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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第1章:ゴミ溜めからの再建計画(ターンアラウンド) ~「死神」コンサルタントは、数字で悪徳貴族を黙らせる~
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第14話:医療崩壊の危機と、下水道計画

 南部への出発当日。  俺は馬車に乗り込む前に、幹部たちを集めて最後の戦略会議を行っていた。

 場所は領主館の「作戦会議室」。  かつてガモンが使っていた頃は、無駄に豪華な絵画や壺が飾られていたが、俺がすべて撤去させた。  今は採光を良くしたシンプルな空間に、大きな円卓と、壁一面の「黒板」があるだけだ。

「……ふぁ〜……」

 建設局長のヴェスタが、退屈そうに大あくびをしている。  現場仕事の彼にとって、座学は睡眠薬代わりらしい。

「起きろ、ヴェスタ。お前の仕事の話だ」

 俺がチョークを投げつけると、ヴェスタは「おっと」と片手でキャッチして目を覚ました。

「まずは医療と衛生だ。ミカ、進捗はどうだ?」

 俺の問いに、衛生管理官のミカが厳しい顔でレポートを開いた。

「……正直、ギリギリだよ。病院は計画通り街に4つ建設中だけど、肝心の中身――『ヒーラー』が足りない」

 ミカは深いため息をついた。

「Cランク以上のヒーラーは、みんな冒険者ギルドに登録してるの。彼らにとって治癒魔法は『金稼ぎの道具』か冒険に命をかけているから、月給制で刺激が少ない病院勤務なんて安くてやってられないって断られちゃった」

「……給料増やしても難しいだろうな」

 俺は舌打ちした。  この世界のヒーラーは、聖職者というより「特殊技能を持ったビジネスマン」だ。一回の回復で大金を取るのが常識となっている。

「冒険者を辞めて来てくれたのは、Cランクが一人だけ。……仕方ないから、Eランクの駆け出し数人と、魔力を持たない『普通の医師(薬師)』を雇って数を埋めてるわ」

「それでいい。……重症患者だけヒーラーが担当し、軽症は医師に任せる『分業制トリアージ』を徹底しろ」

 俺が頷くと、ミカは「それとね……」と声を潜めた。

「もっと深刻なのが『下水』だよ。ルイ、この街の排水事情、知ってる?」

「……川に流しているだけだろう」

「そう。水魔法で水は出るから、みんな『流せば消える』と思ってる。でも、実際はラナ川の支流に溜まってるだけ。……私の目には見えるの。そこから湧く黒いモヤ(病原菌)が、街を覆いつつあるのが」

 言われてみれば、街には常にドブ臭さが漂っている。  インフラの欠陥だ。

「ミカ、対案は?」

「地下下水道を作るの。生活排水をラナ川じゃなく、街の南にある『汚水溜め』に誘導して隔離する。……でも、溜めた汚水をどうやって浄化するかまでは……」

「そこは俺が知恵を出そう」

 俺は黒板に図面を描いた。  単純だが、効果的なシステムだ。

「『沈殿槽』を作る。……汚水を巨大なプールに流し込むが、ポイントは『流速を極限まで落とす』ことだ」

「流速を?」

「ああ。重い粒子(汚れ)は、時間をかければ底に沈む。上澄みだけを次の槽へ流し、また沈殿させる。これを数回繰り返せば、水はかなり透明になる」

 重金属などの微細な毒素までは取れないが、今のこの国の工業レベルなら、有機物さえ取り除ければ十分だ。

「なるほど! それなら単純な工事で済むわ!」

「ヴェスタ、聞いたな? 地下水路と沈殿槽の掘削だ。……お前たちの得意分野だろう」

「へいへい、穴掘りなら任せな。……寝るよりはマシだ」

 ヴェスタはニヤリと笑い、腕を鳴らした。

          ◇

 続いて、経済局長のモネが手を挙げた。

「次は金の話よ。……第2区全体の『税制改革案』をまとめたわ」

 モネは分厚い資料を提示した。

「ターゲットは、第2区の副都『ヴェルザーク』。商業の中心地ね。……あそこには贅沢品が集まる。嗜好品の税率を上げて、富裕層から吸い上げるわ」

「ヴェルザークか。……いいだろう」

 俺は少し考え、補足した。

「だが、締め付けすぎて逃げられては困る。……一定以上の資産を持つ者の『転出』を制限する法律を作るか?」

「はぁ? あんた馬鹿なの?」

 モネは呆れたように鼻を鳴らした。

「『出口』を塞げば、金持ちは恐怖して、二度と『入口』から入ってこなくなるわ。投資が止まって経済は死ぬ。……むしろ逆よ」

「逆?」

「『バールに住めば優遇される』と思わせて呼び込み、その上で彼らの見栄プライドを刺激して、高いブランド品を買わせるのよ。……金持ちはね、強制されると逃げるけど、おだてられれば喜んで金を落とす生き物なの」

