第1-2話 死神コンサルタント、地方都市で再起動する
自室に戻った俺は、手際よく荷造りを始めた。 無駄なものは一切持たない。必要なのは、当座の資金と、この頭脳だけだ。
ふと、部屋の隅にある姿見に視線を向ける。 そこには、黒髪の不吉な王子が映っていた。だが、その冷ややかな瞳は、前世の俺――「古田ルイ」そのものだった。
――脳裏に、前世の記憶がフラッシュバックする。 深夜二時のオフィス。ビルの25階から見下ろす東京の夜景は、宝石のように美しかったが、室内の空気は澱んでいた。
『古田さん……これ、本当に提出するんですか?』
震える声で尋ねてきたのは、入社三年目の部下だった。 彼の手には、俺が作成したクライアント企業の「再建計画書」が握られている。
『数字は合っているはずだ。部門ごとの赤字を解消するには、不採算部門である第3工場を閉鎖し、従業員500名を整理するしかない』
『でも! あの工場は、その町の生命線なんです! 閉鎖したら、関連の下請けも含めて町が死にます! 社長も泣いていました……なんとか回避できないんですか!?』
『感情論で会社は救えない』
俺は部下の目を見ずに、PCの画面を見つめ続けたまま答えた。
『今、膿を出さなければ、半年後に本社ごと倒産する。500人を切って5000人を救う。それが最適解だ』
『……貴方は、人の心がないんですか』
部下は計画書をデスクに叩きつけ、部屋を出て行った。 翌日、その再建案は可決された。 株価はV字回復し、俺は多額の成功報酬を得た。 ……その代わり、部下は心を病んで辞め、閉鎖された工場の代表者は自ら命を絶ったとニュースで知った。
鏡の中の俺は、自嘲気味に口の端を歪めた。 結果(数字)は出した。だが、誰も幸せにならなかった。 過労で倒れ、薄れゆく意識の中で俺が思ったのは、「次はもっとうまくやる」という後悔だけだった。
「……そうだ。俺が間違っていたのは、中途半端に迷ったことだ」
俺は革袋を握りしめる。 あの時、部下の言葉に揺らぎ、中途半端な情けをかけたせいで、俺自身も磨り減ってしまった。 経営者に必要なのは、非情なまでの決断力だ。
20歳の誕生日の日に前世の記憶が戻ってきた俺は今まで通りの遊び呆けている第三王子を演じてきたが、やっと自由に自分の実力を発揮する時期が来たという心の中のざわめきが止まらない。この世界のくだらない常識とシステムを壊し、圧倒的な力を持つ。それが俺の目標だ。
「数字は嘘をつかない。情けも、悲しみも、すべては計算式における変数に過ぎない」
鞄の留め具をパチンと鳴らす。 それは、かつての「死神コンサルタント」が、異世界で再び目覚める音だった。
「行くぞ。第2区という『不良債権』を、俺の手で優良国家に変えてやる」
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