第11-2話 異彩の部下たち集うー。最強チームの結成
一次試験を通過した者たちの面接は、領主館の執務室で行われた。
俺はデスクに座り、次々と入室してくる候補者たちを査定していく。 隣にはマティアスが控え、手際よく資料を差し出してくる。
「次は文書管理および法務の候補者です。……バロン・クラーク。王都の行政区でも高く評価されていた男です」
入ってきたのは、神経質そうな眼鏡の男だった。 マティアスが推すだけあり、身なりも所作も洗練されている。
「失礼いたします、ルイ殿下。微力ながら、この街の法整備にお力添えできればと」
男が恭しく礼をする。 俺はスキル【国家盤面】を発動し、彼のパラメーターを確認した。
【事務処理:B+ 法知識:A 忠誠心:S】
……ほう。 能力値も高いが、特筆すべきはその「忠誠心」の高さだ。 通常、会ったばかりの主君に対して、ここまで高い数値が出ることはない。
(マティアスの目利きか、あるいは俺の「悪名」よりも実利を重んじるタイプか。……どちらにせよ、裏切るリスクが低いのは好都合だ)
俺は数値だけを見て、その「忠誠」の矛先が誰に向いているかまでは深く考えなかった。
「採用だ。即戦力として期待している」 「はっ! 光栄です!」
その後も、マティアスが連れてくる「王都帰りの実務官」たちは、軒並み優秀で、異常なほど忠誠心が高かった。 俺は彼らを、行政の中枢を担うポジションへと配置していった。
◇
続いて、「地域の専門家」枠の面接だ。 こちらは打って変わって、泥臭い連中が続く。
入ってきたのは、全身に黒い粉塵がこびりついた、『黒粉の民』の男たちだ。 服も肌も、洗っても落ちないであろう炭のような粉で汚れている。
リーダー格の男が、緊張した面持ちで進み出る。
「お、俺の名前は……ジズルダンです。西の山岳地帯の出身で……」
「地形について話せ」
俺が促すと、彼は怯えながらも語り始めた。
「西の山は……岩肌が真っ黒で、草木も生えねぇ死んだ土地です。農業なんてとても無理で……」 「北の平原はどうだ?」 「あそこは『野生の馬』が多いです。足場はいいんですが、風が強すぎて……」
ふむ。 西の「黒い岩」については興味深いが、今のところ「不毛の地」という情報しかない。農業には不向きか。 だが、このジズルダンという男、観察眼が鋭い。風向きや植生をよく見ている。
「情報は悪くない。……だが、行政官としての知識は不足しているな」
「あ……そ、そうですか……」
ジズルダンが落胆して肩を落とす。 だが、彼が帰り際にポツリと言った。
「……ラナちゃんが、殿下はいい人だって言ってたから、役に立ちたかったんですが……残念です」
「ラナ? ……あの孤児の少女か?」
「はい。俺たちの集落の出身なんです。殿下が助けてくれたって聞いて……」
……なるほど。縁とは奇なものだ。 俺は少し考え、呼び止めた。
「待て、ジズルダン」
「は、はい?」
「行政官は無理だが……『調査員』としてなら席がある。西や北の地形調査、および資源のサンプル収集。……やれるか?」
「えっ!? は、はい! 山歩きなら誰にも負けません!」
「採用だ。まずはその『黒い岩』とやらを持ってこい。何かの役に立つかもしれん」
「ありがとうございます!」
ジズルダンは深々と頭を下げた。 今はまだ、ただの「調査員」。だが、この採用が後にこの国の運命を変えることになるとは、まだ誰も知らない。
◇
次は、先ほど試験会場で揉めていた男だ。
ドカドカと足音を立てて入ってきたのは、あの大男――ヴェスタだ。
「よう、領主様。また会ったな」
ヴェスタは椅子にドカッと座り、俺の机の上に一枚の汚い羊皮紙を広げた。 先ほどの「都市計画図」だ。
「単刀直入に聞くぞ、ヴェスタ。……なぜ商業区を『中央』に移そうと考えた?」
俺の問いに、ヴェスタは太い指で地図を叩いた。
「今の配置はクソだ。商人は東、職人は西、住居はバラバラ。……朝、職人が現場に行くだけで1時間も歩かされてる。その分の体力が無駄だろ?」
「……続けて」
「だから、中央の川沿いに『商業区』と『倉庫街』をまとめる。で、その周りを囲むように『居住区』を作るんだ。そうすりゃ、誰でも15分で職場に行ける」
職住近接による移動コストの削減。 さらに、川沿いへの集約による物流効率化。 現代の都市計画の概念そのものだ。
「だが、中央には今、スラムがあるぞ」
「だから『再開発』すんだよ! スラムの連中を雇って、自分たちで新しい集合住宅を作らせる。仕事も家も手に入って一石二鳥だろ!」
豪快すぎる理論。 だが、俺が机上の計算で悩んでいたパズルのピースが、カチリと嵌まる音がした。
「……合格だ」
俺は即決した。
「ヴェスタ。お前を『建設局長』に任命する。スラムの再開発、全権を任せる」 「へっ、任せな! この街を一番働きやすい場所に変えてやるよ!」
◇
そして、最後の候補者が現れた。 マティアスが「……少々、扱いづらい方ですが」と前置きして通したのは、一人の少女だった。
