第1-1 話 『最適化』された追放劇 ~兄上、その浪費は非効率(コスト)ですよ~
はじめまして。あるいはこんにちは。 「数字」と「論理」で異世界を攻略する、元コンサルタント王子の物語です。
楽しんでいただけたら幸いです
※初期構成を調整し、物語導入を読みやすくするため、
旧・第1話の内容を3話に分割して再構成しています。
内容の変更はありません。
王宮の謁見の間は、目が眩むほどに輝いていた。 だが、その輝きは品性とは程遠い。
壁を埋め尽くすのは、色彩の調和を無視した金箔のレリーフ。床には、南方の希少獣の毛皮がこれ見よがしに敷き詰められ、天井からは今にも落ちてきそうなほど巨大なクリスタルのシャンデリアがぶら下がっている。 一言で言えば、成金趣味。 あるいは、破綻寸前の財政を隠すための、必死の厚化粧だ。
「――よって、貴様のような呪われた黒髪の無能は、王家に不要である!」
玉座の前で、第一王子が太い腕を振り上げ、唾を飛ばして叫んでいた。 鍛え抜かれた筋肉質の体躯。その体には、一度も戦場に出たことのない白銀の鎧が巻かれている。 その隣には、対象的に細身の第二王子が、蛇のような薄い笑みを浮かべて立っていた。指には十本すべての指に、領地一つが買えるほどの魔石の指輪が光っている。
そして、玉座に座る父王。 かつては賢王と呼ばれた男の瞳は、今は虚ろに濁り、息子たちの暴言にただ頷くだけの人形と化していた。
「おい、聞いているのかルイ! 貴様の行き先は『第2区』だ。あの薄汚いゴミ溜めがお前にはお似合いだとな!」
第一王子の怒号が、趣味の悪い広間に反響する。 だが、罵倒を浴びる当の俺――第三王子ルイ・フォン・アルカディア(中身は21歳の大学生、古田ルイ)の思考は、恐怖や絶望とは無縁の場所にあった。
俺の視界には、彼らの姿ではなく、脳内で弾き出した『数字』が浮かんでいる。
(……第一王子の筋肉増強剤および、儀礼用武具のメンテナンス費用。推定、月間金貨五百枚) (……第二王子の装飾品購入費、および裏社会への口止め料。推定、月間金貨八百枚) (これに王宮の無意味な改装費を含めると……この国の国家予算の約30%が、この部屋にいる二人の『遊興費』として溶けている計算か)
結論が出た。 非効率だ。 この国は、経営破綻寸前のブラック企業そのものである。
「……ふっ」
思わず、口元に冷笑が浮かんだ。 それをどう勘違いしたのか、第二王子が嘲るように口を挟む。
「ククク……あまりのショックに頭がおかしくなったか? 第2区といえば、黒い石しかでない資源のない貧民が溢れる不毛の大地。事実上の死刑宣告だよ、弟よ」
死刑宣告、か。 確かに一般的な感性ならそうだろう。 だが、俺の計算は異なる。
今の王宮に留まれば、いずれこの馬鹿げた浪費のツケを払わされ、国ごと沈没する。 だが、辺境の第2区ならば? 物理的に距離が離れれば、この兄たちの干渉を受けずに済む。 腐敗しているらしいが、既得権益さえ壊せば、あとは『改善』するしかないということだ。この国が滅ぶ前に力をつけて王になって戻りたいが、国が自滅しても、2区だけでも独立して王になってやる。
(ゼロからのスタートではない。マイナスからのスタートだ。だが――誰にも邪魔されずに経営できる)
『最適解だ』
「――承知いたしました」
俺は表情筋一つ動かさず、静かに告げた。 土下座も、涙ながらの命乞いもしない。ただ事務的に、配送業者が伝票を受け取るような手つきで追放を受け入れる。
「直ちに出立します」
踵を返し、出口へと歩き出す俺の背中に、兄たちの困惑した声が飛んだ。
「お、おい! 待て! 泣いて詫びないのか!?」
「今なら靴を舐めれば、追放だけは許してやらんでもないぞ! 負け惜しみを言うな!」
負け惜しみ? 俺は足を止め、肩越しに彼らを振り返った。 哀れみすら感じるほどに、彼らは何も見えていない。彼らは泣き喚く自分を楽しみにしていたようだ。
「お断りします」
「なっ……貴様、父上に向かって!」
「議論の余地がない。時間の無駄ですので」
それだけ言い捨て、俺は二度と振り返ることなく、その煌びやかなゴミ溜めを後にした。
背後で罵倒が聞こえるが、もはや俺にとってはただの環境音だ。 歩き出した瞬間、俺の脳内はすでに『第2区』の統治計画を高速で展開していた。
(まずは現地精査。次に現状分析。そして課題解決……)
思考が加速する。 定めるべき戦略の柱は3つ。
統治は、既存権力を粛清する『ハード・ランディング』か、それとも傀儡として利用する『ソフト・ランディング』か。 経済は、国家主導の『財政出動』で回すか、規制緩和による『自由競争』で爆発させるか。 民衆は、法と規律で縛るか、新たな『概念』で熱狂させるか。
企業経営と国家運営。 規模も目的も違うかもしれない。だが、組織を最適化し、利益を最大化するという本質に変わりはない。 ――俺になら、できる。
(俺なら、確実に第2区をこの国「最強」の都市に作り変えられる)
そして力をつけ、いずれまたこの王都に戻り――王座ごとすべてを奪い返す。 それが、俺を追放した愚か者たちへの、最も効率的で残酷な復讐だ。
(現代のトップコンサルタントにとっては、造作もないことだ)
前世で味わった、月100時間残業の地獄の日々。 あの理不尽な修羅場に比べれば、国の1つや2つ立て直すなど、児戯に等しい。
「さて……仕事の始まりだ」
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