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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第1章:ゴミ溜めからの再建計画(ターンアラウンド) ~「死神」コンサルタントは、数字で悪徳貴族を黙らせる~
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第17-2話:恩義は「負債」として運用せよ。――感動の和解劇と、冷徹な計算

 夕刻。バイブラー伯爵邸の応接室。

 俺が粗大ゴミのように放り出した誘拐犯たちを見て、バイブラー伯爵は顔面蒼白になり、椅子から崩れ落ちた。

「な、なぜ……なぜ連れ戻したのですか! もう少しで、あの子を逃がせたのに……!」

「お、俺は関係ねぇ! 全部こいつらがやったんだ!」

 その時、誘拐犯の一人が突然叫び、隙を見て開いた窓へと走り出した。

 だが、その足が一歩を踏み出すより早く、サーシャの投げたナイフが男の鼻先数センチの床に突き刺さる。

「ひっ!?」

「……動くな。次は眉間だ」

 サーシャの氷のような声に、男は腰を抜かして失禁した。

 所詮は金で雇われたゴロツキ。信念も忠誠もない、ただのノイズだ。俺はそんな小物に視線すら向けず、伯爵を見下ろした。

「……逃がす、だと?」

「そうだ! 隣町からさらに遠く、私の名の届かない街へ送り……そこで平民として、自由に生きさせるつもりでした!」

 伯爵は悲痛な声で叫んだ。

「あの子は妾の子だ。この屋敷にいては、一生『日陰者』として後ろ指を指され続ける。……他の貴族たちも、あの子の存在をネタに我が家を嘲笑し、ゆすってくる」

 だから、存在を消そうとした。

 表向きは行方不明として処理し、裏で彼女に新しい人生を用意する。それが、彼なりに考えた「娘を守る唯一の方法」だったのだ。

「……私は、あの子に幸せになってほしかったのだ……!」

 伯爵が床に拳を叩きつける。

 保護されたエレナは呆然としていた。父の歪んだ愛情を知り、目から涙が溢れ出している。

 だが、俺は鼻で笑った。

「くだらん」

「なっ……!?」

「それは愛ではない。ただの『保身』だ」

 俺は伯爵の前に歩み寄り、冷徹に告げた。

「貴方は娘を守りたかったのではない。娘という『弱点』を隠すことで、家の体面と自分の心を守りたかっただけだ。……臭いものに蓋をする。この街を囲む無意味な城壁と同じ発想だ」