透き通るような金髪に、尖った耳。 エルフだ。 見た目は10代半ばの可憐な少女だが、その瞳には老成した冷ややかな知性が宿っている。
「モネだ。……あんたが、変わった試験をする領主か?」
彼女は挨拶もそこそこに、俺を値踏みするように見上げた。
「経済・商業部門の志望だったな。……商売の経験は?」 「エルフの国で50年、人間の国で30年ほど行商をやっていたわ。ま、そこの執事ちゃんよりは長いわね」
マティアスがピクリと眉を動かす。 見た目と経歴の矛盾。長命種か。
「では問おう。……現在のバールの市場において、小麦の価格を適正に保つにはどうすればいい?」
俺はジャブを打った。
「供給を増やせばいい、なんて馬鹿な答えは期待してないわよね?」
モネは鼻で笑った。
「この街の問題は供給量じゃない。流通通貨の信用不足よ。……『悪貨』が出回ってるせいで、商人が売り渋ってる。まずは貨幣の純度を保証して、信用の流動性を高めるのが先決だわ」
「ほう……」
グレシャムの法則(悪貨は良貨を駆逐する)を理解しているか。 ならば、次は少し意地悪な質問をしてみよう。
「では、もし俺が財政難を理由に、小麦に高い『関税』をかけたらどうなる?」
小麦は生活必需品だ。価格が上がっても、民は買わざるを得ない。 つまり短期的には確実に税収が増えるはずだ。
だが、モネは呆れたようにため息をついた。
「……あんた、本気で言ってる? 小麦のような『必需品』は、需要の価格弾力性が低いのよ」
「弾力性?」
俺は驚いて聞き返した。 現代経済学の用語が、自然と彼女の口から出たからだ。
「ええ。値段が上がっても、民は食べるために無理して買うわ。だから税収は増える。……でもね、その分、他の物を買う金が無くなるのよ」
モネは指を一本立てた。
「食費でカツカツになれば、服も道具も売れなくなる。結果、街全体の経済が死ぬわ。……税を取りたければ、弾力性の高い『嗜好品』から取るべきよ。金持ちの道楽なら、多少高くても文句は出ないでしょ?」
「……素晴らしい」
俺は思わず拍手をした。 必需品への課税がもたらす可処分所得の低下と、マクロ経済への悪影響。 それを「経験則」だけで完全に理解している。
現代知識を持つ俺と対等に話せる、唯一の知性だ。
「合格だ。いや、頼む」
俺は席を立った。
「モネ。君には『経済局長』のポストを用意する。俺と共に、この街の財布を握ってくれ」
「ふふん、悪い気はしないわね」
モネは不敵に微笑んだ。
「いいわ、付き合ってあげる。……その代わり、私の年齢を聞いたら殺すわよ?」
「……善処しよう」
◇
日が暮れる頃には、俺の周りには新たな「手足」たちが揃っていた。
内政総括のマティアス。 軍事・戦略のサラ。 都市計画のヴェスタ。 経済・財政のモネ。 衛生管理のミカ。 法務のバロン(王都組)。 そして、地域調査のジズルダン。
一癖も二癖もある連中だ。 だが、能力だけは間違いない。
「揃ったな」
俺は窓の外、夕闇に沈むバールの街を見下ろした。 ボロボロで、貧しく、何もない街。
だが、このメンバーならやれる。
「これより、第2区の『大改造』を開始する。……ついて来い、お前たち」
俺の号令に、天才たちがそれぞれの顔つきで頷いた。 反撃の準備は整った。 ここからが、本当の「国作り」だ。
お読みいただきありがとうございます!
役者は揃いました。 豪快な現場監督ヴェスタに、現代経済学を操るエルフのモネ。 そして、「黒粉の民」ジズルダンも調査員として加わりました。
マティアスが連れてきた「やけに忠誠心の高い」王都帰りの官僚たち……。 ルイは「自分への忠誠」だと思っていますが、その矛先は果たして……?
ともあれ、これで内政のアクセルを全開に踏み込めます。 次回からは、いよいよ彼らを使った「超・都市開発」が始まります。 まずはヴェスタと共に、スラム街の大改造へ!
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▼次回予告 第12話『スラム解体と、黒い宝石』 ヴェスタによるスラム再開発がスタート。 しかし、現場から「燃える石」が見つかったことで事態は急変する。 ルイが気づく、この世界を変えるエネルギー革命の正体とは?
次回も【明日18時】に更新します!
【この世界の豆知識】
■技術レベルと魔法の関係 この世界の技術レベルは、中世〜近世(大航海時代)程度です。 帆船、鉄・ミスリルの加工技術、活版印刷機などはありますが、産業革命(蒸気機関)には至っていません。 その理由は「魔法」が便利すぎるため。 火を起こすのも風を送るのも魔法で代用できるため、科学技術を発展させる動機が薄いのです。 また、火薬(大砲)も発明されていますが、「魔法を使えない弱者が使う卑怯な武器」という偏見があり、普及していません。 現実世界とは異なる、歪な技術体系を持っています。




