つのくまくん
つのくまくんは、つのがはえていました。
なんでぼくはほかのくまとちがうのかな。みにくいつのでかっこわるいなー。なんでぼくはこんな名前なんだろう。学校行きたくないなー。つのくまくんは、いつも悩んでいました。
学校に初めて行く前の日、あまりに悩んでいるつのくまくんを見たママくまがとんがりぼうしを作ってくれました。
「パパが絵をかいて、ママが作ったのよ。これをかぶって行きなさい」
「わーい、かっこいいぼうしだー」。
つのくまくんはよろこんで学校に行きました。
しばらくしてつのくまくんは学校で人気くまです。
「いいなーそのぼうし、かっこいいなー」
自分のみにくいつののことなんか忘れて、つのくまくんは得意気です。
「ちょうだーい」
お友達が帽子をひっぱりました。
「だめ!」
つのくまくんは思わずつきとばしてしまいました。お友達は泣いてしまいました。
「ごめんね、ごめんね。このぼうしはママとパパからもらった大切なぼうしなんだ」
つのくまくんは自分のつののことを思い出して悲しくなってしまいました。つのくまくんも泣き出してしまいました。
数日後、みんなでかけっこです。
「よーいどん!」
みんな一生懸命走ります。
「がんばれがんばれ」
「まけるなまけるな」
つのくまくんとお友達のせりあいです。ゴールのすぐ手前、つのくまくんは転んでしまいました。
でも、
ゴーーール!
ぼうしの先っぽが先にゴールにつきました。
つのくまくんは一等賞でした。
「やったー!」
ところが、
「ずるいよずるいよ」
「ぼうしのおかげで一等賞じゃん」
みんなさわぎだしました。
「ぼうし取れよ」
「取らないとずるだぞ」
「早く取ってもう一回走ろう」
「とーれ、とーれ」
つのくまくんは困ってしまいました。つのくまくんがおろおろしていると後ろから一匹のお友達が帽子を取ってしまいました。
「ほら取ったぞ」
お友達は得意気です。
だけど、みんなびっくりです。ぼうしの下からまたぼうしが、いや、りっぱなつのがあったからです。
「わー、なんだあれ」
「へんなのー」
「だから、ぼうしをかぶってたんだ」
秘密がばれてつのくまくんは泣き出してしまいました。落ちていたぼうしを拾うと、そのまま家に向かって泣きながらかけっこです。
「ままー」
「みんなにばれちゃったよ。もう学校行けないよ。もうお友達に会えないよ」
ママくまはやさしくつのくまくんを見つめます。
「きっとだいじょうぶよ。お友達を信じましょう。今日はとりあえずお休みなさいな」
次の日の朝、つのくまくんはいつもより遅く起きました。
「学校行きたくないな。ママ、休んでいいでしょ」
ママくまはやさしく、でもきっぱりと言いました。
「行ってきなさい」
「でもね、行って本当につらかったらいつでも帰ってきていいわよ。ママとパパはなにがあってもあなたの味方よ」
少しだけ元気が出たつのくまくんは、ぼうしをかぶって、とぼとぼと学校へと歩き出しました。
つのくまくんは遅れてしまいましたが、なんとか教室の前まで来ました。もう授業は始まっています。おそるおそる、うつむきながらドアを開けます。
「おはよう つのくまくん」
「おはよう」
クラスのみんなが、つのくまくんにあいさつしました。つのくまくんはうれしくてすこし顔をあげて「おはよう」と言いました。そして、みんなの様子が違うことに気づきました。
あれ、みんなけがしてる。先生も生徒も体のどこかに包帯を巻いていたりガーゼをしたりしています。
「みんなどうしたの?」
「ぼくはここだけ毛の色がちがうからはずかしいんだ」
「わたしは右耳が少し曲がってるの」
「先生は目の大きさが右と左で違うんだ」
「おれは薬指だけすごく短いんだ」
みんな口々にそのわけを言います。
つのくまくんは言いました。
「ぜんぜんおかしくないよ。みんなけがもしてないのにかくす必要なんてないよ」
すると、みんな口をそろえて言いました。
「じゃあ、つのくまくんもかくさなくていいね」
「昨日はごめんね」
ぼうしを取ったお友達が言いました。
「わたしもごめん、へんなのとか言って」
「ぼくたち気づいたんだ。最初はつのにびっくりしてへんだなぁとか思ったけど、ぼくたちもそれぞれへんなところあるなぁって。でも先生にそのことを言ったら、それはへんなものじゃなくて、それもふくめてぼくたちなんだって。おたがいそれを認め合えたら、かくしたってかくさなくたっていいんだよって」
「ぼくたち、つのがあったって、なくったってつのくまくんとは友達さ」
「だから、つのくまくんもかくしたってかくさなくたっていいんだよ」
みんなもう包帯やガーゼを取っています。
それからつのはつのくまくんのじまんになりました。ばかにされても平気です。これもいっしょでぼくなんだ。気にしないお友達もたくさんいます。
こんなお友達もいました。
「ぼくは最初から知ってたよ、だって名前がつのくまくんじゃないか」
みんな「そりゃそうか」と笑いました。
でもそのとき、つのくまくんは気がつきました。
「ぼくがぼくを好きになるようにパパとママがこの名前をくれたんだ。つのがなかったら、ただのくま、つのがあるからぼくなんだ」
もうぼうしは必要なくなりました。でも、たまにかぶっていきます。だって大好きなママとパパからのプレゼントだから。