閑話:聖女のレポートと、謎肉のシチュー
閑話をこれから増やそうと考えています!でも意味のない話は書かないので、間話でもちゃんと全体のストーリーに関わる内容になってます!ぜひお楽しみください!!またコメントください!!モチベーションになります:)
人材採用試験が終わり、ヴェスタやモネといった「異端の天才」たちが動き出した頃のことだ。
執務室にて。 俺は山積みの書類と格闘していた。
「ルイ様、衛生管理官のミカから報告書が上がっております」
マティアスが書類を差し出す。 採用からまだ2日。いくら何でも早すぎる。
「……どれ」
俺は半信半疑で目を通した。 だが、内容は驚くべきものだった。
スラム地区の感染症発生率の推移(予測)。 街中の井戸の水質調査データ。 病院建設予定地の優先順位リスト。 それらが、驚くほど的確にまとめられている。
そして、最後のページには赤字でこう書かれていた。
『殿下、下水道の整備を早急にお願いします! このままだと春に大流行が来ます! 予算がないのは分かってますが、 命がかかってるので何とかしてください! ミカより』
……相変わらず、遠慮がない。 公文書だぞ、これは。
「くっ……」
俺は思わず笑いそうになり、咳払いでごまかした。
「どうかなさいましたか?」
「……いや。下水道整備、優先度を上げる。ミカの提案通り、浄化施設も併設する方向で検討しろ」
「承知いたしました」
マティアスが去った後、俺はもう一度報告書を見た。 几帳面な字で書かれた衛生データの合間に、手書きの走り書きがある。
『ルイ、ちゃんとご飯食べてる? 執務室にこもりっぱなしって聞いたよ? 倒れたら意味ないからね!』
……お節介な奴だ。 だが、不思議と悪い気はしなかった。
◇
その数時間後。 俺が地図と睨めっこをしていると、ドアがノックもなしに開いた。
「ルイ〜! 換気! 換気するよ!」
入ってきたのはミカだ。 彼女は挨拶もそこそこに窓を全開にし、パタパタとハタキをかけ始めた。
「……おい。俺は仕事中だぞ」
「仕事も大事だけど、環境も大事! ここ、埃っぽいんだもん。呼吸器系に悪いよ?」
ミカは手際よく棚の上を拭きながら、棚の上の書類を整頓していく。 いつの間にか、部屋の隅に溜まっていた埃が消え去っている。
「……お前、衛生管理官だろ。清掃員じゃないんだぞ」
「似たようなもんでしょ? はい、これお土産!」
ミカはドン、と机の上に鍋を置いた。 蓋を開けると、濃厚な香りが漂う。ブラウンシチューだ。
「……なんだこれは」
「街の視察中に入ったレストランのシチュー! すっごく美味しかったから持ってきたの」
「ほう」
「でもね、厨房を見たらまな板が汚くてさ〜。即刻、営業停止命令を出して店を閉めさせてきた!」
「……え?」
俺はスプーンを持つ手を止めた。
「店を閉めさせたのに、飯は持ってきたのか?」
「だって捨てるのは勿体ないでしょ? あ、加熱処理は私が完璧にしたから菌はゼロだよ! 安心して食べて!」
……無茶苦茶だ。 衛生管理官の権限をフル活用している。
俺は呆れつつも、シチューを口に運んだ。
「……美味いな」
肉が柔らかい。 何の肉だろうか。牛のような脂の甘みと、ラムのような野性味が混ざり合っている。 こちらの世界の調味料レベルが低いため、味付け自体は塩胡椒のみで薄いが、素材の味が異常に良い。
「でしょ? 『バイソン・ディア』っていう鹿肉の一種だって。……ルイ、ちゃんと栄養摂らないと」
ミカは俺が食べる様子を、満足そうに、そしてどこか心配そうに見つめていた。
「……なんだ。俺の顔に何かついているか?」
「ううん。……ただ、変わったなぁって」
ミカは窓辺に寄りかかり、夕暮れの街を見下ろした。
「学園にいた頃のルイはさ、いつも自信がなくて、誰とも目を合わせなかったじゃない? 『どうせ俺なんて』って顔してた」
「……昔の話だ」
「うん。今のルイはすごいよ。自信たっぷりで、指示も的確で。……まるで、中身が別人になったみたい」
ドキリとした。 幼馴染の勘というのは鋭い。
「……だが?」
「うん。……でもね、頑張り方があんまり変わってない気がして」
ミカは振り返り、真っ直ぐに俺を見た。
「昔も今も、何かに追われてるみたいに必死だもん。……あんまり根を詰めすぎると、心が迷子になっちゃうよ?」
その言葉は、前世で心を殺して働いていた俺の本質を、鋭く射抜いていた。
「……余計なお世話だ」
俺は視線を逸らし、シチューを流し込んだ。 温かいスープが、胃の腑に染み渡る。
「はいはい。……じゃあ、私は仕事に戻るね! 食器はそのままにしておいて、後で取りに来るから!」
ミカは嵐のように去っていった。 静寂が戻った部屋には、微かにシチューの香りと、彼女が立てた清潔な空気だけが残っていた。
「……相変わらず、調子が狂う奴だ」
俺は小さく呟き、再びペンを握った。 だが、さっきまでの張り詰めた疲労感は、少しだけ和らいでいた。
お読みいただきありがとうございます!
束の間の日常回でした。 ミカ、有能ですね(営業停止にしつつご飯は確保するあたりが)。
彼女はルイの「中身の変化」に気づきつつも、根底にある「危うさ」も感じ取っているようです。 この二人の関係性が、第15話でのテントの夜へと繋がっていきます。
次回は本編に戻り、いよいよ「蒸気機関」の開発へ! ドワーフの爆発狂・ゴードとの対決です。
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