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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第1章:ゴミ溜めからの再建計画(ターンアラウンド) ~「死神」コンサルタントは、数字で悪徳貴族を黙らせる~
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第9話:ダンジョン制圧の報酬――街が、動き出す

ダンジョン攻略から数日後。


 冒険者ギルド「荒野の牙」は、かつてない熱気に包まれていた。


「おい、マジかよ! 銀貨20枚!? いつもの倍以上だぞ!」


「すげぇ……インセンティブなしでこれかよ!」


 カウンターには長蛇の列ができ、職員たちが次々と報酬袋を手渡している。


 今回、攻略に参加した冒険者は約60名。  この街の平均日給は銀貨8枚(約8000円)程度だが、俺は今回、その2倍以上――銀貨20枚(2万円)を2日分、全員に支給した。


 命懸けの仕事には、それに見合う対価が必要だ。  それが俺の流儀ポリシーだ。


「ルイ殿下。我々にまで、このような……」


 Bランクパーティ『黄金の盾』のリーダー、ダンルイが恐縮した様子で袋を見つめている。  彼らには、リーダー手当を含め、一人あたり金貨1枚(10万円)を支給した。


「受け取れ。君たちの働きがなければ、攻略はもっと長引いていた。適正な評価だ」


「……ありがとうございます。この金は、装備の強化に使わせていただきます」


 ダンルイたちは深々と頭を下げた。  周囲の冒険者たちも、俺を見る目に敬意が混じり始めている。


 だが、ここで終わらせてはならない。  最も重要なのは、莫大な利益を生んだ「ミスリル」の使い道だ。


「で、殿下! ミスリルの売上はどうなるんだ? 俺たちで山分けじゃねぇのか?」


 一人の冒険者が声を上げると、ざわめきが広がった。  通常、ダンジョンの戦利品は、参加者で分配するのがルールだ。


 俺は片手を上げて静制し、ガントの横に立った。


「ミスリル鉱脈の売却益は、金貨250枚。その他の素材を含め、総利益は約350枚だ」


 ゴクリ、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。  彼らにとっては天文学的な数字だ。


「そのうち、金貨30枚はギルドの運営費に充てる。ボロボロの施設の修繕、備品の購入、そして――不足している職員を5名、新規雇用するためだ」


「おおっ!」と職員たちから歓声が上がる。  だが、冒険者たちはまだ納得していない顔だ。


「残りの金貨320枚は――全て、『街の財政』に入れる」


「はあ!? ふざけんな! 俺たちが稼いだ金だぞ!」


「横領じゃねぇか!」


 予想通りの野次が飛ぶ。  俺は冷静に、彼らを見渡した。


「今ここで金を配れば、お前たちはどうする? 一晩で酒に変えて、それで終わりだろう」


 図星を突かれ、数人が口ごもる。


「だが、この金を街のインフラと流通に使えばどうなるか。……道路が整備されれば、商人が来る。商人が来れば、より良質な装備が安く手に入り、高額な依頼クエストが常設されるようになる」


 俺は言葉に熱を込めた。


「街が豊かになれば、商人からの護衛依頼や、高額な討伐依頼クエストが常設されるようになる。……今の目先の金貨数枚と、未来の永続的な高収入。どちらが得か、計算できない馬鹿はここにはいないはずだ」