「……なるほど。行動経済学か」

 俺は苦笑した。このエルフ、やはり只者ではない。

「分かった。税制の詳細は任せる。手綱捌きに期待しているぞ」

「任せなさい」

 モネは自信満々に胸を張った。

          ◇

「最後に、マティアス。お前には別の調査を頼む」

 俺は地図の一点を指した。  南部へ向かう道中にある高原地帯、サクレア。

「ここは?」

「貴族たちの保養地(別荘地)ですな。多くの貴族がここに屋敷を構えております」

「そうだ。今回の南部視察、ここを経由して行くつもりだ。馬車で1週間といったところか」

 俺は地図上のサクレアを指で叩いた。

「この土地は鉱物資源が豊富だと言われている。だが、サクレアからの納税額は異常に少ない。……裕福でもないし、第2区への貢献も皆無だ」

「……なるほど。資源を隠匿し、私腹を肥やしている可能性がありますな」

「その通りだ。俺が現地に着くまでに、サクレアの貴族どもの『金の流れ』を洗っておけ。誰が、どこで、何に金を使っているか。……現地で突きつけてやる」

 サクレアの貴族たちは、第2区の利益を食い潰す寄生虫だ。  いずれ行う「大掃除」のために、今のうちに証拠ネタを握っておく。

「承知いたしました。……完璧な資料を揃えておきましょう。資料の方はルイ様が到着する時には到着するよう手配します」

 マティアスは恭しく一礼した。  その眼鏡の奥が、一瞬だけ鋭く光った気がした。

          ◇

 会議を終え、俺は館の前に待たせていた馬車へと向かった。

 護衛のサーシャ、指揮官のサラ。  そしてAランク冒険者『黄金の盾』の面々がすでに待機している。

 その時だった。  背後から、白いローブの裾を掴まれた。

「ねえねえ、ルイ〜!」

「……なんだ、鬱陶しいな」

 振り返ると、ミカが満面の笑みで立っていた。  出発前に、最終的な薬品チェックをしていたらしい。

「さっきの会議! 私の下水案、採用してくれてありがとね。正直、予算オーバーで却下されると思ってたからさぁ」

「……礼には及ばん。お前の案が合理的だっただけだ。それに、今の医療体制を支えているのはお前だ。……助かっている」

 俺が素直に認めると、ミカは一瞬きょとんとして、次の瞬間、瞳を潤ませた。

「えぇぇっ……!? る、ルイが褒めてくれた……!?」

「なんだその反応は」

「だってぇ……! 嬉しいぃぃぃ……! うぅぅ……ずっとまた会いたかったんだよぉ……! ルイと一緒に仕事できて幸せだよぉ……!」

 ミカは「ぴえん」と擬音がつきそうな泣き顔で、俺の袖を引っ張った。  感情の起伏が激しい奴だ。

「……泣くな。暑苦しい」

「うぐっ……だ、だってぇ……。これからもっと暑くなると、病気も増えるから大変だもん。頑張ろうね、ルイ!」

「ああ。分かったから離れろ」

 俺が手を振りほどこうとした時、ミカの表情が急変した。  さっきまでのデレ顔が消え、スナイパーのような鋭い目つきになる。

「……あ」

「なんだ?」

「ルイ、動かないで。……肩のところに『菌』がついてる」

「は?」

 シュッ! シュッシュッ!

 ミカは懐からスプレーを取り出し、俺の顔面めがけて謎の液体を噴射した。

「ぶっ!? な、何をする!」

「消毒! 変な病気もらったら大変でしょ! はい、背中も!」

「やめろ! これから馬車に乗るんだぞ、濡らすな!」

 俺たちは一頻り揉み合い、周囲の冒険者たちに生温かい目で見守られた後、ようやく馬車へと乗り込んだ。

「……まったく。調子が狂う」

 俺は濡れた肩を拭きながら、小さく息を吐いた。  だが、不思議と不快ではなかった。

 馬車が動き出す。  

 今の俺には、確証はない。  だが、立ち止まっている暇はない。

「まずはサクレア、そして南部サウスだ。……不正と資源、根こそぎ暴きに行くぞ」

 俺の視線は、すでに遥か南の地平へと向けられていた。


お読みいただきありがとうございます!

出発前の「内政会議」と、ミカとのドタバタ劇でした。

魔法があるからこそ未発達な「下水道」。 沈殿槽というローテクですが、この世界には革命的な浄化システムです。 そして、ミカの「デレ」と「潔癖消毒スキル」。 彼女がいる限り、ルイは菌からも守られそうです(物理的に)。

さて、次回からは旅路へ! まずは怪しい貴族街サクレア、そして熱帯のジャングルへ。

「内政パート面白い!」「ミカちゃん可愛い!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです! (ブックマークもぜひ……!)

▼次回予告 第15話『旅立ちと、氷のメイドの過去』 民衆の大歓声に見送られ、南部へ出発したルイ一行。 道中、襲い来る盗賊をサーシャが瞬殺する。 夜の焚き火を囲み語られるのは、第4区から流れる「違法薬物」の噂と、この世界の根幹に関わる「勇者召喚」の真実。 そして、ルイはサーシャの孤独な過去に触れる――。

次回も【明日18時】に更新します!


【この世界の豆知識】

【この世界の豆知識】

回復魔術ヒーリングの体系 この世界の回復魔術は、「聖なる力」などではなく、以下の3属性を融合させた高等魔術です。

水: 体液・循環・修復の媒体

土: 肉体構造(骨・筋・臓器)の安定化

火: 代謝・再生促進・生命活動の活性

3属性を同時に制御するため難易度が極めて高く、大半の術者はC級以下で成長が止まります。

【限界とルール】 万能ではありません。

病気: 病原体そのものは殺せますが、それにより「壊死した臓器・神経」の修復にはB級以上が必要です。

毒・薬物: 回復魔術は原則無効です。解毒には錬金術や医学が必要です。

【ランク別効果】

F〜E(初歩): かすり傷、止血、鎮痛(弱)。日常医療レベル。

D(実用): 打撲や裂傷の即時修復。冒険者の標準。

C(上級): 骨折、中度の内臓損傷。国家・貴族専属レベル。

B(希少): 複雑骨折、重病(がん等)、身体強化バフ。国が管理する「戦略資源」。※ミカの実力はここ。

A(超希少): 集団ヒール、部位欠損の部分再生。

S(伝説): 死にかけからの完全再生。神話級。




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