバールでの活躍が始まります!!元天才コンサルタントのルイはどう変えていくのでしょうか!お楽しみに!!




もし「続きが気になる!」「ざまぁ展開が楽しみ!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると、執筆の励みになります! (広告の下あたりにあります!)また、まだ私自身経験が浅いため、これからの参考にも意見やアドバイスもいただければ幸いです。




ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