「ぐっ……」


「俺に投資しろ。1年後には、今の倍を稼げる環境を用意してやる」


 静寂が落ちた。  やがて、誰かがポツリと言った。


「……ま、今回死人はゼロだったしな」


「給料も倍もらったし、殿下の言うことなら、信じてみるか……」


 不満の声は、納得の声へと変わっていった。  交渉成立だ。


          ◇


 ギルドを出た俺は、隣を歩くサラに声をかけた。


「サラ。君にはギルドの職員として残ってもらうが……いずれは、俺の『左腕』になってもらうつもりだ」


「左腕?」


「ああ。ゆくゆくは軍を組織する。その時の司令官候補だ。……だが、今はまだその段階ではない。このギルドのシステムが定着するまで、引き続き現場を頼む」


「ふふっ。軍の司令官、ね……」


 サラは満更でもなさそうに微笑んだ。


「悪くない響きね。分かったわ、任せて」


 頼もしい相棒と別れ、通りに出ると、一台の荷馬車が目に入った。  見慣れない意匠。隣街からの行商人だ。


「おや、珍しいですね」


 俺が声をかけると、商人は人好きのする笑顔を見せた。


「ええ。最近、近場のモンスター狩りが進んで、前より街道が安全になったと聞きましてね。久しぶりに来てみたんですよ」


「ほう……」


「ただまあ、まだ盗賊や犯罪が多いですから。ギルドで冒険者を護衛に雇わせてもらいましたよ」


 商人が指差す先には、数人の冒険者が誇らしげに立っていた。  犯罪が多いのは頭の痛い問題だ。本来なら衛兵が取り締まるべき案件だろう。


(……だが、今はそれでいい)


 俺は冷徹に計算した。  治安の悪さが、逆に「護衛」という雇用を生み、冒険者に金が回る。  経済の循環としては悪くない。治安維持は、街が豊かになってから考えればいいことだ。


(よし、血流(流通)が戻り始めた)


 俺は確かな手応えを感じていた。


          ◇


 執務室に戻った俺は、早速改革に着手した。


 手に入れた資金を元手に、スラム街の解体と再開発、公共事業を一気に発注する。  税制も簡素化し、商業を活性化させる。


「……スキル発動、【国家盤面】」


 俺は中空に浮かぶホログラムを確認した。


【第2区首都バール】 経済指数:12 → 19(↑7) 治安指数:8 → 10(↑2) 支持率:35%(↑15%)


「よし……!」


 俺は思わずガッツポーズをした。  たった数日で、経済指数が7ポイントも上昇している。  瀕死だった街が、蘇ろうとしている証拠だ。


「完璧だ。このままいけば、来月にはさらに伸びる」


 俺が満足げに書類にサインをしていると、マティアスが沈痛な面持ちで入ってきた。


「……殿下。申し上げにくいのですが」


「どうした? 何か問題でも?」


「資金が……ショート寸前でございます」


 俺の手が止まる。


「な、なんだと? ミスリルの売却益があったはずだ」


「はい。ですが、前領主の借金返済と、今回発注した建設資材の購入費で、ほぼ底をつきました」


 マティアスが帳簿を開く。


「経済は回っていますが、税収が入ってくるのは『月末』です。……帳簿上は黒字ですが、今、手元にはパンを買う現金キャッシュすら残っておりません」


 黒字倒産。  企業の再建現場でよく見る光景が、今、俺の目の前にあった。


          ◇


 その夜。突然視察をしにきた、竜人国の使者との食事中のことであった。昔から竜人国との繋がりが強いため、このような地方都市でも派遣するらしい。非常に非効率なことだとは思うのだが。


 現在の改革について話し、しかし、あくまでも外国なので重要な国家安全に関わるようなものや発展のヒントになるようなものを避けて話していた。


「ーーといった方向性で考えております。竜人国ではスラムなどの対応はどうされているのですか?」


 その時だった。


 ――ドガァァン!!


「通せ! 領主に直訴だ!!」


 怒号と共に、食堂の扉が開かれた。  衛兵を振り切り、ボロボロの服を着た男がなだれ込んでくる。


「無礼者! 下がれ!」


 マティアスが止めようとするが、男は獣のような目で俺を睨みつけ――テーブルの上のパンをひったくった。


 ガツガツと、汚れた手でパンを貪り食う。


「うめぇ……! くそっ、なんであんただけ!」


「き、貴様……!」


 俺はカッとなって立ち上がった。  パンを奪われたことではない。この街の長である俺への敬意のなさと、秩序を乱す行為に腹が立ったのだ。


「何の真似だ! 俺は今、この街を救うために必死に働いているんだぞ! 無礼な振る舞いは許さん!」


「救うだと……?」


 男はパンくずを飛ばしながら、俺を睨み返した。  その目には、明確な殺意と、深い絶望が宿っていた。


「ふざけるな! あんたがスラムを取り壊したせいで、俺たちは寝床を失ったんだぞ!」


「な……」


「『仮設住宅ができるまで待て』? そんなもん、影も形もねぇじゃねぇか! 工事は止まったままだ!」


「ま、待て。業者が手配しているはずだ」


「してねぇよ! 資材が届かねぇからって、大工は来ねぇ! 俺たちはこの寒空の下、何も食わずに震えてるんだぞ! 子供だって、何人も倒れてる!」


「ッ……」


 俺は言葉を失い、よろめいた。


 資材不足。現金のショート。  それらが連鎖し、現場が止まっていた?