「う、うぐっ……」

「隠すから弱点リスクになるのだ。……堂々と公表し、家族として扱えば、誰も文句は言えん」

「し、しかし……! それでは他の貴族たちが黙っていない! 『伝統ある家柄に泥を塗った』と総攻撃を受ける!」

「父上!!」

 その時、沈黙していた長男のランターが叫んだ。

「もうやめましょう! ……みっともない!」

「ルイ殿下を見てください! 彼は伝統など気にしない。体面よりも、『結果』で民を救おうとしている!」

 ランターは涙目で父を睨みつけた。

 昼間の気弱な青年とは別人のような気迫だった。

「妹一人守れなくて、何が領主ですか! 何が父ですか! ……僕は、父上のような臆病な領主にはなりたくない!」

「……ッ!」

 息子の悲痛な叫びに、伯爵は雷に打たれたように硬直した。

 そしてゆっくりと視線を上げ、震える娘を見た。

「……すまなかった……エレナ……」

 伯爵は膝をついたまま、娘に向かって手を伸ばした。

「私が……私が弱かったのだ……許してくれ……」

「……お父様」

 エレナが恐る恐る、一歩踏み出した。

 彼女の声は震えていた。

「……本当に、いいのですか?」

「え……?」

「もう、隠れなくていいのですか? ……やっと、私自身として生きて……普通に、『お父様』と呼んでいいのですか……?」

 彼女はずっと、自分の存在そのものが罪だと思って生きてきた。

 日陰で息を潜め、父親に会うことすら許されなかった年月。

 それが終わるのだと、信じられないように問いかけた。

「っ……!」

 その言葉を聞いた瞬間、伯爵の目から堰を切ったように涙が溢れ出した。

 大の大人が、子供のように顔を歪めて泣いた。

「当たり前だ……! すまなかった……今まで、本当にすまなかった……ッ!」

「お父様……ッ!」

 エレナが駆け寄り、父の胸に飛び込んだ。

 伯爵は娘を力強く抱きしめ、嗚咽を漏らし続けた。

 ひとしきり泣いた後、伯爵は俺に向かって深々と頭を下げた。

「……ルイ殿下。貴方のおかげで、私は過ちに気づくことができました。……この恩は、一生忘れません」

「礼には及ばん。俺は依頼を遂行しただけだ」

 俺は素っ気なく答えた。

 感動的な和解劇だ。だが、俺の内心にあるのは冷めた計算だけだった。

(……情に厚い統治者は御しやすい。恐怖で縛るより、恩義という『負債』を負わせた方が、長期的には低コストで管理できる)

 サクレアをバールの経済圏に組み込む上で、領主が俺に頭が上がらない状態にしておくこと。

 それが最も合理的で、維持コストの安い秩序だ。

「エレナを公表すれば、確かに雑音は聞こえてくるだろう。……だが、もし文句を言う貴族がいれば、俺に言え」

「え?」

「バール(北)の経済力で、そいつの家ごと黙らせてやる」

 俺がニヤリと笑うと、伯爵とランターは呆気にとられ、それから今日一番の笑顔を見せた。

 帰り際、俺はエレナを見た。

 彼女は一瞬、開かれた扉の先――自由な外の世界を見つめ、それから強く父の手を握り返した。

「……私は残ります。逃げるのではなく、お父様やお兄様と共に、ここで生きたいから」

 彼女の瞳には、もう「運ばれるだけの荷物」だった頃の弱さはなかった。

 自分の意思で、イバラの道を選び取ったのだ。

          ◇

 屋敷を出ると、夕焼け空の下、ミカとサラが待っていた。

「あ、ルイ〜! 調査終わったよ〜! ……って、あれ? なんかいい雰囲気?」

 ミカは屋敷の玄関で手を振るバイブラー一家と、俺たちを見比べた。

「……少し、散歩をしてきただけだ」

 俺は短く答え、馬車へと歩き出した。

「さて、憂いはなくなった」

 俺は南の空を見上げた。

 サクレアのさらに南。

 地平線の彼方に、黒々とした雲が垂れ込める未開の地が見える。

「明日こそ発つぞ。……ゴムと鉄、そしてまだ見ぬ資源が眠る『緑の地獄』へ」

 そこは、これまでの「政治」や「経済」が通用しない場所。

 たった一つの判断ミスが『死』に直結する、不可逆の領域だ。

 俺たちの旅は、ここから本当の意味での「冒険」になる。



お読みいただきありがとうございます!

サクレア編、完結です。

不器用な父と、覚醒した息子。そして自らの意志で残ることを選んだ娘。

一件落着に見えますが、ルイの頭の中にあるのは「恩義による支配の確立」という計算のみ。

このブレない冷徹さが、彼の強さであり……危うさでもあります。

さて、次回からは【熱帯雨林編】がスタートします!

ですが、先に言っておきます。

ここから先は、これまでの「内政無双」とは空気が変わります。

そこは――何かを得るためには、何かを捨てなければならない残酷な世界。

「続きが気になる!」「覚悟して読む!」と思っていただけましたら、

ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

(ブックマークもぜひ……!)

▼次回予告

第18話『熱帯の支配者と、ゴムの木』

ついに未開のジャングルへ足を踏み入れた一行。

そこは湿気と熱気、そして死の病が蔓延る場所だった。

ミカの「聖視眼」が捉えたのは、空気中を漂う無数の『死』。

過酷な環境下で、ルイはついにゴムの木を発見するが……?

次回も【明日18時】に更新します!



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