 いや、違う。  何よりの罪は――俺が「現場」を確認せず、業者に丸投げして「最適化」を急ぎすぎたことだ。


(俺は……数字しか見ていなかったのか?)


 さっき見た、経済指数「19」という数字。  その上昇したグラフの影で、今この瞬間、飢えて死にかけている人間がいる。


 俺の自信満々な改革が、彼らを追い詰めたのだ。  怒りは一瞬で消え失せ、冷たい罪悪感が胸を満たした。


「……すまなかった」


 俺は震える手で、残っていたスープの皿を男の前に差し出した。


「食え。……そして、足りない分はすぐに用意する」


「へっ……?」


 男が呆気にとられる中、俺はマティアスに向き直った。


「マティアス。北の『第1区』へ連絡をとれ」


「第1区……でございますか? あそこは我々と対立しており、足元を見てきますぞ」


「構わん」


 俺は断言した。  プライドも、将来の不利益も、今はどうでもいい。


「どんなにふっかけられてもいい。小麦を緊急輸入しろ。……民を飢えさせない。それが、統治者の最低条件ベースラインだ」


 俺の決意に、マティアスは静かに頭を下げた。


「……御意。直ちに手配いたします」


 そして先ほどまでの会議はまた先延ばしすることにした。


 窓の外では、冷たい風が吹き荒れている。  この冬を越せなければ、街の未来などない。


 俺の本当の戦いは、ここからだった。



お読みいただきありがとうございます!


ミスリルで大金を得て、一気に改革を進めたルイ。 スキルで「経済指数」が上がったのを見て自信満々でしたが……現実は残酷でした。


帳簿上の黒字と、手元の現金不足。 そして現場確認を怠ったことによる、最貧困層へのしわ寄せ。


乱入者の男に対し、最初は「俺は頑張っているのに!」と反論してしまったルイ。 しかし、すぐに自分の過ちに気づきました。 プライドを捨てて頭を下げられるのが、ルイの成長ですね。


ここからどうやってこの危機を乗り越えるのか? 応援してくださる方は、ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントをお願いします! (ブックマークもぜひお願いします!)


▼次回予告 第10話『パンとサーカス』 第1区との交渉は難航。 「小麦が欲しければ、将来の採掘権をよこせ」 足元を見る隣人に対し、ルイとマティアスが見せる起死回生の一手とは?


次回も【明日18時】に更新します!


【この世界の豆知識】


■王国の4つの行政区画 この王国は中央の「王都」を中心に、東西南北の4つの自治区に分かれています。


【王区(中央)】 王族や高位貴族が住む首都。魔術と科学の最高技術が独占されている。


【第1区(北)】 広大な農地を持つ「穀倉地帯」。食料自給率が高く裕福だが、保守的で他区を見下している。次回、ルイが交渉に向かう相手。さらに北にある「獣人国」との国境警備を担う穀倉地帯。 裕福だが、万年の水不足に悩まされている(灌漑できる大河がなく雨頼みのため、農業用水だけでギリギリの状態)。


【第2区(西)】ルイの領地。未開拓地が多く「最貧区」と呼ばれるが、隣の「竜人国」との国交が安定しているため、防衛費が極端に低いのが救い。 国の二大河川の一つ「ラナ川」が流れ、南部には熱帯地域も広がるなど、実は資源のポテンシャルが高い。


【第3区(東)】 険しい山に囲まれた鉱山地帯。天然の要害であるため軍隊が必要なく、治安維持部隊のみが配置されている。鉱石資源で潤っている。ガモン男爵が宝石を買っていたのはここ。


【第4区(南)】 国境沿いの紛争地帯。常に戦争が絶えず、軍事力が突出している。かつての「旧統一帝国」の首都跡がある地域。過去の遺産や歴史が眠る場所。

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